第三章 手記と窒息の記憶②

 が。

「開けるぞ」

 僕はそんな問いを即無視した。お姉さんのことなら何でも知りたい。そんな気持ちが僕を突き動かす。ガムテープを爪で切って開いてみせた。

「…………これは」

 段ボールの中を見て、僕は困惑する。

 そこには、様々なものが雑多に詰め込まれていた。祭の屋台で売ってそうなおもちゃもあれば、お土産屋で売ってそうなキーホルダーもあり、そして何の変哲もないドングリまでもがある。

 これは、何だ? そんな疑問が、僕の中で渦巻く。

 しばらく考えてみるが、思い当たらない。

 僕は手当たり次第に段ボールの中身を探り、外に出していく。そして。

 一冊のノートが、段ボールの底にあった。開いてみると、日付と文字が並んでいる。どうやら、日記なのだと察した。

 読むか読まないか、なんて問いは不要だ。読む。僕はお姉さんのことが知りたい。


『××年×月××日 ××くんと学校のプールに行く。××くんは帰り道に花をつんでくれた。可愛い』

『××年×月××日 ××くんと祭に行った。無邪気にスーパーボール掬いに興じる××くんは可愛かった。××くんと射的をして、おもちゃをもらったので記念として取っておこうと思う』


「……これは、まさか」

 僕の中に、一つの記憶が雷光の如くよみがえる。お姉さんと遊んだときの記憶。暑い夏の夜の記憶。

 僕は先ほど段ボールから出したガラクタとも言えるおもちゃに目をやる。視界に映っているものと、記憶の中の映像が合致する。

 ガラクタの山の中に、手を伸ばす。僕が手に取ったのは、安っぽい作りの水鉄砲だ。

 それは、日記の中に出てくる“おもちゃ”であった。僕は射的でこれを手に入れ、そしてお姉さんにプレゼントしたことがあった。

 どうして忘れていたのだろうか、と思う。そして同時に、お姉さんがこれを大事に持っていてくれたことに、嬉しさを覚えた。

 ノートを、読み進める。


『××年×月××日 クリスマスイブに雪が降った! 積もったので××くんと雪だるまを作ったりした。××くんは楽しそうに笑顔を浮かべていて、私も楽しい』

「ああ、そんなことあったあった」

 顔がほころぶ。

『××年×月××日 お正月なのでおじいちゃんおばあちゃんの家に。××くんと離れるのは少し寂しい。なんなら連れて行きたいと思った。おじいちゃんとおばあちゃんにお年玉をもらったので、それはそれで嬉しい』

『××年×月××日 冬休みが終わった。××くんと一緒に登校する。××くんは、今年の春よりも背が伸びているように思えるあと三年もすれば私は中学生になるから、一緒に小学校に行くということもできなくなる。少し残念だな、と思った』

 などと、お姉さんは日々の些細な出来事を日記に書き綴っていた。そこに僕の存在が多数見られるのは、とても嬉しい。

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