第五章 喪失と疑問
お姉さんの家から帰宅する。お姉さんの日記を、黙って拝借していった。
「もらってどうするんだよ……」
と独りごちる。しかし、なんていうか、あの家にあのまま放置していくのは忍びなかったのだ。
僕の知っているお姉さんのご両親は、悪い人ではなかった。むしろ僕には優しくしてくれて、いい人だったと思う。
しかし、お姉さんの日記を読む限り、それは一側面に過ぎなかったみたいだ。
そんな彼らが、お姉さんのノートを見てどう思うのかと少し疑問に思ったが、しかしお姉さんのノートに記されていた、叫びのような文字列には、彼らに対する問いかけもなかった。
まあ、僕に対する問いかけもなかったのだけれど、それはさておき。
要するに、僕はお姉さんのノートを独占したかったのだ。
最後に僕に会いたいと記したそれを、自分だけのものにしたかったのだ。
そして、結果そういうことになった。
ノートのあのページを開き、何度も思案する。どうしてお姉さんは、最後に僕と会いたかったのだろうか、と。
考えても答えが出るはずのない問いを何度も思案する。
そうするうちに、僕は自分の中に何らかの欠落が生まれていることを認識する。それはお姉さんが死んだと聞かされたときに感じたものと似ているので、再認と言ってもいいかもしれない。
お姉さんが死んだ。お姉さんは死ぬ前に、僕に会いたいと言っていた。
もし会っていたら、お姉さんは今も生きていただろうか?
そんな疑問が、僕の中に生まれた欠落に吸い込まれていく。
ああ、と自覚する。
僕は、お姉さんがこの世から消えたことに、ここまでの喪失感を覚えていたのかと。
もう一度、お姉さんのノートを見る。
ああなる前に会えたら、どうなっていただろうか。
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