第5話

署で話をしていた時だった。一人の若い刑事が書類を観ながらぼそりと呟いた。

「まぁ、強姦なんてしてたらそりゃあ怨まれるよな」

 その言葉に意識が奪われた。強姦?

「それって……どういう事なんすか」

 恐れながらも聞き、刑事は濁すような物言いになった。

「うん、まぁ、ちょっとな」

 イタズラをしかけた者はユカと名乗り、菊池さんは暴行事件? ふと嫌な考えが湧いた。

「そう言わず教えてくださいよ……頼みます」

 俺は頭を下げた。すると刑事はため息をついた。

「仕方ねえな……俺が言ったって他の刑事にはチクんなよ?」

「はい……」

 刑事は書類を観ながら舌ったらずで面倒くさそうに話を始めた。

「菊池孝、本名高橋孝はえーっと……今から十年前の六月九日に当時中学生の少女に暴力を振るって……確かその後に自ら自主したらしい、で少年刑務所から出所した後、菊池に姪を変えたそうだ」

「十年前……それって雨が降ってた頃っすか……?」

 それを言うと刑事はデメキンみたいに目を丸くした。

「よく知ってんな。確かに大雨が降っているって書いてあるな、他にも神社で雨宿りをした時に……当時兄が妹の傘を借りてしまったのが運の尽きってか」

 まるで心臓を掴まれた感覚に陥った。気分が悪い、今すぐ胃に溜まった胃液を吐きたい。

 でも、自分の口は止まらない。

「それで…………被害者の名前は、碇優花……っすか?」

「……………………エスパーかよ……」

 刑事は小声で一言何か喋った。俺はそれを聞き逃さなかった。

「流石に被害者の名前は言えねえよ。それぐらいわかるだろ」

「そうっすよね……」

 刑事の反応で察してしまった。

「あと……絶版サイトについて何かわかったっすか?」

 刑事は両手を広げ。

「いや? そもそもそんなサイトなんて聞いた事ねえ、お前たちの見間違いなんじゃないか?」

「いや、ちょっと待ってくださいよ、ちゃんと調べましたか!? 菊池さんはそいつに殺されたんすよ!」

「落ち着けよ、俺たちだってちゃんと調べてる調べてる。少なくともそのなんたらサイトっての事件はこれ以外に聞いたことはない。しかも検索しても引っかからない、個人が作った悪質ウイルスみたいなもんだよ」

 こうなっては、あまり警察の力は借りれないかもしれない。だったらどうしたらいい、次に狙われるのは俺かも知れないのに。

「すいません、ちょっとトイレ……」

 気分が悪くなり、そこからすぐ逃げるよい立ち去った。

 トイレの個室にこもり便器に胃液を吐いた。

 これはあの事件の復讐かもしれない。俺が中学生の頃、見捨ててしまった少女の、俺があの時立ち向かっていれば少なくとも変わっていたかもしれない。菊池さんが死ぬ事も少女が苦しむ事も無かったはずだ。

 全部俺のせいだ。

 口を洗い、洗面所の鏡を観ると一瞬、襲われていた少女の姿が見えて胃液がまた上がってきた。

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