第5話 世界は暗く

にい、はお風呂。

私はその間に明日の道具や教科書を確認する。

そう言えば、にい、は明日の準備をしているのかな。

実の所、にい、の勉強道具もこっちに置いている。

それは簡単に言ってしまえば、にい、は家に帰りたくないって感じだから。

にい、が上がって来てから聞こうと思って。

私は明日の準備をする。


ガラッ


「.....あ、にい、上がったかな」


もう少ししたら、にい、の所へ行こう。

それから、明日の準備をしているか聞こうかな。

でも、今は.....あまり聞かない方が良いかな?

悩む所だね。

今、聞いたらパニックを起こすかも知れないから。

にい、は風呂上がりだと、体をきちんと洗ったかどうかを考えているからね。


「.....あと何分かしたら行こう」


その様に考えて、私は準備をし始めた。

教科書をノートを詰めていく。

その様に、している時だったの。

インターフォンが鳴った。


ピンポーン


「.....またか.....」


時刻は午後8時23分。

この時刻になるとあの人が絶対にやって来る。

私は毎回、心底ガッカリしている。

そして、歩き出して玄関までやって来た。

その場所に居た人は私達の顔を見てから、一言呟く。


「.....あの子は居る?」


シワがありながらも、キリッとした目。

これこそが教育者と言える様な、目。

キリッとした顔付きに、凛とした表情。

英語の教師で有る、にい、の母親、新島喜緑さん。

私はこの人が心底、苦手だ。


「.....居ますけど.....」


お母さんもあまり宜しくない様に答える。

喜緑さんって一定の時間になると無理矢理に、にい、を引き取ろうとするんだ。

にい、は帰るのが嫌って言っているのに。

だから私はこの人の事が嫌い。

嫌がる事をして、何になるのか分からないよ。

私はその様に、思う。


「.....毎回、あの子がお世話になってます。さっさと帰らせますので」


「.....」


複雑な顔付きになる、私達。

喜緑さんは私達を見据えて、それから早くして。

と言わんばかりの感じを見せてくる。

今日こそは言おうかな私。


「.....あの」


「.....イルカさん。何かしら」


「にい、は帰りたくないそうです。今日、泊めて良いですか?」


「.....それはご迷惑を掛ける事になりますから」


すると、にい、がリビングから顔を見せた。

鞄を持っている。

既に帰宅の準備態勢に入ってた。

私は複雑な顔付きで、にい、を見る。


「さっさとしなさい」


「.....はい。お母さん」


嫌々ながらも。

にい、は帰る様だ。

私はその様子を見ながら、困惑した感じを見せる。

嫌なら嫌って言えば良いと思うけど。

この人の前ではそうはいかない。


「.....にい、気を付けてね」


「.....ああ」


そして、その日は。

にい、と私達は別れてしまった。

私は無抵抗だなって。

そう、思いながら泣く日々を過ごしたりもしてる。

にい、がとっても可哀想に見えて。

仕方がないんだよね。



ピンポーン


「.....」


朝になった。

私は隣の家の、にい、の家のインターフォンを鳴らしてみる。

それから、にい、の部屋を確認してみる。


「出て来ると良いけどな.....」


すると、にい、が姿を現した。

私は笑みを浮かべ.....ようとしたけど。

真っ先に違和感を感じ取った。


「.....にい.....大丈夫?」


「.....かなり怒ってる。母さんは何も分かっちゃいない!!!!!」


よく見ると、にい、の部屋が荒れている様に見えた。

私は複雑な思いで、にい、を見つめる。

情緒が不安定なのも.....自閉症スペクトラムの一種だけど。

こんなに怒った姿は久し振りに見た。

多分、また勉学の面で対立したのだろう。

何でだろうな。

人間って何でこんなにも。


「.....落ち着いて。にい」


私はゆっくりと、にい、を抱きしめた。

そして左手で頭を撫でる。

何も出来ない、そのもどかしさが。

私の心を疼く。

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