第27話 温泉2

とある山奥の鄙びた一軒宿に、これまたスキーには遅すぎて、春山には早すぎるという時季外れに行った。他のお客も少なく閑散としていた記憶があります。


4時頃にチェックインを済ませ部屋で荷をほどき、まずは温泉で旅の垢を落とすことに。

部屋は2階で1階の風呂へ行くのに階段を降り、廊下を大浴場まで歩いていきました。

男湯の暖簾をくぐり男湯へ、先客が1人入浴中です。

掛け湯をして湯船に浸かり、先客と世間話をしていると風呂桶が1つコロンと音を立て転がりました。

風呂桶は入り口横に山の形に積んでありましたが、そこから1つ転げ落ちたようです。

私が風呂桶をとる時に少しズレたのかもしれません。

先客とそんな話をし、先客はあがり私は体を洗いに洗い場に行き頭を洗っていると他にも人が居る気配がします。

目を閉じて頭を洗っていると耳が敏感になります。

湯船の中を人が歩くような音が聞こえ、誰か入ってきたのかと思いシャンプーを洗い流し振り返り湯船を見ましたが誰も居ません。

風呂場には私1人です。

気分を変えるために、天気もいいので露天風呂に入ることに。

外気は3月の山中なので寒いですが、風呂に浸かると頭は冷えて気持ちいいです。

湯の花が漂う風呂でゆっくりと体を温めてからあがりました。


部屋に戻り扉を開き前室でタオルを干していると、部屋の方から話し声が聞こえ、不思議に思い部屋のふすまを開けるとテレビがついています。

テレビなんてつけた覚えがありません。

取敢えずテレビを消して、大広間に食事に行くことにして部屋を出ました。

食事を美味しく食して、部屋へ戻りました。

部屋は食事の間に布団を敷いてありました。

窓際の椅子に座り月明かりに浮かぶ山並みを眺めながらお茶を飲んでいました。

その時不意にテレビがつきました。

心臓が早鐘のように鼓動を早め、汗が噴き出してきます。

静けさが怖く感じ、テレビはつけっぱなしにして気を紛らわせることに。


寝る前にもう一度風呂に入りたかったのですが、先ほどの事もあり夜に入る気になりませんでした。

夜になり寒さが増してきたようで、暖房を強めにして布団に入りました。

テレビはタイマーにして30分後に消えるようにして寝ました。

寝つきは良い方で、ウトウトしかけた時にテレビが消えました。

まだタイマーをセットしてから5分くらいです。

眠りに落ちる寸前に、一気に現実に引き戻され同時に恐怖が襲ってきました。

怖い、怖い、怖い!

強くしたはずの暖房が嘘のように寒さを憶え、布団の中で震えていました。

その時、足元の方で畳をすり足で歩くような音が一歩聞こえました。

10秒位間をおいて、また一歩。

また、間をおいて一歩。

徐々に頭の方に回ってきます。


ドン!


いきなり胸の上に衝撃が、何かが飛び乗ったような感じです。

同時に体が動かなくなり、目も開けられません。

耳に吐息がかかり、なぜかお経が聞こえてきました。

その声は部屋の中をグルグル回り始め、声が徐々に大きくなっていきます。

耳を塞ぎたくなるほど大きくなった時に、気を失ったのか、次に気が付いた時には朝でした。


暖房は暑い位です。

朝の陽光で明るいのに、なぜか薄暗く感じ早く部屋を出ることにしました。

朝食の時に何気なく旅館の人に尋ねましたが、それらしき話は聞けませんでした。

部屋に何かあったのか

旅館に何かあったのか

私に何かあったのか

早々に宿を後にしました。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る