第6話 一つ足りない

 鈴音は幼稚園の先生をしている。幼稚園の送り迎えには専用のバスが運行する。一人も欠席せずにバスに乗ると、バスの席は全て埋まる。ちょうどぴったりの座席数だった。ところがときどき、席が一つ足りなくなる。他の幼稚園に通っている子が間違ってバスに乗っているということもない。車内にいる子の名前と顔は全部一致している。それなのに、どうしても席が一つ足りないのだ。そんなときには、鈴音は自分の席を子どもに譲り、通路に立ってバスに乗る。事故でも起きるのではないかといつも不安になるが、危険な目に遭ったことはない。一人増えている謎の子どもは、幼稚園でお遊戯などをして一通り遊ぶと、気づかないうちにいなくなっていて、たいてい帰りのバスは席が足りる。だが、帰りのバスの席でも不足することがたまにある。それはきっと、紛れ込んだもう一人の子が満足に楽しめなかったということだろうと鈴音は考えている。そんなときには、送り返す子ども一人ひとりを優しくなでてやることにしている。

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