第5話 リンダリンダリンダリンダ
「同情するなら金をくれ」
と一昔前のテレビドラマ(私は再放送をしてた時に観た)の名台詞をスマホの画面から出てきた時に、何とも少し間抜けだなと思ってしまった。
しかしスマホから映し出される映像はそれに反して、シリアスがこれでもかと言う程にまぶされており、画面越しでも緊迫が伝わる映像だった。
とある工場のような所。何かを作るための設備が背景となっている。一人の青年が縄を括られ身動きを奪われている。頭に突き付けられる拳銃。金髪のボブカットでメイド服の30代前半くらい?の女性が青年に向けている。先程から興奮してるのか、言葉の繋がりがブツ切りでまくし立てていた。
「許さない」「私の地獄を知らないで、幸せとか抜かす」「あなたに恨みは無いけれどもあの人の事を許さない」「早く、1億円を用意しろ」とメイド服の女は壊れたラジオの如く、言葉を発するのを止めない。
バリインと何かが割れる音が聞こえる。女の目線が音の方へと移る。先程まで、生気を感じ取れなかった青年の瞳に動揺が走るのが分かった。
カメラが動く。先程割って散らばった窓ガラスの破片の上に急いで来たのか、荒い呼吸をして膝に手をやっている。
「止めてください」
呼吸が整いきってなく乱れた調子で少女が言った。
突然の少女の登場に「何だい?あんたは?」とメイド服の女性が言う。拘束されてる青年は口もタオルで縛られて自由を奪われており、ムグウムグウと言葉にならない叫びを続けてる。
「私は」
少女が左手で支えながら右腕をメイド服の女性へと向ける。途端、ガションゴギンガゴンと鳴りながら腕が変形する。
それはコブラ的なサイコガン的なモノへと変形が終わると少女は続ける。
「鉄腕エミリー……です」
先程まで、非現実すぎてドラマか映画かなんかを観ている感覚になっていたが、現実に引き戻された。しかもそれが更に非現実的なモノによって。
それが私の現実だった。黒い鋼鉄の両腕の少女は現実だった。私が隣にいつもいた北岡エミリーだった。
拘束されてる青年はコウキ先輩だ。メイド服の女性はコウキ先輩の家で働くメイドのトメさん。トメさんと言う名前だからもっとお婆ちゃんを想像していたが、若い女性だったので少し驚いた。
トメさんは、どうやら何かしらの恨みをコウキ先輩のお父さんに対して持っているようで、そのお父さんが工場長として勤める工場で先輩を拘束し、身代金を請求した。それをライブ配信で全世界に公開した。
その配信サイトがクラスのグループチャットでリンクされて今に至る。
パンクしていた私の頭がようやく少し冷静さを取り戻した。
「飛鳥!!エミちゃんが今、大変に!」
ドタドタ二階の私の部屋へと駆け上がって勢いよくドアを開けて、開口一番にお母さんが叫ぶ。
「これ何よ?何でエミちゃんがいるの?というかエミちゃんの手が変形して!!!??」
「……私もよく分からないよ」
「何?一体何なの!!」
「だから私もよく分からないって!!」
そんな私と母親との問答を繰り返していたが、画面越しのエミリーが喋り始め、それを固唾を呑んで見守る。
「もう止めてください」
エミリーは冷静に言葉を繰り返した。サイコガン的な腕から青い光が漏れ始める。その腕を向けられてるトメさんがニヤリと笑った。
「あぁ、あんたがエミリーかい?このお坊っちゃんから聞いてるよ」
先輩の頭へ銃を向け直す。先輩は虚しい叫びを続ける。
「止めてください」
「何をだい?」
「もうこんな事を止めてください」
「嫌だね(^o^)」
トメさんは更に歪めた笑いをエミリーへと向ける。
「……先輩からこの前聞きました、貴方のことを。優しくっていつも自分の世話を焼いてくれるとても好きな人だって。なのにどうしてこんな事を」
エミリーは説得を続けるがトメさんは、
「へぇ。そんな風に私のことを言ってくれてたんだい、このお坊っちゃんは。馬鹿だねえ、ホンットに馬鹿だよ」
堪えるために口元を押さえていたが、それでも堰を切ったかのように狂ったのような笑いが響いた。私とお母さんは、耳を塞いだ。
その後、メイドは反転したかのように黙り目を鋭く細める。
「私の地獄も知らないで。本当に親子だねぇ。腹が立つよ。ホント」
先輩に向けた銃のトリガーを引く手に力が入る。目を見開いて叫ぶ先輩。
「止めてください!!撃ちますよ!!」
エミリーもサイコガン的な腕を構え直し牽制をする。
「私も撃つよ」
「私のシャイニングブラストの方が速いです」
私はサイコガン的なヤツの本名を初めて知った。
「脅しじゃないですよ。本当にあなたが撃とうとしたら撃ちます」
サイコガン的なヤツ改めシャイニングブラストの銃口から発する青い光が強まる。隣にいるお母さんの唾を飲み込む音が聞こえる。
「ホラ、どうしたい?撃ちなよ早く。そうしないとこのお坊ちゃんの脳天がトマトみたいにグジュっと言っちゃうよ(^◇^)」
トメさんがエミリーを煽る。撃てないと分かっている。……けどそれは私も
動揺が疾る瞳。荒くなってく呼吸。画面越しに映るエミリーは、そうとても。
歯ぎしりをしてエミリーを覚悟を決めたのか目を開き、そして。
「わあぁあああああああああああ!!!!!!!!!!!」
青い閃光が走る。
どおおおっと激しい音がする。部屋のの窓から星が輝く夜の闇にそぐわない一筋の光が見えた。……コウキ先輩のお父さんの工場の方だ。
再びスマホの画面に戻ると私の親友は俯いて倒れ込んでいた。
「くっくく……ギャハッ、ギャハハ。やっぱりなんだい。そんなカッコイーオモチャを持ってても本人がビビってちゃあ何の意味も無いねぇ」
トメさんの笑いが響く。そう、エミリーは撃てなかったのだ。
「ううう」
エミリーの嗚咽が聞こえる。
「オラどうすんのよ、チキンなお嬢ちゃん。あんたがビビって撃てなかったから。これって絶対絶望絶対絶命って……やつじゃなぁあい(((o(*゚▽゚*)o)))♡」
トメさんが顔が笑い顔で歪む。こんな醜い笑顔を私は見た事が無い。
トメさんの笑い声が響く。コウキ先輩がふがふが言ってる。エミリーは泣いてる。
そんな中、私は聞こえた。いやもしかしたら聞こえなかったかもしれない。けど私の心はしっかり聞いた。倒れこみ泣き、そして震えるエミリーが放った言葉が。
タスケテ。アスカちゃん。
私は目を見開く。瞬間、部屋の階段を駆け下りる。何かを言うお母さんの声が聞こえる。
私は行かなくちゃならない。
私は……鉄腕エミリーのいつも隣にいたから。
私は、喜多岡エミリーの親友、飛鳥ちゃんなのだから。私が行かねばならぬのだ。止めるなハハよ。
私は困ってる友達を助けに行く。そんな当たり前の事をしに行く。命がけなんて知った事では無い。大切な人を助けにいく。それが鉄腕エミリーより範囲が少し小さいだけ。なのだ。
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