第8話 鉄血アスカの隣のワタシ

「エミリーは私が守る。てめえ、ぜってえ許さねえ」


私の一番の親友はそう叫んだ。


トメさんは拳銃を構えようとするのが遅すぎた。


電光石火。疾風怒濤。そんなカッコつけてる、下手したら若干イタい感じの四字熟語がしっくりくるスピードでアスカちゃんがトメさんの方へ駆け上がる。近づく。手にしたバットを下から振り上げ拳銃を弾かせる。


更に振り上げていた金属バットをトメさん目掛けてスイング、スマッシュ、マッシュ、スマッシュ、マッシュ、マッシュ、マッシュ。


モノの数秒で人間の顔ってこんなに変わるんだ。と思ってしまうくらいにトメさんは原形が分からなくなるくらいにボロッボロな状態になった。


鬼神。人、ましてやオンナノコって言うのには対極にあったアスカちゃんの顔がくだける。緊張の糸がほどけたみたいだ。


アスカちゃん。がこちらに近づく。思いっきりの良いビンタを私の頰へとぶつける。


アスカちゃんは叫ぶ。


「バカ!!」


アスカちゃんは続ける。


「昔から誰かを助けるために頑張って、自分が傷ついて」


アスカちゃんが怒っている。あの時と一緒だ。


「そのくせ、いつも私に助けを呼んで。私を困らせる……心配させる」


アスカちゃんの瞳から涙が流れる。叩いた私の頬を優しく撫でる。


「心配なのよ……怖いの。エミリーが傷つくのが、エミリーが死んじゃうかもって思うのが。苦しいの、怖いの、嫌なの」


一筋の涙が気付けば洪水のようにアスカちゃんは大泣きしてた。


それをみて私も心にかかっていた枷が外れたみたいに泣いた。ボロボロとオンオンと泣いた。


ごめんなさい、ごめんなさいと泣きながら謝った。怖かった、苦しかった、死んじゃうって思った。


けどアスカちゃんが来てくれて、嬉しかった。冷めてた心の中がなんだか暖かく灯った。


私は、泣きながら謝りながらそんなような事を途切れ途切れに言った。また泣いた。アスカちゃんも泣いた。


私の中の正義の味方。私の中の優しい人。私の一番好きな人。私の憧れの人。


アスカちゃんのようになりたかった。だから頑張った。けど上手くできなかった。私はアスカちゃんにはなれなかった。


涙の数だけ強くはなれない。少なくとも私はこんなに心が辛くなるんだもん。


涙が落ち着くと。警察の人が突入してきて、トメさんを捕まえて、先輩の拘束を解いた。私達の周りにも人がたくさん囲み辺りが騒然とし出した。


アスカちゃんは、私にエミリーと声をかける。


「私ね決めた」


何を?と私は聞く。


「欲張らない事をやめた。欲しいものは何でも手に入れる。私のモノにするんだ」


何か覚悟をキメた表情をアスカちゃんはした。その顔がカッコよくて私はドキンと心が高鳴る音を聞こえた。自分から。


アスカちゃんは歩き出す。迷いが無くハッキリと。その先にはコウキ先輩。


長時間拘束して疲弊し座り込んでいる先輩の目の前に立つ。先輩はその影に気づき顔を見上げる。そのタイミングでキスをした。


ええぇえーーーーーーーー!!!????


えっ??嘘、キッ、キス!???いや突然??このタイミング!?そりゃアスカちゃんが好きなのは知ってた……けど今!?ってあっーーーー!!!入れてる舌入れてる!!!!うっそ??マジマジ???えーーーーー???何で?何で???えーーーー?????ズッキューーーーーーン。


むぐむぐうとされるがまま、バタつく先輩。


プハァ!!と豪快な息で唇をやっと離す。


「ゴチそーさま、先輩。やっぱりちょー好き」


アスカちゃんは頬を少し赤くしながら先輩に告白をした。


私や先輩、その他周りにいた警察の方々は急に起きた目の前の事についてけなかった。アレ?そーいえば、コレってネットでなんかライブ配信してたんだっけ?そしたらもしかしてみんなコレ見てる??えー!!


顔を赤くしたアスカちゃんが私の元に駆け寄る。


「エミリー見た?私の欲張らない宣言。けどね私はまだまだ欲張る」


と言い終わる前にガバッとアスカちゃんの顔が近づく。私の唇とアスカちゃんの唇が重なる。


!!!????!!!☆★☆★☆★☆★????


私の口の中にアスカちゃんの舌が押し入る。侵入される。絡められる。侵食される、私の……心が。


グチュグチュと音がする。


絡み取られる。こじ開けられる。奪われる。私の心が。


初めてのキスは一番好きな人とする。乙女なハートを持ってる私の初めてのキスは間違ってはないけど、これでもない。けれどもそんな事ももうどうだっていい。そんな心にされていく。


初めてのキスの味はレモンの味なんかするわけがない。とは思ったけれども血の味がするだなんて思いもしなかった。


プハァとこれまたキスが豪快に終わる。呆然とする間も無く、逃げよう!エミリー!!と私の腕をアスカちゃんが掴む。


倒れたバイクを起き上がらせる。魔法が解けたかのように周りが私達を見て騒ぎ出すのを切り裂き、走り出し、駆け抜ける。


走らせながらアスカちゃんはアハハハと笑い出し私に言う。


「エミリー、私はセカイなんか救えない!!けどね、私の大好きなモノは救うし守るよ、これからも!!それがね私の欲張りなんだ」


そんなアスカちゃんの背中を見て微笑みそして私も笑い出し、そうだねそんなアスカちゃんが私も大好きと告げた。


アスカちゃんみたいにはなれない。お父さんがくれた黒い鉄腕があったてアスカみたいにはなれないし、ましてやセカイなんて救えない。


けれど良いんだって思った。だって私の隣にはアスカちゃんがずっといるんだし。これまでも。これからも。ずっと、ずっと。


私もアスカちゃんが好きなんだ。


セカイなんか救えない。けれども大切な人はいつも救ってくれる。私の大好きな人はそうなんだ。だから私もこれからもいくつ年を重ねようが、おばさんやおばあちゃんになったて……いつも隣にいよう。


見渡す限りの空一面にある美しい星々が私達の笑い声を優しく包み込んだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

鉄腕エミリーの隣のワタシ 長月 有樹 @fukulama

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る