景色が変わった日

青山えむ

第1話

 二十五歳、アラサ―突入、就活中の私。就活と云っても新卒組ではない上、特別な資格も持っていない私は今まで何社に履歴書を送っただろう。いつからかダメ元で応募しつつも期待を持つ疲れた日々になった。先週も面接を受けてきた、多分同じだろう。あんまり連続で落ち込みたくないので、暫く就活はお休みにする。


 そんな中で唯一の愉しみは、音楽のイベントに行く事。地元の音楽好きの子が集まって月に一度、ライブハウスを貸し切りDJイベントのような事をしている。

 本格的なDJがいる訳ではなく、CDを流してお喋りをするといった気楽なイベントだ。

 

 就活を少しだけお休みするこのタイミングで、私は竹田君に告白する。竹田君はイベント主催者の一人で、皆に気を遣う【出来る男】だ。

 竹田君に最初会った時は「イケメンだし、性格悪そうだな……」なんて失礼な思い込みをしていた。イベントで毎月会うようになり、しっかりしている仕事の出来る男だと気づいた。今では毎月愉しくお喋りしている。


 今日のイベント中、二十一時までに竹田君に告白する事を決めた。何故二十一時か? イベントは二十二時終了で、主催者である竹田君は後片付け等の仕事がある。それに結果が粉砕だったとして、その時間だと途中で帰ったとしても不自然に思われないだろう。二十一時まで、あと十分。

 

 竹田君は今日も輝いている。さりげなく周りに気を遣い、上手く輪に溶け込めない子がいたら声を掛けている。優しい竹田君。どうしよう、OKを貰ったら? の妄想を幾つしただろうか。


「みずほさん」後ろから声を掛けられた。振り向いたら、嫌な奴だった。つまらん話で延々と他人を拘束する危険人物。こんな時に限って。しかし私に残された時間はあと少し。二十一時までに済ませないと、竹田君に迷惑がかかる。「ごめんね、ちょっとトイレ」と云ってその場を離れた。


 どきどきする。どうしよう、やめようか。本当に今日でいいのか? いや、そもそも本当に、告白していいのか?

 友達の応援メールが頭をよぎる。よぎらせる。

【後ろを振り返るな! 行け! そして逝け】最高の友達だ。

 時計を見ると、二十一時まであと五分だった。早くしないと、と思っていたら丁度竹田君が声を掛けてくれた。私はいつも通りを装って、必死でを作る。


                 ○○○


 告白した結果は、砕けた。色々妄想していた自分が一気に恥ずかしい。頭の中は誰にも見えていない筈なのに何故かバレている気がして。


 枕を涙で濡らす日が、本当に来るなんて。泣いたお陰か、少しすっきりしたかもしれない。

 寝起きに昨夜の事を思い出して落ち込んでいたら携帯電話が鳴った。先日面接を受けた会社から、合格の連絡だった。

 捨てる神あれば拾う神ありとはこの事かしら。周りの景色がよく見えるようになってきた。

 昨夜の告白する直前の五分間は、私と竹田君の今までの関係、最後の五分間だったのか。変な顔をしていただろうな、私。

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景色が変わった日 青山えむ @seenaemu

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