第28話 祖父

私は霧の中を歩いていた。

暗い。

夜のようだ。

何が目的で、何処へ行くために歩いているのか考える。


何も思い出せない。


此処が何処なのか。


車の音も、町の喧騒も、何も聞こえてこない。

立ち止まり、周囲を伺うが霧で何も見えない。

手を伸ばせば指先が霞むほどの酷い霧だ。

言い知れぬ恐怖が襲う。


ポケットを探ってみる。

煙草とライターと数珠が入っている。

着ている服は喪服のようだ。

葬式?

煙草に火をつけ考える。

誰の?


後ろから足音が聞こえてきた。

近づいてくる。

振り返っても、何も見えない。

足音が私に当たる寸前で消えた。


今度は後ろから肩を掴まれた。

振り返るが手も、腕も見えない。

でも、肩を掴まれている感触がある。


いきなり頭上から大音量でお経が響き渡る。

煙草を銜えたまま呆気にとられ


目が覚めた。

布団で寝ている。

しばし、今の霧とお経が何だったのか考える。


夢を見ていたのか。

部屋は暗い。

線香の匂いに気が付いた。

現実の事を考える。


思い出した。

祖父のお通夜で、遺体の隣の部屋で寝たことを。

布団から出て、襖を開ける。

明るい部屋の中、写真の中で祖父がほほ笑んでいる。

線香に火をつけ手を合わせる。







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