第7話

窓の外が光を取り戻しかけている。

 もう朝なのかと時間を見ると五時前、あれから一睡もできなかった。

 昨日から何も飲まず食わずなせいか少し胃が気持ち悪い。

 狩村に気づかれず、水でも飲もうかとドアを開けようとした。

「やっと出てきた」

 後ろから狩村の呆れた声が聞こえた。

「昨日は悪い、ちょっと疲れてたんだ……」

 俺は中途半端な言葉で誤魔化そうとした。

 狩村だけは本当に関係ない、だから巻き込みたくはなかった。

 狩村はため息をついた。よく見ると目にクマがあった。


「君は本当に嘘が下手だな……」

 そう言い狩村は三と書かれた赤い手紙を俺に見せた。

「今朝届いた。全部中身も見た」

「…………じゃあ俺は今日出て行く……お前は関係ないからな」

「ちょっと待てよ、ただのイタズラの可能性だってあるだろ?」

 狩村は無造作に手紙を破って横のゴミ箱に捨てた。

「先輩だって……自殺だよ。サイトの奴が殺しにきたわけじゃない」

「……イタズラはされるかもしれないだろ」

「もうされてるよ……さっきも無言電話が何度もやってきた……いいか? もうこれは君だけの問題じゃない。僕だってやられた、だから僕にも関係がある……だからワケを話してくれないか? 理由があるんだろ!」

 俺は閉ざしていた口を開こうとしてしまった。

「俺は…………」

 だが思い留まる。

 本当に言っていいのか。

 このまま言えば少しは楽になるだろう、けどそれはこいつも被害に遭う可能性があるって事になる。

 狩村と俺は半年前、居酒屋のバイトで出会った。シフトが被って休憩時間中に話をすると意外に気が合い、仲良くなった。

 家賃を払えなく追い出された俺を助けてくれたのも狩村なんだ。こんないい奴を巻き込むのは気がひける。

 このまま黙っていようと考えたが、狩村の一言が俺を迷わせた。

「僕たち、友達じゃないか?」

 友達、確かにそうだ。友達だからこそ巻き込めない、それでもどこか心の奥で楽になりたい気持ちもあった。

「俺は…………俺は…………」

 友達という人押しに閉ざしていたフタを開いてしまった。


「見捨てたんだ……」

 あれから、休憩を入れながら雨が降った当時の事を話した。狩村は終始無言のまま目をつぶって聞いていた。

 彼はどう思っているのだろうか、俺を情けない奴と思うのだろうか。それを知るのが少し怖い。

 全てを終えた後、苦い顔のまま狩村は言った。

「……仕方ないと思う。君はやれるだけやった」

「でも……あの時、俺が立ち向かってれば変わってたかもしれねぇだろ……」

「そうかもしれない、でもそうじゃなかったかもしれないだろ。君が相手に勝てたとは限らないしむしろ君まで大怪我してたかもしれない」

 俺は、犯人が菊池さんだって事は黙っていた。

「それに……君はここまで傷ついているじゃないか……」

「だったら……俺はどうしたらいいんだ……?」


「やめさせるんだよ……僕たちで碇優花って人も絶版サイトも」

「やめさせる? どうやってやんだよ……警察に言って取り扱ってくれるかわかんねぇだろ……」

 ふと、床に落ちた破けた赤い手紙には三と書かれた数字に目が入った。四の次は三、前までは四は死の意味かと思ったが、これはカウントダウンなのかもしれない。

「碇優花って人は……君のクラスメイトだったんだよね……」

「ああ……」

「その人を探して見つける……僕はこう考えている」

 探す。だがユカという少女が本当に碇優花とは限りない。ユカという名前を使った第三者かもしれない。

 でも狩村がここまで俺の事を心配してくれた事に少し救われた気がする。

「わかった……俺は少しでも罪と向き合う事にする……」

 俺は、狩村のためにも碇優花のためにもやれるだけやってみようと思った。

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