自殺
柳
第1話
生きていくのに疲れてしまった。
会社も、人も、親も、兄妹も、恋人も。何もかもが煩わしくなった。
俺はただ普通でいたかった。
普通に暮らして、毎日のように会社に行って、そして内には結婚して家庭を持つ。
そんな普通を望んで何が悪かったというのだろうか。
親が重い病気に掛かった。
保険に入っていなかったから莫大な医療費を求められた。
そんな金、俺にはなかったのに、それでも何とかしてくれと懇願された。
親だから何とかしようとした。
なのに、兄は隠れて借金をしていた。
保証人を俺の名義にして姿をくらました。
携帯にかけても繋がらない。
それでも僕は頑張ったよ。
今度は恋人が去った。何も言わずにいなくなった。
悪いことは重なるもので、会社が倒産するのだという話になった。
もう無理だと思った。
だから僕はひとりで、誰にも言わずに崖の淵に立った。
下方には荒々しい波が壁にぶつかって跳ねている。
あと一歩前へ踏み出せば何もかもから解放される。
後は決断するだけだった。
「そんなとこで何してるの?」
誰かの声が近くから聞こえてきた。
振り返れば驚いたことに去ったはずの彼女がすぐ後ろに立っていた。
「なに? 自殺でもしようとしての?」
そう言って彼女は僕に近付き、そっと手を掴んだ。震えていた。
「勝手に……一人で!死ぬなんて許さないんだから」
怒ったような顔で、涙で瞳を濡らしながら僕を睨んでいた。
「お金ならあるよ。実家から借りてきたから。だから、こっちにきて」
僕は彼女に手を引かれて来た道を引き返した。
無言のまま運転席に乗り、彼女は助手席に座った。
今まで泣いていたのか、時折鼻をすすていた。
ふと、僕は無意識に呟いた。
「結婚、しようか」
束の間の沈黙の後、彼女は何度も頷いていた
自殺 柳 @yanagi0404
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