第3話 温泉

最近の話です。新潟地方のある温泉宿に宿泊した時、シーズンオフの平日と言う事もありその日の宿泊客は自分一人だと聞かされました。

「温泉貸し切りかぁ」

単純に好きな時に入り放題だと喜んでいました、この時はまだ。

部屋で荷物をほどきまずは温泉へ。

温泉は地下になります。宿が山の斜面に立地しているため地下でも片側は山々の眺めやブナ林が素晴らしいです。

6時から夕食なので1時間は入ってられます。ゆったりと温まり夕食を食堂へ行き宿の人と話をしながら食べていました。

食事も終わり部屋で寛いでいると時計は10時を回っていたので

「もう一度温泉に入って温まってから寝るか」

お風呂の支度をして温泉へと向かいました。

一人なので誰に気兼ねなく入れます。浴槽は内湯と露天があり、露天でのんびりと浸かっていました。今日は生憎の雲天で月明かりもなく宿の灯りの外は漆黒の闇です。


「温まるなぁ」

リラックスして湯に浸かっていると、その漆黒の森の中を何かが歩き回る音がしだしました。最初は動物だろうと気にせずにいたのですが、何かがおかしい足音の感じは鹿ぐらいの大きさの動物の音で最初は一つしかしなかった音が今は5,6か所から聞こえます。

「人がいる所へわざわざ寄ってくるか?」

露天に入ってるのが怖くなってきて内湯へ逃げる様に移動して、窓から外を見ていましたが、鹿や猪が見えれば安心出来たのでしょうが動き回る物は見えません。

内湯に浸かり多少安心していると、露天からお湯に飛び込むような音や湯をかけるような音が聞こえてきた。不思議に思い露天を見てみますが誰もいません。動物がいる気配もない。怖い、もう駄目だ出ようと出口を見るとすりガラス越しに人影が5,6人いる様に見えます。

「そんなバカな!」

出口は其処しかありません。意を決し扉を開けました。誰もいません、今まで人影が見えたのに。

もう体を拭くとか、そんな余裕はなかったです。浴衣とかを抱えたまま裸で部屋まで逃げました。誰かの視線を感じたまま。


部屋へ帰ってからは何事も無かったんですが、朝湯はさすがに無理でした。

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