第14話 雨に煙る…

40年近く昔、中学3年で入試も終わり4月から入学する高校も決まり時間を持て余していた時に高校は別になったが親友のAから

「自転車旅行に行かないか」

と、誘いの電話があり計画を相談する事になりA君宅へ行き、何処を目指すか、何日位の行程にするか、宿泊はどうするかなどワクワクしながら決めていきました。なるべく坂道が少ないであろう海岸沿いに進める鳥取砂丘に決まり宿泊は駅のベンチなどの野宿で行くことになり食事は自炊、中学生なので貧乏旅行です。


いよいよ出発の日を迎え、Aと二人で琵琶湖岸を北へ針路を取り走り出しました。初日は滋賀県から福井県の小浜市を目指します。2時間も走ると普段の自転車の行動範囲の外へ、新鮮な景色に気持ちも昂ります。奥琵琶湖あたりで昼食にして小浜を目指します。滋賀県と福井県の県境を超える頃には辺りは薄暗くなってきました。

「小浜まで行くかこの辺で野宿か決めようか?」とA君から提案があり、

「初日だし無理はやめとこうか」と返事を返し、テントを張れそうなところを探し初日の宿泊地は川の土手に決め夕食を食べながら明日の目的地を予定より手前に修正して早めに寝袋に入りました。

中学時代のことや、これから始まる高校生活の話で盛り上がりお互いに寝付いたのは日が変わってからでした。


2日目の朝は空は晴れ渡り少し肌寒い感じでした。二人で朝食を食べ、出発の準備を済ませ、まずは小浜を目指します。まだ1時間以上かかります。

昼前には何とか京都府に入れました。舞鶴で昼食と晩御飯用の魚介を仕入れ今日の宿泊地の京丹後市を目指し出発します。

宮津市辺りで休憩がてらに地図の確認をしていると

「京丹後に行くより豊岡に行く方が早いね」

少し道はややこしいがショートカット出来そうです。

山間部に入っていきます。峠を幾つか越えある峠を登り始めた時には日も沈み始め辺りが暗くなってきました。

「この辺で泊まらへん? 腹減ったし」

「そぉやね、テント張れるとこ探しながら行くか」

辺りを見ながら進んでいると舗装していない横道があり、先が開けているように見えたので見に行くことにしました。

入っていくとかなりの広さの広場に出ました。見渡してみると何かの建物が在ったであろう基礎石がありました。

「ここで泊まる?」

「そやね、ここにしよっか」

早速テントを張り夕食の準備を始め火を熾します。

その頃には辺りは暗闇に包まれていました。

昼に仕入れた魚介を焼き、舌鼓を打っていると

「美味いねこれ」

「やっぱり海辺の魚は美味いね」

「予定通り明後日には鳥取砂丘に着けるね」

「そぉやね、帰りはもう少しゆっくり帰ろうや」

「此処って家か何かの跡みたいやね」

「周りに家もないし神社かお寺かな?」

「墓はないから神社かな」

話していると頭にポツンと雨粒が当たり

「雨降ってきたぞ」

「じゃあ片付けるか」

「結構降ってきたぞ」

本降りになってきたので急いで片付けてテントの中に避難します。

テントにあたる雨音でかなりの降りだと分かり、気温も急に下がったのか寒さを覚え二人とも寝袋に半分入った状態で話をしていました。かなり疲れていたのかすぐに寝入っていました。どれ位眠っていたのか、ふと目が覚めました。ランタンは消えていて真っ暗ですが、相変わらず雨音は激しく

「明日は雨か…」と考えてると

カァーーーン 

何事!と耳を澄ましてると、また!

カァーーーン

自然の音じゃありません! 動物にこんな音はたてられません。

「誰かいる?」

「こんな山奥にこんな時間に?」

テントの周りには明かりは見えません。

「何の音?」

Aも目を覚ましたみたいです。

「解らんけど人が居なきゃあんな音たてれんやろ」

「覗いてみるか」

「見てみよか」

音は不規則に続いています。

テントのチャックを開け恐る恐る覗いてみます。

「ウォー!」

テントの奥にはじけ飛びます。

テントの入り口の真ん前に神主が怒りの表情を浮かべボンヤリと浮かび上がっています。なんで見えるのか、辺りは漆黒の闇なのに。

恐怖で固まってしまい手を合わせ拝んでいましたが、今度はA君が恐る恐る覗いてみます。

音はまだ続いています。

今度は入り口には誰も居ずその代わりに広場の反対側の茂みの中が、ボォーっと明るくなっていて雨に煙るようにその傍に神主の衣装を着た人が立ってます。その神主が後ろから何者かに刀で切られその時に

カァーーーン


もう、二人とも眠れません。土砂降りの中逃げる気もなくテントの中で朝がくるまで丸まっていました。

やがてテントの周りが明るくなってきて雨も嘘のように止み音もしなくなりました。

8時ころになりテントを開け外を見てみると嘘のように晴れています。

周囲には自分たち以外の足跡もなく、夕べ明るかったところを見に行くと草藪の中に何かの碑のようなものが埋もれていました。

普通は後で調べたりするんでしょうが、その時分はネットもなく携帯もない時代で図書館で調べるくらいしか出来ず。調べていません。


その後、自転車旅行は出石で蕎麦を食べ、無事に鳥取砂丘に着き無事に帰ってこれました。もちろん帰りはその道は通っていません。

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