第7話 サーフショップの一夜

若かりし頃サーフィンにはまりその頃はサーフショップも海の近くにしかなく、かろうじて近場にショップを見つけたのが琵琶湖畔の松原水泳場にあった「ワイキキ」という所でした。本当はウインドサーフィンのショップだったんですが意外と普通のサーフィンのメンバーも集まる店でした。一階は喫茶店で二階がショップとちょっと寝れる部屋がありました。夏に「鳥人間コンテスト」が目の前でやってる立地で隣には墓地までありました。その頃はナンパにバイク、サーフィンとそれなりにはまってました。夏場は店の前で飲み物を売ったり、クーラーボックスにビールやジュースを入れてビーチで売ったりしてました。夜はビーチでナンパした女の子と花火をしたり、鳥人間の発射台から飛び込んだりと楽しい毎日でした。そのままショップに泊まることも多く、常に何人かは居ました。

ある夏の日、帰省で帰る人や家の都合で泊る人が自分だけになってしまい仕方なく奥の部屋でクーラーを効かせて店から持ってきたビールを飲んで寛いでいました。「暇だねぇ」一人なのですることが無く、その頃はまだ携帯電話も無くネットも無かった時代なのでテレビしか娯楽がなかったんです。

それでテレビを観ながらゴロゴロしてたんですが、窓の外が女の子のはしゃぐ声で賑やかになってきました。

「楽しそうだねぇ、見えるかな?」

部屋の窓を開け浜の方を見ましたがそれらしき人影は見えません。窓の正面は墓地で左を向くとビーチなんですが、その頃は幽霊なんか信じていなかったのでさほど墓地を気にするでもなく、

「見えないか」

窓を閉めました。

瞬間、後ろに誰かが立ってます。閉めた窓ガラスに部屋の中が反射して後ろに誰かが立ってるんです。

「誰だ」

振り向いたけれどそこには誰もいません。

見間違いではないです。確かにセミロングの女性が立ってたんです。

もう一度窓を見ましたがそこに映ってるのは部屋に突っ立ってる自分だけでした。

その時今まで全然気にならなかった、窓ガラスに反射してる部屋と自分越しに薄っすらと見える墓地。

懐中電灯? 墓地の中を灯りがゆらゆらと揺らめいて

「墓でこんな夜中に何してるん?」

よく見るとその灯り、尾を引いてる。おまけに灯りを持ってるであろう人がいない。

「まさか、これが人魂か?」

ボケっと見てるといきなりこっちに飛んできて窓に当たって消えた。

「うわぁ!」

電灯もテレビも付いてるのに怖くてたまりません。

「鍵かけて帰るか」

人のいる所へ避難を考えてると階段を上がってくる足音が聞こえ、戸締りはしたはず。

「鍵を持ってるのはオーナーしかいない」

淡い期待を込め部屋のドアを見つめていました。もう、ドアを開けるなりノックをするなり何かしらのアクションがあっても良さそうなのに、階段を上がる音以来何も聞こえてきません。

もちろんドアを開ける勇気はないです。

「逃げ道がない」

窓のカーテンを閉め、布団を頭から被り震えていました。

「幽霊なのか?いるのか?」

「貴方じゃない」

耳もとで女性の声で囁かれました。

喚き散らし一目散に外まで走り鍵を閉めバイクに跨り逃げました。


後日、仲間にこの話をしても誰も信じてくれず。自分もそれ以降変な体験はしてません。何だったんでしょう?


その年ビーチで焼身自殺がありましたが、男性です。

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