第71話 古の刑罰の復活

 その頃、クリスティーナにはさらなる悲劇が待ち構えていた。


 クリスティーナは王城に戻されると、すぐに地下の特別隔離房に収監された。薄暗く、外の景色は一切見えない。視界に映るのは石壁と、部屋唯一の出入り口である鉄扉だけ。

 普段よりも鎖抑金で体を何重にも巻かれ、優れた身体能力を持つ彼女も腕一本さえ振ることすらできない。クリスティーナは生まれたままの姿で仰向けに台の上へ固定され、今が昼なのか夜なのか分からないまま「地獄」とも言えるほどに退屈な時間を過ごしていた。


 あるとき、ギィギィと音を立てて扉が開かれる。カツカツと靴音が鳴り響き、クリスティーナの横で止まった。


「お久し振りですね、姉上」

「ジュリウス……」


 来訪者は、弟のジュリウスだった。金銀宝石が散りばめられた豪華な装飾品を身に纏い、憎たらしい笑みを浮かべる。


「いかがですか。姉上に喜んでもらえるように、この独房を鎖抑金を使って改装したんですよ」

「貴様……」


 仰向けのまま動けないクリスティーナを、ジュリウスは見下ろした。


「今、我々は姉上にどんな刑を科すか議論しています。功績を偽って最高権力を手に入れたわけですから、かなり重い罪が与えられるでしょうね」

「ほ、本当に私はギルダを殺したんだ!」

「だったら、なぜ彼は生きていたのです?」

「それは……」


 クリスティーナは言葉を詰まらせた。

 先日の戦闘でも、自分は確かにギルダを殺したはず。心臓を貫き、胴を切り裂き、頭にも剣を刺した。これをやって死なない魔族がいるわけがない。

 しかし、なぜかギルダは甦った。普通の心肺蘇生とは違う、何か特別な方法で。以前の戦争で彼が生き延びたのも、おそらく同じ方法だろう。

 クリスティーナには、彼の甦るカラクリがどうしても分からなかった。


「確か、昔、女の重罪人に亜人種の子どもを孕ませる――という刑罰がありましたねぇ。『穢らわしい』という理由で姉上が廃止させましたが」

「まさか……『亜人受胎の刑』のことか?」

「これを機に、その刑罰を復活させてみるのは如何でしょうか、姉上」

「貴様……女の操を何だと思ってるんだ!」

「おっと、あくまで研究目的ですよ。今、姉上が身籠っている新種の亜人種の生態を解明するために必要なことです」


 ダイロンに犯されてから、たった数日でクリスティーナの腹はポコリと膨れ上がっていた。人の子よりも圧倒的な速さで成長している。胎内で彼女の魔力を吸い上げ、魔力切れの症状が慢性的に続いていく。


「嫌だ……頼む、こいつだけは堕ろしてくれ……!」


 クリスティーナは自分が亜人種の子どもを産むなんて、考えたこともなかった。自分ほどの腕前があれば、モンスターなどに負けることはない――そんな風に思っていたのかもしれない。

 しかし、彼女の願いが届くことはなく、ジュリウスは部屋を出て行く。守衛に鉄扉を閉められ、クリスティーナは鎖抑金に繋がれたまま一人になった。


 胎内には、あの醜い亜人種の子どもが蠢いている。石造りの冷たい部屋に、クリスティーナの嗚咽が響き渡った。

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