第9話

俺は何も証拠は掴めずまま家に帰ろうとした。

 結局、誰が俺を狙っているんだ。ユカは何者なんだ。

 何もわからないもどかしい恐怖、もしかして今も俺を監視してるのではないか。

 俺の横を通った車は俺を連れ去ろうするかもしれない。

 今、後ろから走ってくる自転車の運転手は俺の後頭部を殴るかもしれない。

 傘をさすおばちゃんはそれで俺の喉元を突き刺すかもしれない。

 コンビニでたむろをしているヤンキーは服に隠したナイフで俺を殺すかもしれない。

 全てが信用できなかった。

 俺は怖くなって足を全力で走らせた。

 来るな、誰も俺を見るな、頼む、頼む。

 息が切れるのも忘れ、マンションが近づいてきた。もう大丈夫だ、一旦家に帰れば大丈夫なはずだ。

 いつもの道を通り、マンションに入りエレベーターに乗ろうとした瞬間だった。

 マンションの外から黒いゴムマスクを被った人間が俺を見ている。

 なんなんだ、あいつは。

 ただ一言で言える事は怪しい奴、ふと目が合い嫌な考えが頭に浮かんだ。

 あいつがユカと名乗る人間だとしたらどうする。

 俺はどうすればいいか、立ち向かうか、ダメだ勝てる確信がない。悩んでいた頃、黒いゴムマスクが俺に向かって走り出して来た。

 やばいと俺は本能で感知し、今すぐエレベーターに乗り閉じるボタンを押した。

 ゴムマスクが近づいてくるまで後十メートル。

「閉じろよ!」

 何度も閉じるボタンを押すが、間に合わない。ドアがあと少しの所でゴムマスクが手を突っ込み、ドアは開かれた。

 恐怖で動けない、何もできない。俺はこのまま殺される。

 武器もない、俺は喧嘩など強くはないんだ。

 ゴムマスクがあと少しの所で近づいたその時だった。

「警察を呼ぶぞ!」

 狩村の声が聞こえ、ゴムマスクは驚きエレベーターから逃げ出して行った。

 その隙にエレベーターを閉じ、恐怖によりまるで真空状態だった俺は息を吸った。

 生きた心地がして安心した。エレベーターが進んで行き、早く家に帰って警察に相談をしようと考えた。

 エレベーターが四階につきドアが開き外に出ようとしたが。



 ゴムマスクが目の前にいた。

 


 ゴムマスクが迫り来る。

 ゴムマスクに抵抗するすべなく、首を絞められ押し倒された。

「がぁッ……! あぁっ……!」


 息ができない、苦しい。

 ゴムマスクの腕を何度も叩くが、不意を突かれ全体重を乗っかられて動くことができずよだれが出る、頭がはち切れそうになる。喉仏が折れそうになる。

 もう足掻く声すら湧かず、意識が薄れかけた。

 だがゴムマスクの背後に人影が見えた。

 ゴン!

 ゴムマスクは俺に寄り添うように倒れ、喉が解放され酸素が送られる。脳が機能を取り戻して行く。

「かぁっ……はぁ……はぁ……」

「間に合った……?」

 木製バットを持った狩村が立っていた。

「救急車呼んだ方がいい……!?」

「……俺……より……こいつ……」

 声が上手く出ない、とにかく警察と救急車二つを呼べと狩村に示した。

「わかったよ、待っててよすぐ呼ぶから!」

 狩村はそう言って走っていった。俺はエレベーターを開け、ゴムマスクをエレベーターの外に引きずり出した。

 死にかけだ腹いせに一体どんなツラをしているのか見ようとしたが、言葉を失った。

 ゴムマスクの下には頭に少し血を流している高梨であった。

「………………なんでだよ……」

 頭が混乱する、一体誰を信じればいいんだ。

 でも、これで終わったんだ。これで、これで。

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