第11話

一瞬、気が遠くなった。何も考えられなくなった。息までもするのを忘れてしまった。

 心臓の鼓動がバクバク早くなる。

 一体、何がなんだが理解できないまま続きをスクロールすると。

 俺たちの住むマンションの廊下にゴムマスクの男が立っている写真が写っていた。

 それを見た同時に、俺は狩村の安否が心配になった。

「狩村ァ! 開けるな!」

 急いでドアにまで走り出そうとするが、ガチャリ、と既に開いてしまった音がする。

 俺はあの時の出来事がフラッシュバックしてしまった。雨が降り、少女が襲われるあの出来事を。

 そしてグシャリ、とトマトか何かが潰れる音がして俺は立ち止まってしまった。

「に、逃げ…………」

 狩村の掠れた、死にかけた声を最後に俺は足がすくんで動けなくなった。

 まただ、俺はまた見捨てる事になる。俺は何も変わってやいないんだ。

 ドアの外にはゴムマスクの人間が俺を殺すために待っているだろう。このまま家に隠れて警察を呼べば俺は助かるかも知れない。けどそれをすれば狩村は確実に助からない事になる。

 動け、動いてくれ。俺はもうこんな後悔したくないんだ。

 そう願っても足はすくむ。

 無理矢理、無理矢理恐怖に耐えながら足を動かして、一歩一歩、ドアに近づいて行く。

 木のバッドを手に、足を震わせながらドアに手をかける。

 外にいるかもしれない、だから外に出たらバッドを振る。

「三……二……一!」

 ドアを開けバッドを振ったが、空を切った。

「消えた……?」

 狩村はどこ行ったか周囲を見渡すと下に赤い液体がピチャリ、ピチャリと湿っていた。

 そして、開けたドアが閉まるとゴムマスクが目の前にいた。

「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 俺はとにかく叫び、ゴムマスクの腕にバッドが折れるほど思いっきり振った。

「……!?」

 ゴムマスクの音にならない叫びが出て、倒したかと思ったがそいつは立ち上がろうとする。

 俺はとにかくその生まれた一瞬の隙で家の中に入る。

 さっきの数十秒の行動だけで数キロ走った気持ちになる。とにかく鍵を閉めようとするが、ゴムマスクの足がドアに挟まる。

 蹴って押し出そうとするが、次は腕をドアに入れられる。

 ダメだ、俺は今すぐその場から一番近い、自分の部屋に逃げドアを閉めて鍵を閉める事に成功した。

 狩村はどうなったのだろう、あの血を見るにまさか。いやそんなわけない、そんなわけないんだ。

 俺は何度も狩村は無事だと心に言い聞かせ、スマホを取り出して警察に連絡しようとする。

 指が震えながらタップしようとすると、後ろのドアがドン! ドン! と強いもので叩かれている。

 俺はイスとベッドを無理矢理動かしてドアの前に置き、押入れの中に隠れた。

 何度も打ち続けられる音を聞きながら、俺は警察に電話する。

 早く出ろ、早く出ろと祈った。

『はい、こちら警察本部ですが、どうされましたか?』

「家に誰かが侵入してきて……とにかく来てくれ!」

 ろれつが上手く回らなく何を言えばいいのか、わからなく、早く来てくれと何度も叫ぶ。

「落ち着いてください、住所を教えてください」

 相手は俺を落ち着かせるために平静を装ってるのだろうが、俺からしたら早く来て欲しいと願う事ばかりだった。

 住所も全部いい、早く来てくれと通話が終わった同時にドアが突き破られる音がした。

 俺は息を飲み、どくりと心臓が高鳴る。

 まずい、このままじゃパトカーが来るのは間に合わない。押入れの端に寄せるように隠れて息をひそめる。

 スタ、スタ、スタ。

 一歩、一歩、ゆっくりと近づく音がする。武器がなく、震えて立ち向かう勇気さえももうでない。

 ただ出来ることはこうして隠れるだけだった。

 がしゃんがしゃんと何かの機械が倒れたり、本棚が倒れる音がする。それから一分ほど経った後、押入れに足跡が近づいた。

 そして手をかけられる音がした。だが開けられる気配はない。

 その時、メールの音がして急いで音を隠そうとした。

 気づかれた。完全に気づかれた。

 だがゴムマスクは開けて来なかった。奴は俺が出るのを待ってる気なのか、だがそれだと警察と出会わす可能性が高いという事になる。

 ゴムマスクの行動が考えられなかった。そして足音が遠くなっていく音が聞こえた。俺はそれでもここから出ようとはせず、警察が来るのを待った。

 それから数分後経った後に、警察が俺を押入れから救ってくれた。

 狩村の行方はどこかに消えていってしまったらしい。

 おそらく、俺は死んでしまったのだろうと考える事にした。それでもどこかで生きてて欲しいと願っている。

 その事件から次の日だった。俺は商店街を歩いて狩村の事をそこら中に聞いて回ってる中、狩村の元彼女に偶然会ってしまった。

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