憧憬〜違う二人の昔のお話〜

お望月うさぎ

第1話

蝉の絶叫が、開け放たれたベランダへと続く大きな窓の引戸から爽やかな夏の風と共に部屋に流れ込んで来る。

日差しだけが明かりになっている部屋の中には、所狭しと詰め込まれるように本棚やそうでない所にまで置かれている本の群れ。そして使い古された大きなソファーが1つ。

不意に、


「今日もいい天気だわ。作業が捗るわね?」


と学生服を来た短髪の男子が仰向けの状態でソファーに足を上げて床に寝転び本を読みながら話しかける。


「そうだな。風があるからそこまで暑くないのも俺的にはいいと思うぜ」


男子の言葉に傍らにいた髪をポニーテールにまとめて同じく学生服(勿論こちらは女子用の服だが)を着た女子が返答する。彼女は耳にオレンジ色のヘッドホンをしているが、会話はできるらしい。



……ここで誤解を解くというか、この僕の目の前で起きている難解な事象を説明しておこう。

彼等は決して『おねぇ系』な人では無い。

何故なら彼等は元々その言葉使いに合った性別だったからだ。


元少年が、女の子になったのは小学生の頃。

活発だった少年は神社の階段から滑落、偶然発見され病院へ運ばれ、医師達が目を離していた間に女の子に変わっていた。調査をしても同一人物で、全く事例が無く騒然となった。だが元の性格が幸いし学園に転校してすぐ打ち解け小学生女子バスケ部に入部、一定の成績を残して卒業して行った。

聞いた話によるとそのバスケ部は最近外部から男子高校生のコーチを招き少人数ながらまた成績を挙げたらしい。……問題にはならないのかとは思ったが、捕まってはいないらしい。


元少女が、少年になったのは中学生の頃。

静かだった彼女は学校行事中に体調不良で倒れ病院へ。入院中に段々と男の身体に変わっていった。こちらは事態の整理が出来無いまま転校、友達を作らず暮らしていた。

そんな彼女は地元の小学生の少女と高校生の男が配るバンドのチラシを手に取り、自分よりもずっと小さな少女達が大きな教会で奏でる音に心を揺さぶられ強く生きることを決意。

……こちらも中々に問題になりそうだが、ただのスタッフなのだろう。



そして2人はこの高校に入学し、出会い、共に元に戻る方法を調べようと行動をしているのを僕が見つけ協力と部屋を提供して今に至った訳だ。だから彼が性別転換物の本を読んでいたり、彼女は自分の体を調べた結果を書いていたりする。


だが、果たして彼等は今でも元に戻ろうと思っているのだろうか。

そして、元に戻る方法などあるのだろうか。

彼等は既に日常とここでの言動を操れる程慣れている。

もう、ここは、必要ないのかもしれない。


「やっぱここはいいなぁ。自然体で入れるから楽だわ。」


「それは分かるけれど、私達は早く元に戻らないと団長に迷惑よ。」


心を読んだみたいな言葉にハッとする。


こんな事でも、誰かの役に立てているのだ。


ならば僕はここを管理し続けよう。


だからもし性別が変わり悩んでるのなら



是非、ここを訪れて欲しい。

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憧憬〜違う二人の昔のお話〜 お望月うさぎ @Omoti-moon15

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