第14話 ロボットヒーロー大戦
灼熱竜王ゴッドレックス。
その名を掲げて戦場に躍り出た真紅の恐竜神に、グロスロウ九頭竜将はすぐに襲い掛かれずにいた。全く未知の存在であるがゆえに手の内が読めないためだ。
加えて、先程放たれた牽制の咆哮は凄まじい威力であり、近くで浴びれば精鋭の九頭竜将といえどタダでは済まない。それを直感で理解しているからこそ、彼らは踏み込めずにいる。
「ええい……新手が1匹増えたところでなんだと言うのだ! 九頭竜将、此奴も始末してしまえ――ッ!?」
だが、手の内が読めないからと引き下がるわけにもいかない。ゾギアン大帝が怒号を飛ばし、九頭竜将が動き出す。ゴッドレックスが加わったとしても竜史郎達は3機であり、未だ不利な状況だ。
「不吹ッ! 今度こそ、皆を守るんだろッ……こんなところで倒れるなッ!」
「……明星君ッ!?」
――だが、その時。夕暮れの空を割いて、真紅の翼……ジャイガリンブースターが駆け抜けてくる。
Pの熱線を巧みにかわしながら、機銃掃射で九頭竜将を牽制する彼は――Gの窮状を目にして、操縦桿を強く握りしめた。
「光先輩、聞こえますか!」
「えっ……その声、もしかして明星君!? わぁ懐かしい! 高校以来だね――」
「今から武装を投下します。先輩も応戦してください!」
「――って、え、えぇえ!? わ、わ、わあっ!?」
そして、この現場に居合わせている高校時代の先輩目掛けて――ブースターに搭載されている武装を投下して行った。それを慌てて受け取ったまもりちゃんの機体に、物々しい装備が次々と加わっていく。
元々ペイロードに余裕がある本機は、様々なオプション装備を追加できる設計なのだ。ライフルとシールド、リアクティブアーマー、そして右肩のキャノン砲と左肩のミサイルポッドを新たに装着した彼女は――「フルアーマーまもりちゃん」として、この戦場に顕現、してしまった。
「ちなみに必殺技の全弾発射をすると……とってつけたような武器ばかりなので、反動で服が脱げますから気をつけてください」
「な、なにそれ!? ちょ、ちょっと明星くぅうん! こんなの貰ったってわたし……!」
「こんな状況なんです、手段は選べません! 大丈夫です、俺がサポートしますから!」
「う、うーん……」
「……信じてますよ、『まもりちゃん』!」
「――ッ!」
それでも実践経験のない彼女には、おいそれと扱える代物ではない、のだが――戟が発したその一言が、光の中に滾る声優としてのプロ根性に火を付けた。
「まもりちゃん」は世界防衛軍のマスコットであり、市民の平和を守るアイドル。そんな彼女を演じている以上、平和を脅かす敵に背を向けるなど、あってはならない。
怖いけど、それでも。「まもりちゃん」である限り、守らねばならない。それが声優・装光の意地なのだから。
「わ、わたしは……わたしは、世界防衛軍マスコット・まもりちゃん! みんなのためなら……脱げても戦いますっ!」
「よく言った! バックアップは俺達に任せな嬢ちゃんッ!」
「……ふぇっ!?」
すると、そんな彼女を鼓舞するように――海上から飛来する駆動戦隊スティールフォースが、ついに現場に到着した。
「最終決戦で出撃とは、ある意味では華々しいデビュー戦だな。……ま、上手く決めればの話だが」
「……!」
まもりちゃんの頭上を飛び越すように着地したグランガードが、Gに肩を貸して助け起こす。35mに及ぶ巨体に起こされ、Gもようやく立ち上がることができた。
「みんな……!」
「お待たせしました、不吹さん! ここからは、俺達に任せてください!」
「邪竜の群れは、拙者達が引き受けよう。貴殿は、あの首魁を討つが良い! ――究極の闇を切り裂いて、青の武人、サムライバー零、見参! 助太刀いたすッ!」
そこへさらに、ダイアンカーGとサムライバー零も駆けつけてくる。彼らの先頭に立つパイルノキオTの視線が――ゆっくり、竜史郎と重なった。
「ゾーニャ……」
「スティールフォースは、仲間を見捨てない。……言っとくけど、アンタが情けなくて見てられないから、戦ってるんだからね。アタシだって……アンタに負けないんだから!」
「……あぁ。ありがとう、ゾーニャ」
「――ッ! れ、礼なんて要らないわよッ! それより……あの赤い恐竜は何なの? ダイノロドとは違うようだけど……」
「分からない。でも……オレ達の味方になってくれるみたいだ」
「味方、ね。不確定要素しかない所属不明機を、戦力に数えたくはないけど……今は四の五の言ってられる状況じゃないわ。仕方なく、アテにしておいてあげる。だからアンタは……さっさとゾギアン大帝を仕留めなさい! ダイノロド達は、アタシ達が引き受けるから!」
「分かった!」
竜史郎に柔らかな笑みを向けられたゾーニャは、顔を赤らめて目を背けてしまう。そんな隊長の姿に歩と渡は、暫しニヤニヤしていたが――やがてそれぞれの「獲物」に目を付けると、鋭い顔付きに豹変した。
「不吹さんがが切り開いたチャンス……俺が繋ぐぜ!」
「俺達が、だろ? ……最新鋭技術をしこたま投入したんだ、やってやるさ」
得体の知れないゴッドレックスの動向に警戒しつつも、その眼光は紛れも無い「敵」である九頭竜将に向けられている。
「あの赤い恐竜、味方ならいいんだがな。……不吹、ブースターを装着するぞ! 跳べッ!」
「……よし!」
そんな彼らの様子を一瞥した後、戟は竜史郎と息を合わせ空高く舞い上がった。
「ブースター・クロォォス!」
そして。ジャンプしたGとジャイガリンブースターが、平行するように重なる瞬間――Gの背に赤い大翼が装着され、戟を乗せたコスモビートルがブースターから切り離される。
新しい飛行能力を得たGは颯爽と空を飛び、邪竜達を飛び越えるようにゾギアン大帝のEに迫って行った。そんな彼を見届けつつ――コスモビートルを駆る戟は、戦いに不慣れなまもりちゃんのサポートに徹するべく、彼女の周りを飛び回っていた。
「おのれ、次から次へと小癪な……! N、L、Fはフブキ・リュウシローに引導を渡せ! 後の者は奴らを捻り潰せッ!」
――だが、彼らが加わってくれたからといって、容易くゾギアン大帝の元にたどり着けるわけではない。
真紅の炎竜と深緑の凶竜、そして白銀の巨竜。九頭竜将の中でも、より強大なその力を以て――Wを抹殺したこの三巨頭が、竜史郎の前に立ちはだかる。
「くッ!」
「行け、余の眷属達よ! この愚かな勇者に相応しい死を――ぬゥッ!?」
――だが。この戦いの場に現れた「所属不明機」は、ゴッドレックスだけではなかった。
空の彼方から。あるいは、宇宙の果てから。海の向こうから。
突如この戦場に現れた、三つの巨大な影が――三巨頭に激突し、そのまま彼らを散り散りに連れ去ってしまったのである。
その予想だにしない事態に、ゾギアン大帝が瞠目する瞬間――Gの振るうダイノロド・アックスの刃が眼前に迫って来た。
その一閃を、胸から取り出した碧い戦斧で凌ぎ――ゾギアン大帝が操るEは、後方に跳んで行く。脱ぎ捨てられた漆黒のマントが、空高く舞い上がって行った。
「おのれッ……! 余の邪魔立てばかりしおって、下賎な地上人どもがッ……!」
「あの3機は……!? ――いや、今はゾギアン大帝、あなただ! ここで終わりにさせてもらうぞッ!」
「ほざくな! 貴様のような若造に、我が帝国の悲願を邪魔されてなるものかッ!」
互いの斧を激しくぶつけ合う、30mに及ぶメタリックブラウンの巨人と、40mもの体躯を誇る国防色の鉄人。彼らは戦いながらもつれ込むように、この孤島の中心部にある亀裂の下へと向かって行く。
――最も強力な死地熱エネルギーが発生する、グロスロウ帝国発祥の地へと。
◇
一方。黄土の蛇竜――ダイノロドNを、森を抜けた先の山岳地帯まで連れ去った深紅の機体は。蛇竜を蹴り飛ばして距離を置くと、崖の上に颯爽と着地していた。
全長約20mもの人型ロボットとは思えぬほどに、その動きは艶やかであり――
深紅の西洋甲冑を思わせる外観と、金色のポニーテールのような兜飾り。マークスマン仕様のビームライフルと、近接戦闘用シールドクロウ。
それらの特徴を備えている、この機体のコクピットの中で――1組の男女が言葉を交わしていた。
……否。1人の男と、AIデバイスが。
『ヤトヤ様、あれは……』
「
『……はいっ! レグナム! 介入を開始するのです!』
その機体の名は、レグナム。
電子インターフェイスを搭載し、魔術的な理論を元に活動する深紅の「
◇
かつて東京の市街地に現れ、ジャイガリンGと一戦を交えたこともある識別不明機。「グレートファントム2号」と称される、その機体は今――白銀の巨竜・ダイノロドFと対峙していた。
黒を基調にしたボディに、両肩に搭載された黒い砲台。右腕に装備された、メインウェポンのバズーカ砲。どれを取っても「破壊」のみに注力された、暴力的な印象を受ける機体である。
漆黒の鉄人と、白銀の巨竜。島の上空で睨み合う双方は、一触即発の空気を纏っていた。……が、それに対して。
「おもしろそう。あのかいじゅうとあそぶ!」
グレートファントム2号のパイロットである、5歳前後の少年――ラッキーは、悪の組織の幹部とは到底思えない無邪気さではしゃいでいた。
だが、その力はまやかしではない。彼は幼い貌の中に、「悪」を帯びた眼差しを秘めて――Fの両眼を射抜いている。
「……あのおにーちゃんをこわされたら、たのしみがへるからやなの。だから、かわりに……きみがたのしませてね」
そして、愉悦の笑みが少年の表情を満たす時――山さえ砕く右腕のバズーカ砲が、眼前の巨竜に向けられた。
「グレートファントムシリーズ」最高傑作の力が今、解き放たれる――。
◇
「やいこら侵略者、あんまり地球人をバカにするんじゃないわよ!」
「に、
「ちょっととんでもないことになってるよね、これ……」
それも、グロスロウ九頭竜将の中でも一際高い戦闘力を持つ、三巨頭の一角――ダイノロドLを相手にして。
発端は、ニュースで見た防衛軍パレードの襲撃騒動だった。これを見たパイロットの1人――西尾麻里が、怪獣を自分達でやっつけてやろうと言い出したのである。それからあれよあれよと言う間に、彼女達は街外れの自宅から出撃してしまったのだ。
市井の天才科学者・
外見はおかっぱ頭の10代後半の女性であり、青色基調のセーラー服を模した軽装機動戦兵装・タイプNを身につけている。
袖口に備えた粒子ビーム砲を構える彼女は――スティールフォースがいる地点から遠く離れたこの海岸線で、ダイノロドLに真っ向から対峙していた。
「はぁ……こうなったらやるしかないね!」
「無事に勝てるといいけど……」
「よっしゃ! いっけーアグネスっ!」
「はいっ。大塚さん、西尾さん、鈴木さん。私……頑張りますね!」
とてもこれから戦う者とは思えないような、柔らかなアルトの声を響かせて。アグネスと少女達の戦いが、始まろうとしている。
――かくして。この地に集いしロボットヒーロー軍団の戦いが、その幕を開けたのであった。
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