第7話 世界は破滅した様に見える

例えば。

もし、にい、が普通だったら?

私はきっと、にい、に出会えていないし、恋もしてないかも知れない。

それを考える度に運命って本当にアイロニーだなって。

思ったりもするんだ。



私達をみんなは心配してくれて、そして私達はそれに答えた。

にい、は相変わらずだったけど、私は一生懸命に説明をしたよ。


「.....次の時間って何だっけ?」


「体育だね」


うーん、にい、の苦手なものだね。

今の状態でそれは結構最悪かも。

にい、は嫌な事から逃げやすいから.....。

でも、成績の為には仕方が無いんだよね。


「.....にい、大丈夫?」


「.....体育か.....だけど頑張るよ」


「え?」


珍しく、にい、は嫌がる様子も見せない。

私は驚愕していた。

にい、は体操服を持ってそれから歩き出す。

私の方をチラ見して、あ。


「.....待って、にい」


「.....」


私は一応、同級生に返事をしてから。

にい、と一緒に歩き出した。

早めに更衣室に向かう。

簡単に言えば、確認強迫。

別の部屋に移動するのも、結構大変なの。

でも珍しいな。

にい、がそんなに積極的に体育に行くなんて。

私は驚きながらも、少し嬉しかった。



「.....女子と男子の混合?」


「そうらしいね」


同級生に聞いたらそんな感じらしい。

男子と女子の混合.....そうだ。

それだったら、にい、を見れるし側にいてあげれるね。

大丈夫かな、にい。

私は心配しながら、にい、を探した。

にい、は居なかった。


「あのバカ、また変な行動してやがるぜ」


「そうだな」


通りすがりの男子の言葉にムッとした。

確認強迫だね。

でもそれは仕方が無い事じゃない。

その様に思いながら、私は男子の更衣室に向かった。



更衣室。

にい、居るかな。

私はその様に思いながら、ノックをする。

返事が無い。

居るはずなんだけど。

でも、仕方が無いと思う。

確認強迫のせいだから。


「.....にい、居る?」


更衣室を開けてみる。

明るい部屋の中、にい、は確認強迫に追われていた。

彼方此方を確認している。

私はそんな、にい、の肩を軽く叩く。


「.....にい、大丈夫だよ。そんなに確認しなくても.....忘れてないから.....」


「.....駄目だ.....母さんの言う事.....忘れて.....駄目だ」


「.....!」


確認強迫じゃなかった。

また、にい、の母親の事。

頭の中の強迫観念の様だった。

私は、にい、を抱きしめて子供の様にあやす。


「.....にい、落ち着いて.....大丈夫、大丈夫だから.....」


「.....無理だ.....もう終わりだ.....全てが.....」


「.....にい、大丈夫だから.....!」


世界が終わった様な顔をする、にい。

私は何もしてあげられない。

代われない。

だけど代わりに、にい、を抱きしめられる。

それだけで幸せだけど。

にい、がとても辛くて、可哀想だった。

どうしたら良いんだろう私。

もしかしたら私だけじゃもう限界なのかも知れない。


「.....にい、別のお医者さん行かない?近所のお医者さんに良い所知ってる」


「.....嫌だ。医者は母さんが認めない」


「.....でもこれ以上はもう限界だよ。にい、を見てられないよ.....痛いよ.....」


お医者さんには行ってるけど、何も改善しない。

それは、にい、のお母さんが適当に選んだから、だ。

それじゃ駄目。

絶対に改善しないと思う。

だから、私が別の所に連れて行ってあげないとって思う。

近所のこの前、知り合った、同級生のお医者さん。

そこは結構、お医者さんが優しいらしいから。


「.....にい、私ね。将来お医者さんになる。にい、を助けるから。絶対に.....!」


「.....医者なんて.....信用出来ない」


「にい.....お願い。お医者さんに行って.....」


にい、は驚愕した。

気が付くと、私は号泣していたの。

にい、を驚かしていた。

私も驚愕して。

そして目元を抑える。


「あ、あれ?えへへ.....私が.....あれ?」


駄目だ。

涙が止まらない。

鼻水も出る。

拭っても、拭っても出る。


「.....ご、ごめんね!にい!私が強くなきゃ.....」


「.....イルカ.....」


「つ、強くなきゃ.....」


にい、が本当に辛そうで.....仕方が無い。

涙が止まらない。

駄目、泣いちゃ駄目。

だけど。


「.....イルカ。そんなに.....俺の事を.....」


「.....えっと、えっと、ご、ごめんね。にい」


咄嗟の事に。

私は仕方が無かった。

すると、私の唇に。

突然、柔らかい感触が飛んで来たの。

にい、が両頬を抑えて、そして。


「.....!!?」


気が付くと、にい、とキスしていた。

にい、は直ぐに離れる。

そして、話した。


「.....ごめん、自分でもよく分からない。だけど、キスしたらって思って」


「.....」


涙が一瞬で止まって。

そして赤面に変わった。

まさかの事態に私は目を回す。

えっと、えっと!?


「.....これしか思いつかなかった」


「.....に、にい.....」


「.....俺は.....大馬鹿野郎かもな。対処法も分からない.....だけど、イルカの涙は止まった。取り敢えずは安心した」


私は、にい、の赤くなる様子に。

目をパチクリして、それから私も赤面した。

信じられない事に私は。

嬉しくて心臓がバクバクしていた。


「病院は嫌だ。だけど.....イルカが泣くなら行くよ。泣く姿を見たくは無い」


「.....にい.....」


にい、の様子に。

私はまた涙が出そうになったけど。

必死に堪えた。

それから、にい、に満面の笑みを見せる。

あ、体育.....行かなきゃ。


「.....にい、行ける?」


「体育か。行こうか.....確認も終わったし」


今日は記念日になった。

私の特別な、記念日に、ね。

とても嬉しかった。

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