第6話 寮の部屋

30年近く前の話をします。仕事が決まらず、とりあえず派遣の会社にお世話になった時に入居した寮で起きた出来事です。今はそのアパートがあった辺りは開発で全く変わってしまいましたが、当時は結構な田舎でした。前と右側は道路が通っていて裏は川の土手が二階の窓辺りまであり草だらけでした。周囲は田んぼが広がっていて民家も2、300m行かないとありませんでした。私が入居したのは一階の一室でした。玄関を入って右側がユニットバスで左側にちょっとしたキッチンがあり、奥が6畳の部屋という間取りでした。


入居して最初の夜、次の日が初出勤なので早めに寝ようとシャワーを浴び、寝支度をし布団に入りました。ウトウトしかけた頃にバスルームからシャワーの音が、隣のシャワーの音かと思いましたがどうやら自分の部屋からしているようです。確認しに行きバスルームの扉を開けた瞬間にシャワーの音も消え、先ほど自分がシャワーを浴びた状態と変わった所も無いように見えました。不思議に思いながらも次の日に仕事があるので寝る事にしました。その日はそれ以降何も起こらず朝を迎えました。

初仕事を終え寮の部屋へ戻りシャワーを浴び布団に入りウトウトしかけたら、またシャワーの音が、何か寝付くのを見られているようなタイミングです。バスルームへ様子を見に行き扉を開けた瞬間にまたシャワーの音が止みます。

「気のせい」と自分に言い聞かせ寝ました。


3日目は疲れからかシャワーも浴びずに寝ました。またシャワーの音で目が覚め起こされたことに腹立ちを覚えながらバスルームを見に行きましたがシャワーが出ていた形跡がないのです。バスタブも全く濡れておらず何処も濡れてないのです。「他の部屋の音か?」眠気で思考も纏らずに寝ました。

次の日の昼休みに同じ会社の人に寮の事を尋ねてみましたが、特にこれと言った情報も得られずに仕事が終わり寮に帰りました。今のところ夜に一回シャワーの音がするだけで他には何も起こらないので「慣れれば良いか」程度に思っていました。

その夜もやはり夜中にシャワーの音がしましたが、バスルームを見に行かなければどうなるのか? 何時までも音がしているのか? 明日は休みだしとことん付き合うつもりで様子を見ていました。すると15分位でシャワーの音は止みました。

時間は11時36分から51分まで。そういえば今までも大体11時半過ぎにシャワーの音がしていたのを思い出し、この時間に決まってるのか?と考えを巡らせていました。

「まあ、シャワーの音だけだし慣れればいいか。」と考えながらテレビを観ていました。

すると今度は部屋の窓をノックされ、(この窓はすぐ土手になってます)カーテンを開けてみましたが誰もいません。窓を開け左右を見てみますが誰もいません。土手は1メートル程の草だらけで、アパートの周りは砕石が敷き詰められていて歩けば音がしますが歩く音も何も聞こえませんでした。いきなりノックされそれだけです。訳が分かりません。またテレビを観ていると部屋の電燈が点滅しました、さっきのノックの音もあり恐怖が襲ってきました。テレビからは楽しそうな会話や笑い声がしていましたが何かうすら寒い物を感じ身構えていました。

また電燈が点滅! その瞬間、ほんの一瞬テレビの横に人が立っているのが見えたような‥

「気のせいだよな?」声に出していましたが、その声はふるえていました。寝よう!寝てしまおう!電燈もテレビも付けっ放しで寝ました。

どれぐらい眠っていたのでしょう、身体に何かが当たった感触で目が覚めました。

「あれ、電燈もテレビも付けていたはず。何で消えてるの?」

電灯もテレビも消えています。部屋の中は真っ暗です。

それより何で目が覚めたのか考えていると、部屋の中で足音がゆっくりゆっくりと一歩また一歩近づいてきます。恐怖は最高潮に、布団にもぐり込み丸まって知っている限りのお経を心の中で唱えていました。

その時、背後から首を絞められ段々意識が薄れていきます。

「殺されるのか、もしかして泥棒か?」

そこで意識が途絶えました。


気が付いたら朝で部屋の電燈もテレビも付きっぱなしで、昨日のは夢なのか?リアルな夢だったなと思いながら洗面所に行き鏡を見て、首に絞めたような手形が青あざになって付いています。急いで戸締りを確認しましたが全部カギが掛かっています。やっぱり幽霊なのか?

もう一度洗面所に行き鏡を見ていると、シャワーが勢いよく出だし扉が勢いよく閉まり閉じ込められた。扉を押してもびくともしません。目をつむりお経を一心に唱えていました。また首を絞められ気絶しましたが目覚めたのはバスルームではなく布団の上でした。もうこんな部屋には居られません。着替えを済まし飛び出し会社に電話しました。玄関で待っていると担当の人が来て今までの出来事を話していると、どうやら幽霊が出るのを知っていたらしく謝ってきました。が、我慢が出来ずその場で辞めました。

今はもうそのアパートは無くなっています。

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