第23話 足音

 仕事を終え、朱里は派遣先の会社から家に向けて自転車で帰っていた。

 時刻は五時三十分、逢魔時である。赤黒い色の夕日が町を血の色に染めている。遠くから寂しく響く子どもたちの笑い声や、いやに高いカラスの鳴き声によって、空気が不吉にさざめき立つ。

 背後から足音が聞こえた。

 朱里は自転車を立ちこぎしていた。だから、かなりのスピードが出ているはずだ。それなのに足音はひたひたと自転車に近づいてくる。

 背筋を冷たいものが伝った。

 足音はもう真後ろまで迫っている。

 朱里は自転車をこぐ足に力を入れた。

 でも、足音はぴったりと後ろからついてくる。

 背筋の悪寒は増していった。

 口の中がねばついて、息苦しくなる。

 足が震え、自転車をこぐ力が抜けてゆく。

 朱里はブレーキをかけ、自転車を止めた。

 足音は朱里に追いつき、すぐに追い越した。

 人や動物の姿はないが、ひたひたと、朱里の目の前を足音が駆け抜けて行った。

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