第50話 気化する人

 道を間違えたせいで、勝留の車は倉庫街に迷い込んでしまった。

 袋小路にあたり、勝留は車を降りて、国道へ出る道を探した。

 薄暗く、ひと気のない街。立ち並んだ街灯から青白い光が降り注いでいる。

 切れかけの街灯は、ときおり不気味に点滅し、そのたびに数匹の蛾が空を舞う。

「うごぁあ」

 倉庫の上方から叫び声が聞こえた。

 見上げると、そこには赤い火の玉があった。それは人の形をしていて、のた打ち回るように乱雑な足取りで、倉庫の屋上を走っていた。

「大丈夫ですか?」

 声をかけると、火の玉は倉庫から、勝留の前に落ちてきた。

 やはり、それは人だった。原因は分からないが、火達磨になっている。

 勝留は上着を脱ぎ、火達磨を包み込み、消火を試みた。

 火はあっけないほど簡単に消えた。

「大丈夫ですか? 何があったんですか?」

 上着を開こうとした瞬間、先ほどまで感じていた重みが消えた。

 上着の中には何もなく、焼けた痕跡も、焦げた臭いも残っていなかった。

「うごぁあ」

 また、倉庫の屋上から悲鳴が聞こえた。

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