第33話 教授の栄光
その日の夜遅く。平坂教授は郷子からもらったビデオを見返し一人で唸っていた。
村人たちは子供たち三人を連れて結局何事もなかったと言ってぞろぞろと帰ってきた。
彼ら曰く、あれは全部子供たちがやったイタズラだったのだという。子供達はこっぴどく叱られ、村人達の間では事件はもう終わってしまったらしい。
しかし、教授にはどうしてもそんな簡単に終わらせてしまっていい事件には思えなかった。
「あやつらはこれを本当にちゃんと観たのか……? どうしても私には本物にしか見えん。仮に偽物だとしても、こんなものを年端もいかない中学生三人で作っただと……?」
静止画の合成なら割と簡単に出来てしまうものだったので一蹴にしてしまったが、映像の合成となると話は別だ。それに物を追加するという合成ならまだ出来ることのように思えるが、何かを減らすということは難しいはずだ。
映像を見ると砂音という少女の頭に穴が開いてその中身が見えている。映画などを作るプロであってもこのリアリティを出すことはかなり難しいだろう。資金だって相応にかかるはずだ。
それに子供達のこのリアクション。学という少年は本当に嘔吐してしまっているように見える。それに加え、教授の家に現れ村人達を決起させた郷子の振る舞い。あれも演技だったというのだろうか。
見事な映像の加工技術に加え迫真の演技が出来る子供が偶然にも三人も揃う。こんなことがありえるだろうか?
「これが仮に本物の映像だとしたら……小人が本当にいるとしたら……」
それを前提として考えてみると、一つ府に落ちないことがあった。
「なぜあの二人は最後の最後に小人を見逃すような行為に出た……」
郷子と学の二人はあれだけ懸命に小人の秘密を暴こうとしていたはずなのに。
「東山砂音は数週間ほど前に森で行方不明になってしまっている。修道学は村人達があの森に向かう日、朝から姿がなく一度行方不明になっているともいえる。そして鹿崎郷子も……洞窟にたどり着く前にフラリと行方をくらませてしまったのだとか……そうだ、子供達は三人とも少なくとも一度は行方をくらましている……」
教授は顎に手を当てて一つの答えを導き出した。
「まさか……既にあの子供たちの頭の中には……」
村人の襲来から一週間後、学と郷子はソルトに連れられて、小人のホームへと来ていた。
街への扉が開かれるとそこには郷子の父である宗次郎が出迎えてくれていた。
「パパ!」
「郷子!」
一週間ぶりの再会。郷子は随分と嬉しそうな様子だ。宗次郎を手の上に乗せて頬を寄せている。これが親子だとは、何だか不思議な光景である。
「じゃ、いこっか。今日はもっとじっくりと私たちの街を案内してあげるからね」
その時だった。いきなりウーウー! とサイレンが街に鳴り響いた。
「え……」
そして学達には分からない言語の放送が流れ始める。
「一体どうしたんだ!?」
「侵入者!? まさかつけられて……!」
ソルトが放送の内容を聞き取ったらしく後方を振り向いた。
学も後ろを振り向くと、そこにはとある男の姿があった。それは平坂教授だった。
「きょ、教授!? なんでこんなところに……」
「は、ははは! こりゃあすごい。小人の街か! やはりあの映像は本物だったか!」
教授はビデオカメラを手にし、街並みや、そこにいる小人達を撮影しているようだった。
そして学達にビシリと指を差す。
「そしてお前たちの頭の中には既に小人がいるのだろう!?」
「はぁ? 何言ってんだてめぇは。んな訳ねーだろ」
郷子が呆れたような声を教授に掛ける。
「ははは! 私は騙されたりなどせん!」
「い、いえ……違いますよ。僕と郷子は人間なんです」
「お前達はあれだけ小人の秘密を暴こうとしていたというのに村人が攻め入る寸前で意見を変えた! それが何よりの証拠ではないか!」
「それは……」
もはや教授の中ではそれが揺るがない事実として固まっているようだった。
「仮にお前たちがまだ人間だとしたら、こ奴らを信じる理由がどこにあるというのだね! お前達は騙され、利用されているだけなのかもしれんのだぞ!」
その言葉に郷子と砂音、学の三人は目を合わせた。
「そんなの、信じる事に理由があったらそれって信じてるって事じゃなくなるじゃないですか」
学がその総意をごく当たり前のような顔をして答える。
「な、何を馬鹿なことをいう! まぁそんな事はどうでもいい! かならず私が世間にこの事を暴いてやる!
そう言って教授は踵を返して、来た道を走って行ってしまった。
「はははは! 世紀の発見だあぁ!! これで世に名を残せるぞい!」
その姿にまた三人は顔を見合わせる。
「……どうすんだ? あの分からず屋の馬鹿教授」
「まぁ……一人ならあの方法でなんとかなるんじゃないか」
「あの方法……か」
「いつっ……!」
平坂教授は目を覚ました。その瞬間、後頭部にズキズキと痛みを感じる。
「い、一体私は……そうだ……いきなり後ろから頭を殴られて……って」
その後頭部を右手で触れようとしたが、なぜだか手を動かすことが出来なかった。
「え……」
視界が次第にはっきりしてくる。そこで教授はやっと自分が置かれている状況を理解した。
「うわあぁっ!」
教授は椅子に座っていおり、腕、足、胴体、そして頭を金具で完全に固定されていたのだ。
そしてその周りには多くの小人がいて教授には理解出来ない言葉で話し合っていた。
「おぉ、目が覚めましたか教授」
そして教授の後ろから牧師が顔を覗かせた。
「お、お前は誰だ!? お前の中にも小人が入っているのか」
「OH! ご名答デース!」
そしてその牧師の手には手持ちの丸鋸があった。
そしてスイッチが入れられ、チュイーン! と刃が高速で回る耳障りな音が鳴り響く。
「や、やめろっ! 何をする気だ貴様!」
教授はその場から逃げようとしたが、いくら力を込めても拘束具を外す事は出来なかった。
「ま、まさか私の脳を取り出すつもりなのか! そして私の頭に寄生するつもりなのか!」
教授は後ろを振り向けず、目玉をぐりぐりと左右に動かしている。
「安心してくださーい。すぐにいい感じになれマース!」
近づいてくる刃の音を教授は肌で感じる事が出来た。
「やめっ! やめてくれッ! な、何でもする! 何でもするから!」
「じゃあこれで刻まれてくださーい」
そしてついに丸鋸が教授の頭へと入った。ゴリゴリと頭蓋骨が削れ血が噴出する。
「いぎゃあああ――ッ!!」
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