背信の業火
背信の業火①
本来ならば、動く事もままならなかったに違いない。
“雷獅子”レオンハルト・イェーガーの雷撃は、時に神の剣とまで称される。
純粋な暴力、或いは単純な火力だけなら聖騎士団随一とまで言われている彼の怒りを買ってしまえば、後は消し炭になる運命しか残されていないのだ。
「……ッ、……」
そんな事は知っていた。十分過ぎるくらいに知っていた。事実、今この身体は半分以上が消し炭で、指先一つ満足に動かす事が出来ない状態だ。
こうなる事は半ば覚悟の上だったとは言え、それでもこのダメージは辛過ぎた。泣き喚きたい衝動ですら苦痛に押し潰され、結局出来た事と言えば声にならない呻き声を口の端から垂れ流す事くらいだった。
「……ッ、は、ぐ……ッ!!」
それでも自分は息をしている。それでも自分は生きている。
動かない指先に力を込めて、既に失って代わりに得物を突き刺した足を必死に動かす。ボロボロでも、倒れ伏した路面から必死に立ち上がろうとするのは、自分にはどうしてもやらねばならない事があるからだ。
「…………ィィィ……ッ」
嘗て、自分には友が居た。何時死ぬとも分からないこの仕事に就いたのは殺された家族の復讐が目的だったが、それでも自分が人並みの感情を取り戻せたのは彼等と出会う事が出来たからだ。
自分にとっては掛け替えのない、大切な友人達だった。
今はもう居ない。三人共、自分と同じ任務に志願して、そしてそのまま帰らぬ人となったのだ。
”悪魔憑き”シン・ナルカミと、それを誑かした吸血鬼達の追討。
彼等の死体は無惨にも斬り捨てられ、森の泥の中にブチ撒かれていた。
「……ナルカミィィィ……ッ」
許さない。
悪魔に魂を売った裏切り者。大事な友人達を虫けらのように殺した殺人鬼。
許さない。許せるものか。
例え“雷獅子”の怒りに触れようと。例えこの身が彼の雷に八つ裂きにされようと。
奴だけは。絶対に、奴だけは。
「──……殺してやる……!!」
きっと、自分はその為に生き残ったのだ。
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