第29話 初めての1人暮らし

忘れもしない、1989年5月22日。

4月から静岡県に住むようになり、初めての1人暮らし。3階建ての3階、2DKの部屋でした。市街地ではなく片田舎で、海まで150m。ベランダから海が見える立地でした。新築で綺麗でとても気に入っていました。


5月に入り、その頃から少しずつ異変が起こり始めました。最初は取るに足らない、物が移動していたり、扉が少しだけ開いていたり、本当に気を付けて見ていないと気が付かないレベルでした。

一週間が過ぎた頃夜ベッドで寝ていると、寝室と隣のキッチンとはすりガラスの引き戸で区切られていたのですが、すりガラスに黒い人影が映っていて扉が10㎝位開きました。

泥棒!

電灯を点け見に行きますが誰も居ません。玄関のドアには鍵が掛かってて誰かが入ってきた形跡は見られません。

気のせいにして寝ましたが、朝起きると留守番電話にメッセージが録音されると知らせるランプが点滅しています。

寝るときには無かったメッセージ。

再生ボタンを押すと無言です。風の音と波の音? 一言も音声はなく30秒で切れました。

寝てる間に電話が掛かってきたとしか思えませんが、電話が掛かってきたのなら呼び出し音で目覚めるはずです。

次の夜は特に異変はなく朝を迎えましたが、留守電がまた点滅してます。

再生すると昨日と同じで風と波の音で最初は無言でした。

メッセージが切れる寸前に一言、「家に帰りたい」 切れました。

誰の声か考えてみますが、心当たりがありません。

次の夜も何事も起きませんでしたが、留守電だけは入ってました。

再生します。

相変わらずの風と波の音、それに音声が…

……寒…い……つ…め……た………い……

訳が解りません。

留守電がほぼ毎日何かを録音し続け、少し慣れてきた5月の21日の夜、ベッドに入り眠りにつきました。

ふと目が覚め、目を開けると、目と鼻の先に顔が…

見たこともないブクブクに膨れ上がった顔が……

叫び声をあげたつもりが、まったく声が出ていません。

…かえ………り…た……い………

直接頭の中に響き渡るように聞こえ。

逃げようにも指先すら動かせず、目を閉じることも出来ずに恐怖の頂点に達し、そこで気を失いました。

気を失う寸前に潮の香りを嗅いだ気がします。


朝、目を覚まし昨夜の事を思い出し怖さがぶり返して来たので、人の居る所へ行きたくなり家を出てビーチに出ました。

外は気持ちよく晴れていて気持ちが良く、恐怖も徐々に薄れてきます。

しばらく防潮堤に座り海を眺めていると、防波堤に人だかりが出来ていてパトカーや救急車がきてました。

何事かと野次馬しに行きました。

どうやら水死体が見つかったみたいです。

あまり気持ちの良いものではないので早々に離れて、ビーチを散歩してから家に帰り仕事に行きました。


その日は友人の家に泊めてもらうことになり、友人宅でテレビを見ているとニュースで今朝の水死体が5月の初めに釣りに出かけて行方不明になったと。

この時なぜか、頭の中に夕べのブクブクの顔が浮かびました。

今朝の水死体と昨夜の顔が同一人物だと確信してました。

今日、5月22日に開放された。何も根拠はないが、そう感じました。


次の日からは、家の留守電に訳の分からないメッセージは入らなくなり、不思議なことも起きなくなりました。

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