第3話 イワンの超大馬鹿野郎
コウキ先輩の突然すぎる不意打ち過ぎるエミリーへの告白は、「すみません、突然好きって言われても良くワカラナイデス」と言うケロッとしたお断りでその場は幕を閉じた。
「ごめん、突然こんな事を言われても困るよね。けど僕は本気なんだ、一回時間を置いて考えてみて欲しい」
とフゥフゥ言ってて茹で蛸のようなのかあるいはひょっとこのようなのか?露骨に冷静じゃなかった先輩は、露骨にとりあえずここで試合を終わらせないための次に繋げる撤退戦を始めて、一週間後に再度返事を聞かせて欲しいという言葉を残し颯爽に店から去っていた。おまけの先輩の友人Aも取り巻き感と言うのか?金魚の糞と言えば良いのか?これまたコウキ先輩が颯爽と去ろうとしてるのに引けを取らない颯爽ぶりで後を追って店を出た。友人Aの情報は、一切無かった。だってキョーミが無いから。
残された私とエミリーの二人はそんな飛ぶ鳥跡を濁さずをキメて去っていた先輩達とは、裏腹になんとも言えないどんよりとした何かがあった。その言葉は、ハッキリ言うと気まずさだ。
この気まずさの原因はまず間違い無くエミリーは、私がコウキ先輩の事を好きだと前から知ってたから。
別に私がエミリーにその事を直接の言ったことは無いのだけれども……まぁなんのかんのでいつも隣にいる私が目線で追ってる先に先輩がほぼほぼいるのは気づいてたのだろうと推測する。
と言うか、まぁさっきの告白する時、島とうがらしが付着してる手で目を擦ったんかいって勢いでドバドバドバイ川っと滝のような涙を流してる人間が隣でいれば、名探偵では無くともそんなもん分かるよねっと感情にブレーキをかけられなかった自分に少し後悔をした。私の心はエンジェルフォールばりにすごい落差で下へ下へとギュンギュン下降していく一方だった。
だってしょうがないじゃん、ホントに先輩の事が好きなんだもん。
気まずい気まずすぎる十万石饅頭と自分でも言ってしまうのもくだらなすぎる一発ギャグをして流れを変える、ぶち壊すには、やはりちょっとどころではない無理があるのでだんまりを決め込む。
カランと食後のアイスコーヒーを飲み終わって氷が踊る音。それと同時に「そろそろ帰るね」とエミリーが席を立つ。
「何だい?エミちゃんもう帰りなのかい」
「あらぁ、今日は早いのね」
と先程まで一切いる気配を出してなかったが、もちろん店主なので自分の娘が先程までかなりイタい感じになっている姿を見ていたはずの私の両親が、これまた空気が読めてないのか、一周回って読めてるのかエミリーが帰ろうとするのを引き止めようとしてる。やめて欲しい、あなた方の娘は、そこそこのダメージが蓄積されてて満身創痍なのだ。
「おとーさん、多分またラボにこもりっぱなしでご飯食べてないだろうから作ってあげなくちゃ。だから今日は帰るね、叔父さん叔母さん。アスカちゃんもまた明日」
とエミリーは引き止めようとする私の父と母の言葉をいなして、お邪魔しましたーとお辞儀をして店のドアの鈴をカランと鳴らして帰った。
エミリーが去った後、自分の娘に何と言葉をかければ良いのか、戸惑い始める両親を見て、あんたらも気まずいからエミリーを引き止めようとしてたんかいと心で毒づきつつ無言で自分の部屋がある二階へ上がっていく。
白い壁紙にフローリング。CDと小説と漫画がそれなりの数が収められている本棚、普通としか表現できないような特徴が無い私の部屋。入るなり部屋の奥にある青いシーツのベッドへと勢い良くダイブ&枕に顔を埋めて足をバタバタさせる。
「あぁぁぁぁぁーーーーーー!!!!!もうっ嫌っ!!!!!!!」
好きだった先輩が自分の友達へと告白をする。それを見て涙を流す。漫画であるようなシーンは意外とシンドくて、私の心はメーターは振り切れた。ガソリン満タンエンジンフルスロットル。ホントのホントに辛くて、そして恥ずかしい。穴が入ったら入りたい。そして栓をしてその中で生きていつかは死に絶えたい。と足をバタバタさせつつネガティブ方面へサーキットを周回する。
バッとベッドに転がっていたBluetooth式のヘッドフォンで好きなバンドの曲を聴く。筋肉少女帯。私の心の清涼剤でもありドーピング剤でもあるバンド。
ダイジョブダイジョブダイジョブと歌が流れてを聴きつつ
「全然、大丈夫くないよ……」
とポツリと呟き、明日が来なければ良いのにと心が悶々としていたらいつのまにか制服のまま寝落ちしてしまい、明日が今日へとなった。 人生で初めて寝坊をしてしまった。
「さっきまでエミちゃん待ってたのよ、エミちゃんも遅刻しちゃうから先に行ってって行ったんだけど……」
と慌てて支度をする私にお母さんは何か言いたげにさっきまでの事を伝える。
意識的に無視した訳ではなく初めての遅刻に動揺をしてた私はトーストにマーガリンとマーマレードジャムを塗りたくり弾丸のように家を飛び出る。
チコクチコクーと食パンを咥えつつ緑茂る通学路を猛スピードで駆け抜ける自分の姿が凄くまぬけなんだろうなと思いつつ猛スピードで疾り抜ける。なんてセカイは平和なんだとも。明日は必ず来るとも。空は今日も青くて太陽はギンギンにテカっておりとても暑い。
あんぐと最後の一口を飲み込み、口元についたジャムを拭って私は太陽の光に負けじと脚を早めた。
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