第34話 俺は…(完)
それから数日後の放課後、学と砂音と郷子は三人で秘密基地の場所に来ていた。
「それっ!」
学がブルーシートを出来上がった骨組みへと覆い被せる。
そしてその逆側にいた郷子と砂音がブルーシートを掴み、その隅に開いていた穴にヒモを通し柱へとくくりつけた。
三人が入り口前に集まり完成した秘密基地を眺める。
「とりあえずこれで完成だね!」
「あぁ」
「わーい!」
砂音は両手を挙げて二人にハイタッチを促した。
学がまずハイタッチをする。続いて郷子も「フン」と少し気乗りしない様子だったがそれに続く。
その後三人は秘密基地内部に入り、色々とこれまでの事について話し合った。
「しかし思ったんだけど、ソルトは砂音が幼児の時にその体に乗り込んだわけだろ?」
「うん」
「それなら別に問題なさそうだけど、他の須藤さんとか郷子の親父さんとかはどうだったんだ? ある日急に入れ替わったらさ、仕事とかいきなりは出来ないと思うんだけど」
性格が変わったで済むならまだマシな話かもしれない。それまでの記憶が全部なくなっていたら、周りから記憶喪失だと扱われてかなり目立ってしまうのではないか。
「あぁ、それは大丈夫だよ」
「なんでだ?」
「搭乗した人間の生前の記憶を読み取ることが出来るからね」
「って、結局それ出来るのかよ!」
「そうだね。まぁ、それにはある種の才能が必要になるんだけど」
「才能……?」
「言ってしまえば強い自我を持っていることかな。人によっては元の記憶に飲まれちゃって搭乗した人物に完全になりきって、自分が小人であることすら忘れちゃう人もいるんだって」
「えぇ……なんだそれ……。もしかしてあの街にはそうやって失敗してしまった小人がいたりするのか?」
「いや、今のところ私達のホームにはいないよ。けど……」
「けど……?」
「私が把握してない異星人もこの星にはいるみたいだし絶対にいないとも限らないかもね」
「ははっ、きっとそいつ、自分が小人だって知ったら死ぬほどビックリするだろうな」
郷子が愉快そうに笑った。
「ははは……あんまり笑い話にもならない話な気もするけど……」
「まぁ、そんな事ほとんどありえないことだから気にしなくても大丈夫だよ」
その数時間後、日が暮れてきたので解散することになった。
「じゃあなー」
「おう、また明日」
学は郷子と別れて一人歩いていく。
気づけば学は口笛を吹いていた。なんという心の余裕だろう。以前では考えられないことだ。
最近は何だか全てがうまくいっているように思えた。結局小人の事は誰にもバレる事はなかったし、郷子も父と再会出来ただけではなく、クラスメイトや叔父や叔母とも距離を縮めているようだった。
そうだ、きっとこれからもどんどん状況はよくなる。充実した日々が続いていくに違いない。
学がそんなことを確信した時だった。
「おっと」
学は右足を小石に引っかけて前のめりになってしまった。
しかし学はこの程度でこけるほど運動神経が悪いわけではない。バランスを保つために、左足を前に繰り出した。
「って!」
しかし、その左足がさらにその先にあった石によって引っかかってしまったのだった。
「うわっ!?」
学はそのまま結局バランスを崩して前面に倒れてしまった。
「う……」
なんだろう。倒れた瞬間の記憶がない。まさかちょっとこけただけだというのに、学は意識を失ってしまっていたというのか。手を地面について立ち上がる。すると学は気が付いた。
「ってなんだ? 体がべとべとしてるぞ?」
自分の手が何だかねちゃりと糸を引く液体で濡れていた。
「え……」
そして何だかおかしな部分はそれだけではなかった。いつの間にか自身が着ている服までも変わってしまっているのだった。それはピッチリとした真っ黒なスーツのようだった。
学はふと周りを見渡して大きな違和感を感じた。とっさに後方を振り向く。
「ま、まさか……そんな馬鹿なこと……」
真後ろにあったのは巨大な顔だった。それはいつも鏡などでみる見知った顔だった。
そこには学自身の巨大な体が倒れていたのだった。その体はまったく動く様子はない。まるで中身が空っぽになってしまったように。
「俺は……小人……だった……」
いつからこんなことになっていたのだろう。学はいつから学の中に入っていたのだろう。
そういえば砂音が言っていた。小人が人間を操縦しているうちに元の記憶に影響されて、自分が人間だと思い込んでしまっている小人がいると。まさか学自身がその小人だったなんて。
「ま……別にいっか」
衝撃の事実の判明だったが、次に学の口から出た言葉は案外そんな軽い言葉だった。
これまでソルトたちに関われていて本当に良かった。そうでなければ学はもっとパニックに陥っていただろう。
「これで砂音と一緒になれたしな……」
そう言って学は再びもぞもぞと巨人の口の中へと入っていった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます