第27話 ビックリ箱
街を横断する途中、気になるものが学の目に入った。
「あれは……?」
学が指し示したのは一つの像だった。ヒゲを生やした男の像で、この文明にそぐわない武器、金属で出来た剣を天に掲げるようにしている。その大きさは人間ほどはある。
「あぁ、あれは国を創建した人らしいよ」
「へぇ……?」
「母星にある、私達の先祖が住んでいた国のね。私の遠いご先祖様なんだよ」
建国した人と血が繋がっている。砂音は長く続く王族の末裔ということらしい。
そこから街を横断し、いくつか扉を抜けて、迷路のようになった洞窟を進み赤い鉄の扉を開けると、そこは学が以前やってきた洞窟の中のようだった。ソルトが口から出てきた場所だ。
「ここに出るのか。もうここから先は分かりそうだ」
「そっか」
「じゃあ……ここまで見送ってくれてありがと。俺、帰ることにするよ」
学が一歩踏み出すとソルトに「あ、待って」と呼び止められた。
「これ、持って行って」
ソルトは一辺二十センチほどのソルトが扱うにしては大きな箱に手を触れていた。
そういえば、ソルトの乗る車にはずっとその箱が乗っていたのだった。
「なんだこりゃ?」
学はその箱を手にとってみた。重さは大したことはない。
「それおみやげだよ。帰ったら開けてみてね」
「あ、あぁ……」
学は何だか不安を覚えながらもその箱を受け取ることにした。
学は獣道を進み、山を下った。
腕に抱えたボックス。こんなものを持ち帰させるなんて。中は爆弾とかではないだろうか。それともまさか玉手箱?
それにしてもこれからどうするべきだろうか。そうだ郷子は一体どうなってしまったのだろう。郷子はソルトを見失ったあと今どこで何をしているのか。とにかく彼女に現状を話す必要があるだろう。という事で学は郷子の自宅を目指すことにした。
するとその途中、学の耳になにかがやがやとした声が聞こえてきた。
「ん……? 何だあの集まりは」
どうやら村の役場の前に多くの人間が集まっているようだった三十人くらいはいるだろうか。
一体何をしているのだろう。何かイベントなんかが開催されているのだろうか。
学は何となく気になって、それを確認しようと近づいた。すると、
「絶対殲滅させてやるぞ!」
そんな物騒な声が聞こえてきて、学は足を止めた。
そしてとっさに近くにあった民家の影に隠れてその様子を伺う事にした。
顔を出し、よく見てみると声を上げているのは郷子のようだった。
「小人は人の頭に寄生し人類を乗っ取る気でいるんだ!」
みんな手には斧、ナイフ、クワなど、物騒なものを手にして上へと突き出している。
「てめーら! 気合い入れろ! これは戦争なんだ! もう既に人間は攻撃を受けているんだからな! だったら反撃するしかないだろう!」
「そうだそうだ!」
「な、なんなんだこの状況は……」
郷子は大声をあげ皆を指揮しているようだった。村人達はそれに便乗し掛け声をあげている。
これはまさか、小人のもとにこれから襲撃に行こうとしているのだろうか。
「完全に知れ渡ってしまっている……。郷子はみんなに小人の事を信じさせることに成功したのか……」
学の頭に自身が撮影したビデオの事がよぎる。きっと郷子はあのビデオを何とかして村人に見せたのだろう。そうでないとこんな事にはならないように思える。
学は顔を引っ込めて、建物によりかかり考えた。
「どうする……」
ここで放置すれば村人達があの小人の街を壊滅状態に追い込むことになるかもしれない。
「……そうだ、これはずっと俺と郷子がやろうとしていたことじゃないか。そうなれば俺たちはもう小人の影に怯えて暮らす必要なんてなくなる。平和な生活が待ってるんだ……」
もう学はこれ以上何もする必要はない。あとは放置するだけで全てはうまくいくはずだ。
学はそのまま自宅に帰り、自室へと上がった。
「はぁ……」
ことりと机の上に砂音からもらったボックスを置く。
「……」
そういえばソルトは家に帰ったらこの箱を開けてくれと言っていた。つまり今がその時だ。
学はその場に座りフタを手にして手前に引いてみた。
「うあッ!?」
するとその瞬間、箱の中からビヨヨーンと何かが飛び出してきた。
「な、なんだよこれ……」
よく見ると、それはピエロの顔が先頭についたバネのようだった。つまりそれはビックリ箱だったのである。
「あ、あいつ……こんな時でさえ俺にいたずらを……」
その時学はビックリ箱の中に何かカードのようなものが入っている事に気が付いた。なんだろう。二つ折りにされたそれは開いてみると何かメッセージが書かれているようだった。
『今度私達の秘密基地、完成させようね』
そんなメッセージと共に学と郷子と砂音と思われる三人が手を繋いでいる絵が描かれていた。
メッセージから察するに三人の後ろにある青い三角形が秘密基地ということになるのだろうか。まるで小学校低学年が描いたのではないかと思えるくらいに平面的で絵心のない絵である。そうだ、砂音はずっと昔から絵がド下手だった。残念ながらその画力は一向に進歩していないようだった。
それをしばらく見ていると、
「ふっ……」
なんだか学はふと笑いがこみ上げてきてしまった。
「ははは……まったく……あいつは本当に……」
それと同時に、いつの間にか学の目尻には涙が溜まっていた。
学はふとその場に立ち上がった。
「そうだよ……あいつは本当に……」
部屋を出て階段を下り家を出る。そして学は先ほどやってきた道に向かって全力で走り始めた。
その二十分後、学は山へと入り小人達のホームへと続く登り道をひたすら駆けていた。
そして走りながらソルトの言葉を反芻した。
―― ただ単純に学を信じたいだけなのかも ――
ソルトは何の根拠なく学を信じた。学はむしろ敵の立場にあったはずなのに。信じてはいけないはずなのに。
学はどうだっただろうか。ソルトの事……これまでの砂音のこと、ちゃんと信じてあげた事があっただろうか。
息は切れ、心臓はバクバクととめどなく動いている。足には疲労が溜まり、つい足を止めてしまいたくなる。しかしそういう訳にはいかなかった。一刻も早くソルトの元へとたどり着かなくてはならない。
「あっ……!」
その時、学は木の根に足を引っかけてしまった。バランスを崩し転倒する。
「くっ……」
肘と膝が地面と接触し、すりむける。見ると血が出てしまっていた。しかしその程度の事に今は構ってはいられない。学は歯をかみ締めて再び立ち上がり、山の奥を目指して走り続けた。
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