救護団体クレム

都築祐太

第1話戦禍の救い

その日も空はどんよりしていた。

辺りは無数の穴が広がり、子どもの頃掘った落とし穴が無数にあるように感じた。

しかし、それは子どもが掘ったものではなく砲弾によってできた穴であった。隠れている塹壕の付近には戦友達の体の一部がある。手や足が、または胴体が本来の形でなくなり転がっている。直視しなくても目に入ってしまうそれらはそのまま放置されている。

彼らを取りかえそうものなら、次あぁなるのは俺だとバカでも解る。ここに来て1ヶ月、塹壕から塹壕へ移動するたび、必ず同じ風景を見る。よく生き残っていると考えるが、ただ運が良いだけ、今日はどうなるのか明日はどうか深く考えると精神的に滅入る。だから考えるが

「生き残ってやる」

これが戦場での最終的に考えつく答えであった。

ドオーン、ドオーンと友軍の大砲の音が聞こえてきた。今日も始まる。敵陣地の占領作戦、始めに砲兵の支援攻撃のあと俺ら歩兵の突撃が行われる。

「派手に撃ってくれよ、砲兵」

誰ともなく聞こえてくる。それは願いであり願望である。ここで砲撃がうまくいけば、歩兵の被害は少なくなるが上手く当たらなかったら俺らは死ぬ、昨日の突撃で周りが多く死んだのも塹壕に攻撃が上手く当たらなかったからだ。突撃するまで砲撃が上手くったかはわからない、まるでモルモットになった気分だ。

「着剣、突撃用意!」

中隊長の指示で素早く銃剣を付けると、ラッパが吹かれる。

「突撃、前へ!」

砲撃が止まないうちに攻撃に移る、多少味方の攻撃で犠牲になる者も出るがその方が全体の犠牲が少ないらしいが敵味方から攻撃を受ける俺らには一緒であった、敵の機関銃で倒れるもの砲撃で四肢がふき飛ぶ者そこは地獄であった。誰も助けに来ないこの戦場で唯一頼みになるのは自分自身であった。

「うお」

足に激痛が走った。急に力が入らない、その場に倒れこんだ。

ズボンが血で黒ずんできた。どうやら銃弾が当たったらしい、何とか動こうとするが腕だけの力じゃなかなか進めない。

「助けてくれ、誰か!」

叫ぶが誰も助けてくれない。薄情ではない、ここで止まれば的になる。とにかく進むのが死なない術である。たとえ戦友が助けを求めようとも、

「クソ、クソ!動けよ!クソが!」

足を叩き、叫ぶが負傷した足は動かない。痛みは余り感じなくなった。死の恐怖が支配し始めた。

このままだと破傷風で死ぬか、砲撃に当たって死ぬか、どっちにしろ死ぬしかない。

たとえ後方陣地に帰れたとしてもそこには医者も薬もない。 

「もう、だめだ」

腰から手榴弾を取り出し、せめて苦しまずに死にたいとピンを抜こうとしたその時だった。

「負傷兵発見!救助車急げ!」

頭に白色のヘルメットをし、無線機を背負った小柄の兵士が飛び込んできた。初め幻覚と思った。

「手握れる?私の手握って!」

しかしそれは幻覚でなかった。確かな感触そして暖かかった。

「どうだ、負傷者の容態は?」

もう一人同じく白色のヘルメットの兵士が視界に飛び込んだ。

「足を負傷している模様。止血および傷口の消毒を実施中」

「了解だ。すぐタンカに乗せて救助車へ!」

すると遠くからタイヤの代わりにキャタピラで走ってくるトラックがやって来た。

このトラックも白色で赤字の線が描かれ戦場では目立ち過ぎる存在であった。

「すぐに救助所に搬送しますから、それまで我慢してください」

タンカに乗せられた俺に小柄の兵士が呼び掛けた。安心からか、怪我のせいか段々意識が遠くなってきた。

「君たちはどこの部隊?」

最後にそう聞くと、

「私たちは救助団体クレムです」

それを聞くと俺は意識を失った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る