第25話 扇動
郷子は家に一度向かいハンディカメラを取りに戻ったあと平坂教授の家へと向かった。
教授の家が見える位置までたどり着くと、そこには郷子の思惑通りに人だかりが出来ていた。
「お前が砂音ちゃんを隠したんだろ!」
「な、何を言っておるのかね! 君たち! 失礼だぞ!」
教授が家の前に立ち、多くの村人達に対応しているようだった。
「なら家の中を見せろ! 潔白だってことを証明してみせろ!」
「大体なんでそんな話になったのかね!」
「郷子ちゃんがそう証言したんだよ!」
「郷子……?」
「鹿崎さんとこの姪だよ」
「な、なんじゃと……!? あの娘が……?」
このままだと暴動になりかねないという雰囲気だった。
村人達の元までたどり着いた郷子は村人達の後方から呼びかけた。
「みんな!」
「おぉ、郷子ちゃん!」
村人達は振り向いて郷子に目を向けた。
「そうだよな郷子ちゃん。確かに砂音ちゃんが誘拐されたところを見たんだよな?」
そこまで言っていないのだが、どこかで話が歪曲されてしまっているらしい。
「どういう事かね君!」
郷子に向かって教授が叫んだ。村人達が左右に割れて、教授と郷子は目を合わせた。
「博士、身の潔白を証明したいなら、このビデオをみんなと一緒に見てくれ」
そして郷子はハンディカメラから八ミリビデオ取り出して教授に向けて差し出したのだった。
「ビデオ……?」
以前郷子も入った事のある教授の家の応接間。そこには現在二十人ほどの村人達と教授が所せましと並び、その部屋にあるテレビに目を向けていた。
八ミリビデオを見れない可能性を考慮してハンディカムごと持ってきたのだが、教授の家にはその設備があった。
郷子はテレビの下にあるビデオデッキに自身の持ってきたテープを中へと入れた。そして踵を返して村人達に目を向けた。
「最初に言っておくが、このビデオの内容はかなりショッキングだ。これを見てもパニックにならないって奴だけが見てくれ」
その言葉に一瞬部屋の空気が固まった。
「ショッキングって……一体何が映ってるんだ」
「見れば砂音が今どうなっているのかわかるはずだ」
村人達は目を合わせて何かぼそぼそと語り合っている。しばらくしたが、誰も部屋を出る様子はなかった。ビデオを用意した相手が女子中学生である手前、ビビって退室することも出来ないのだろう。そう言われて逆に興味が沸いた人物もいるのかもしれない。
「みんな見る覚悟は出来たってことでいいのか?」
「……あぁ」
「見てる途中で騒がないと約束するか?」
「……あぁ」
「じゃあ教授、再生ボタンを押してくれ」
教授は手にもっていたリモコンをいかにも迷惑そうな顔をしながら再生ボタンを押したようだった。すると真っ暗な画面に突如砂音の倒れている姿が映し出された。
「うわッ! 砂音ちゃん!?」
倒れているだけではなく頭からは血を流している。村人たちはざわついた。
「ま、まさか郷子ちゃんあんたが……」
村人達は少し郷子との距離を開ける。かなり部屋の中が騒がしくなってしまった。
「いいから黙ってみてろ!」
郷子が怒声を上げると村人達は黙り込んだ。ビデオカメラは郷子の姿を映し出す。
『今から小人が存在するということを証明してみせる』
「こ、小人……?」
村人達は食い入るようにビデオを見ていた。
『小人……アタシはホムンクルスと呼んでいるが、そいつらは人の頭に寄生する化け物だ』
説明が終わると砂音の体がひっくり返されて致命傷となりうる頭の傷が見えた。
そしてさらに画面の中の郷子は金づちで砂音の頭を砕き始めた。
「ううっ……なんてことを!」
郷子に対してまるで鬼の子を見るような目が向けられていたが、そこから一気に皆の形相が変わった。砂音の頭の中から小人が取り出されたからだ。
『はは……はははは! いた! やっぱりいるんじゃないか! 撮ってるか? 撮ってるよな!?』
「な、なんだこいつは……」
「嘘だろ……」
ゲロを吐き出すカメラマンの学。それを叱咤して郷子は取り出したソルトをカメラへと向けてきた。
『とりあえずこれで証明は終了だ。これを見た人間に告ぐ。奴らはアタシ達の体を狙っている。人の姿をして近づき、捕まえ脳を掻きだそうとしてくる。秘密を知っている私達も襲われた! いつ脳を奪われ、寄生されてもおかしくはない!』
『戦え……そうだ戦うんだ! ホムンクルスと人間の戦争は既に始まっているのだから』
そしてビデオが終了すると、しばらくの間村人達の間に言葉はなかった。
「ほ、本当なのかこの映像は……」
まるで幽霊でも見てしまったような顔で村人達が郷子の顔を見ていた。
「当り前だろ。見て分かんなかったのか。ここにいる奴らの頭の中にもホムンクルスがいる可能性だってある」
その言葉に皆がお互いの顔を見始める。
「神隠しにあった人間が別人になって帰ってくる……」
すると村人の一人がそんな事を呟き始めた。
「で、伝承は本当だったんだ……」
「ひいいい! 小人たちに脳を食われちまう!」
村人達に恐怖が伝染していく。
「そ、そうだ! みんなで協力して奴らを倒すんだ!」
「し、しかしいったいどうやって……誰の頭の中に入っているかもわからないってのに」
どうやら郷子の思惑通りに話が進んでいるようだ。
「そこでアタシにいい情報がある」
困惑した状況が郷子の一言によって静まった。
「そ、それは……?」
「アタシは奴らのアジトを知っている。そこを攻め落とすんだ。そうすればあいつらはもう終わりさ」
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