第14話 写真
そして次の日の朝。郷子の言う通り郷子の家に学が行ってみるとあの時の写真が届いていた。
「見てみろよ」
「おぉ……」
学は郷子から封筒を受け取って中身を取り出してみてみた。
遠目ではあるが、確かに砂音の口から出てきたほホムンクルスが写っていた。
そしてペラペラとめくっていくと、
「う……」
学は最後の写真でその手を止めた。
「どうした?」
「い、いや……」
最後に現れたのは、あの駄菓子屋で三人並んで撮った写真だった。郷子はなんだかふてくされた顔、学は少し気まずそうな顔、砂音は満面の笑みだった。
あのあとしばらく三人は秘密基地の製作をしながら楽しく遊んでいた。それは表面上の話だったのかもしれないが。それでも……
「それで、どうする。いつ見せに行く?」
郷子の言葉に学は現実に引き戻された。
「そ、そうだな……それは……」
手にしていた写真を封筒へと戻す。
「早いことに超したことはない。今日でいいよな?」
「え……あ、あぁ」
「教授が帰ってくるのは夜遅いはずだ。今日一端家に帰って、また集合して教授の家に向かうことにしよう」
その日の午後七時。学は食事などを済ませたあと、再び郷子の家へと向かった。
郷子と合流しそのまま教授の家へと向かう。まだ明るさがあるので郷子の自転車で来てしまったが帰りは暗すぎて歩きになるかもしれない。
平坂教授の家にたどり着くと、そこには車が停めてあった。窓からは光も漏れている。おそらく教授が帰ってきているということだろう。
学は門を開き、中へと進みドアの前に立った。
何だか学は緊張していた。小人の事を何も知らない人に話すなんて事は初めての事だ。果たしてうまくいくのだろうか。
後ろを向くと郷子が学の事を見ていた。分かっている。郷子はたぶんこういう交渉のような事は苦手に違いない。というか態度が悪くて無茶苦茶になってしまうように思える。ここは学が話をするしかないだろう。
学は「よし……」と、覚悟を決めドアの隣にあった家のチャイムを鳴らしてみた。
しばらくすると家の中から一人の女性が出てきた。鼻が高くキリっとした雰囲気を持つ四十代くらいと思われる女性だった。
「あら、あなた達はいったい?」
平坂教授は話によると男らしい。つまりこの目の前の女性ではない。おそらくその妻だろう。
「えっと、僕たちはこの村に住む者なんですが。民俗学を研究なされているという平坂教授に見せたいものがあってやってきたんです」
「ほう、見せたいものですか。それは一体どんなものですか?」
学が写真を持つ郷子に目を向けると、郷子は首を軽く横に振った。
学にも分かっていた。この写真は教授に直接見せなくてはならない。もし目の前の女性に見せてしまえば、何だこれはと一蹴され、教授に会うことすら叶わなくなるかもしれない。
「この村の神隠しに関する資料なんです。ぜひ教授に直接見てもらいたいなと……」
「そうですか……随分遅い時間に来られたのですね」
「え、えぇ。この時間じゃないと教授は帰ってないと思いまして」
どうやら少し不審がられているようだ。まぁそれは以前からこうなると分かっていたことだ。
「ではその前に私に少し見せていただけませんか?」
「そ、それは……」
見た目通りというべきか、女性はあまり緩い感じではなかった。まず自身が納得しなければここを通してなどくれないのだろう。
「あら、私には見せるわけにはいかないものなの?」
学が写真を出し渋っていると、
「どうしたのかね?」
その女性の後方から男が顔をのぞかせた。やせ形でひげを生やし、丸い眼鏡をかけた男だった。年齢は五十歳程度だろうか。おそらくこの男こそが例の平坂教授なのだろう。
「あなた、この子達が見せたいものがあるのだとか」
「ほう、見せたいもの?」
「でも、私には見せたくないらしくて」
すると教授はふむと、自身の髭をひとなでしたあと笑い始めた。
「ははは、まぁいいではないか。せっかく来て頂いたんだ。美和子、彼らにお茶でも出してあげなさい」
「はぁ……」
学と郷子はその言葉に目を合わせ頷いた。何とか関門を突破出来たようだ。
客間に通され、二人はソファーに座っていた。テーブルにはお茶が出され、お菓子まで置かれている。思ったよりもいい扱いを受ける事になってしまった。
それにしても中々広い部屋で、クラシックを基調とした家具や置物が置かれていた。
「それで、君たちが見せたいものとは?」
机を挟み二人の対面に座る教授。彼は割と温和な人間のように学には感じられた。
「平坂教授はこの村に伝わる神隠しの伝承についてお調べになっているそうですね」
「あぁ、よく知ってるねそんなこと。まぁ今のところは趣味半分といったところだがね」
「そうなんですか。実はその事に関する村の重大な秘密を写真に収めてきたんです。ぜひこれを世間に広めて、この被害をこれ以上広めないようにして頂きたいんです」
「被害……?」
すると郷子がバッグに入れていた封筒から写真を取り出して、机の上に並べて教授の方に並べてみせた。
「これは……」
教授は写真に顔を近づけてメガネを人差し指でくいと上げた。
「これは小人……ホムンクルスという! この村の神隠しはこいつらのせいなんだ! 奴らは密かに人間の頭に寄生して人類を乗っ取ろうとしている!」
郷子の言葉に教授は一瞬あっけらかんとした表情をした。
やってしまった。学は冷や汗を掻いていた。いきなりそんな事を言い出しても信じられるわけがない。
と思ったのだが教授は写真を手にとりそれを凝視し始めた。
「ほう……すごいね君たち。これは素晴らしいとしか言いようがない」
学と郷子はその言葉に目を合わせて顔を明るくさせた。
これで小人は世に暴かれ捕まるなりして学達は保護されこれから安心して生活が出来るはず。
学がそんな明るい未来を想像した時だった。
「君たちはいくつかね……? まだ中学生か、そこらのように見えるが」
「え……? えぇ、まぁその通りですけど」
なぜ教授はそんな事を尋ねてきたのだろう。
「そうかそうか……その割には本当にこの写真はよく出来ている」
どうやら教授は持ってきた写真が偽物だと言いたいようだった。
「あ……?」
郷子に目を向けると、眉をひそめ、額に血管を浮き上がらせていた。
マズい。学はとっさに郷子の前に手を出し、その体を制止させた。
そして郷子の言葉を代弁するためにその場に立ちあがった。ここでぶち切れるのはマズいが、そのまま勘違いされていていいという話ではない。
「ま、待ってください! これは決して偽物なんかじゃないんです!」
「あぁ、分かっている。これは本物の人間の写真を合成させたものだろう? 自宅にパソコンを持っているのかね? そんな歳でこんな技術を持っているなんて、なかなか素晴らしいじゃないか。きっと将来は優秀な人材になれるよ」
教授は「はっはっは」と大きな笑い声を上げ始めた。
「そんな……」
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