第13話 僧侶プラリムと仲間たち

 宿屋を出てしばらく歩くと、同業者組合の支部へ繋がる大通りへ道が合流する。


「あっ、みなさーん!」


 そこには同じパーティを組んでいる仲間たちが歩いており、雑踏の中に彼らの背中が見える。彼らも僧侶プラリムと同じく、支部へ向かっていた。


 栗色の頭髪をしているのが、剣士のカイト。

 全身にプロテクターを纏っているのが、盾使いのロベルト。

 スレンダーな体型をした美人が、魔導士のアリサ。


 この三人が僧侶プラリムの友達だ。


「おはようございます、皆さん」

「今日は早いな、プラリム」

「少し……早起きしたんです」


「妹に嘘吐いて逃げてきた」なんて言えるわけもなく、プラリム適当に誤魔化した。


「ところで、昨日カイト殿が帰り道に――」

「おい、その話はしないっていう約束だろ!」

「ハハハハッ!」


 彼らと談笑しながら歩く。それが僧侶プラリムの不安を和らげる方法だった。

 彼らに守られているようで、不思議と心が落ち着く。冒険者として戦場に出るのは恐いが、彼らに出会えたのは幸運だったと思えた。


「何か、また手頃な依頼が見つかるといいんだけどなぁ」

「森に入るような依頼は勘弁してほしいわね」

「じゃあ、また溜め池周りの巨大ナメクジでも退治するか?」

「そっちも嫌なんだけどぉ」

「ハハハハハッ」


 やがて支部の門が見えてくる。


 いつもは戦士で溢れ返っている賑やかな建物だ。同業者組合に所属するには特に細かい条件はなく、「精霊の加護」を持つ者なら誰でも入れる。そのためか、昼間から酔っ払っているような、特徴の濃い冒険者がチラホラ彷徨うろつくことも珍しくない。稀に喧嘩も起こり、全体的に雰囲気はやや混沌とした場所だった。


「おい、何なんだ、あれは?」

「物々しいですね……」


 しかし、この日は少し空気が違っていた。

 支部の門前に、武器を担いだ人々が集まっている。彼らは毛並みの整った大馬に跨がり、隊列を組んでいるかのように見えた。


 彼らは皆、この周辺に住む人間ではない。彼らが纏っている装備の特徴からして、中央政府から派遣されてきた騎士たちだろう。

 全員が「精霊の加護」を受けているわけではないが、それなりの実力は持っているはずだ。


「おい、見ろよ。アイツ、王女直属の勇傑騎士団だぜ」

「珍しいですね。こんな場所にいるなんて」


 その人混みの中に三人ほど銀色のプレートを纏った騎士が紛れており、胸当てには女性のような紋章が彫られていた。


「精霊の加護」を受けている者で、あの紋章の意味を知らぬ者はいない。


 国の抱える騎士団は数あれど、その中でも特に実力者の揃っている「勇傑騎士団」に所属する人間であることを示す証。

 圧倒的な権威と武力の両方を兼ね備えた、国内最強の騎士団である。


 おそらく、あの集団を束ねているのも彼らだ。国家直属のあらゆる騎士団を一声かけるだけで動かせる。それだけ彼らは国内で上位に立っているのだ。


 普段は王都にて王族関係者の身辺警護や犯罪組織の撲滅運動などを行っている彼らだが、なぜか今はこんな辺境にいる。そんな不可解な状況に、僧侶プラリムたちは首を傾げた。


「もしかしてウチの組合ギルドから誰かを引き抜きに来たとか?」

「それだったらいいよなぁ。高い給料を貰って、国民にチヤホヤされながら過ごせるんだぜ」

「でも、入団条件は厳しいって聞きましたけど」


 勇傑騎士団に入るのは容易ではない。入団試験で実力は勿論、国家の顔となるため素行や経歴も重視される。


 稀に、同業者組合にて顕著な活躍をした冒険者を引き抜いて入団させるケースもあるらしい。

 スカウトされることを目指し、同業者組合での依頼に精を出す冒険者も多いと聞く。彼らの存在が、こうした地方の冒険者を奮起させる燃料になっているのは確かだろう。


 彼らのうち一人がプラリムたちに気付くと、馬を降りてゆっくりとこちらへ歩いてきた。

 爽やかな雰囲気を漂わせる、金髪の青年だ。ベルトには数本の剣が添えられている。

 若く朗らかな男だが、その姿勢や歩き方からして、相当な腕の持ち主であることを剣士カイトは感じ取っていた。


「あなたがカイト様で間違いありませんか?」

「え……あ、はい。そうですけど」

「ワタクシ、勇傑騎士団のリミルと申します」

「は、はぁ……」


 まさか本当にスカウトなのだろうか?


 そんな予感が頭をよぎってドキリとしたが、冷静に考えて依頼を失敗したばかりの自分たちに引き抜きの話なんて来るわけがない。


 おそらく彼らが訪れた理由は、についてだろう。


「最近、組合から『周辺の森に魔族が現れた』という通報を伺いまして、その詳細な調査のために参りました」


 この街の近くに位置する森林は、人間族の領地だ。つまり、森に魔族が現れているということは、国境侵犯されていることになる。


 中央政府はこの事態を重く受け止めたのだろう。いつまでも噂を野放しにすれば国民の不安も高まるだろうし、国家の防衛態勢も疑問視されかねない。


 森林周辺はモンスターが徘徊し、警備などできたものではない。しかし、地図的には人間族の領地として色塗られており、知らぬ間に森林資源を奪われるのも問題だ。


 厳重に警備はできないが、奪われると困る場所。それがここの森林地区なのだ。


「この報告を最初にしたのはカイト様だと伺いまして、確認のために我々をその場所へ案内してほしいのです」

「分かりました。これから案内すればいいんですね?」

「はい。宜しくお願いします。できたら、各々からも詳しく話を伺いたいので、カイト様のパーティ全員で同行できますか?」

「は、はい。問題ありません」


 こうして、僧侶プラリムたちは再びあの森へ入ることになった。その日は依頼をする予定もなかったし、勇傑騎士団からのお願いを断るのは無礼だろう。


 プラリムはあの魔族に遭遇する恐怖を抱えていたが、今回は何人もの強い騎士団員が同行する。全滅して命まで刈り取られる、なんてことはないはずだ。


 そして、再び僧侶プラリムはあの森に足を踏み入れた。

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