第10話

その後、高梨は目を覚まさず、救急車とパトカーがやって来て俺と狩村はパトカーに乗った。

 それからはまた長い事情聴取で外に出れたのは朝焼けだった。

 まだ打ち所が悪く高梨は意識不明のままらしい。狩村はその事を気にしていてあまりいい表情とは言えなかった。

 俺は命を救ってくれた狩村を精一杯フォローした。大丈夫だ、お前の力じゃ死にはしない、とか。

 少し、酷いフォローだったが狩村は笑った。無理した笑いに見えた。俺もあまり元気があるわけじゃないが、狩村は余計酷く少しでも元気付けたいので朝からでも開いてる少し高い肉料理店に入った。

「俺が奢るからなんでも食えよ」

 狩村は最初はいいと否定したが、俺が助けてくれたお礼だって言ったら素直に受け入れてくれた。

 狩村は百五十グラムのステーキを頼み、俺は一番安いハンバーグセットを頼んだ、朝から肉は少し胃が重いが昨日はロクな食事を摂ることが出来なかったんだ。これぐらいいいだろう。

「ねぇ、これで本当に終わったんだよね」

 店員に注文をした後、外の朝焼けを見つめて狩村はふと呟いた。

「これで終わったと思う」

 これで、終わって欲しかった。

「俺は、この事件が落ち着いたら碇の家族に逢いに行って、謝りに行こうと思ってる……せめて線香くらいはやっておきてぇんだ……」

 この行動はただ、家族に許されたいわけじゃなく自分が救われたいわけでもなく、碇優花に許されたいからやるんだ。

 死んだ彼女はどう思うのか、そもそもこの事は伝わるのかわからない、でもやっておかなきゃ自分も後悔する。

「そうだね……うん、それがいい」

「お前にそう言ってもらえると助かる」

 そのまま適当な話を繰り返し、数十分ほど経った後に料理がやってきた。

 狩村はステーキにコンソメスープとライスがついて、俺はハンバーグの上に目玉焼きが乗っているランチセット。

 食欲が注がれそれを口に運んだ。

 久しぶりに飯を食った気がする。口に飯を運ぶ速度が速くなる、よくよく考えると最近はイタズラの事ばかりで、まともに食ってなかった。

 涙が出そうだ。

「食べすぎじゃないか? リスに見えるよ」

 狩村は黄色いスマホを取り出し、写真でも撮ろうとしている。

「それぐらいうめぇんだよ、ってか写真やめろよ」

 水で一気に流し込み、次を食べようとした時スマホがバイブで震えた。

「……?」

 おそらくメールだろうと思い、無視する事にした。

 もう一度飯を食べる事にして、無料のスープのお代わりに頼んだ。

 俺は満足した気で全てを平らげた。






 家に帰り腹を摩りながら、横たわる。

 ライスとスープはお代わりし放題だったせいかライス三杯、スープ六杯も食べてしまった。

「いくら久しぶりだからって食べ過ぎじゃない? それじゃあ胃がびっくりするよ」

「はは……もうしてる……胃薬ないか?」

 妊婦さんのように太った腹を見て狩村は苦笑いしながら薬箱の中を探った。

「あれ? もう中身がない……そういや最近買ってなかったな」

「そうだったか……じゃあ俺が買ってくる」

 重い腹を抱えながら立ち上がろうとしたが、狩村がそれを制止した。

「奢ってもらったんだ。これぐらい僕が買いに行くよ」

「そうか? 悪いなぁ、何から何まで」

「本当にそう思ってくれるんならありがたいよ」

 狩村はそう笑い、外に出かける準備をしている。

 そして狩村がスマホを上着のポケットに入れた時、さっききたメールを思い出した。

 どうせロクでもない迷惑メールか俺が登録しているサイトのだろうと思っている中、宛先が書いてなかった。

 迷惑メールの方か。

 中身を適当に確認してゴミ箱行きだな、とメールにタップした。




『まだ復讐は終わっていない。お前は今から死ぬ』

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る