第13話 灼熱竜王、顕現


「最終調整完了! パイルノキオT、ダイアンカーG、グランガード、サムライバー零、ジャイガリンブースター、発進可能です!」

「待たせやがって……! さっさと出るぞ、死にたくなかったら引っ込んでろ!」

「整備兵の皆、ありがとう! すぐに出るから下がっててくれ!」


 ジャイガリンGが「グロスロウ九頭竜将」との戦闘に突入し、約3時間。ついに最終調整を終えた新型機達が、続々と出撃準備に取り掛かっていた。

 歩の怒号と渡の礼が同時に飛び出し、整備兵達が蜘蛛の子を散らすように離れて行く。地上に射出されるカタパルトに乗った5機の新型が火を噴いたのは、その直後だった。


「待ってください! 出撃は可能ですが……パスコードを叫ばなくても、武装を展開出来るようにするプログラミングがまだです!」

「どうだっていいわそんなもん! さっさと出せッ!」

「……全く、戦う前から落ち着きのない連中で御座るな」

「それくらいでないと、この先の戦いには付いてこれないわ。……ゲキ、準備はいいわね」

「……あぁ。行こうぜ隊長、不吹が待ってる」


 卓や戟に声を掛け、スティールフォースの隊長であるゾーニャが発進のコールを行う。次の瞬間――5機の新型が、地上目掛けて一斉に飛び出していった。


「駆動戦隊スティールフォース、発進! パイルノキオ・ゴーッ!」

「ダイアンカー・ゴーッ!」

「グランガード・ゴーッ!」

「サムライバー・ゴーッ!」

「ブースター・ゴーッ!」


 黄昏に染まる空の下に、次々と顕れる5機の新型機。彼らはジャイガリンGの後に続くように、戦場目掛けて最大戦速で直行していく。


『用心して掛かれよ! これが地球製ロボット軍団の、初めての実戦なんだからな!』

「あぁ、分かってる! ……待ってろよ。あんただけは、絶対に死なせない……不吹ッ!」


 その中でも最速で移動しているジャイガリンブースターは、夕陽を映す海原の上を弾丸の如き勢いで駆け抜けていた。彼だけはなんとしても守らねばならないと、操縦桿に決意を込めて。


 ◇


 それは、一方的という言葉すら足りない程の形勢であった。ジャイガリンGとグロスロウ九頭竜将の間にある戦力差は、もはや「戦い」が成り立つようなものではなかったのである。


「あ、あわわ……どど、どうしようどうしようっ……!」


 9対1という絶望的な戦局を、まもりちゃん――装光は、岩陰から見守るしかなかった。九頭竜将は彼女を戦力外と見做し、全く意に介さずGを襲い続けている。

 それはまもりちゃんを守る上では好都合であるが……竜史郎1人に全ての攻撃が向かうことを意味している。いかに彼が2体ものダイノロドを撃退した手練れであるとは言え、9体もの精鋭に包囲されてはまともに戦えるはずもなく――徐々に、それでいて確実に、追い込まれつつあった。


「くッ――スピンリベンジャー・パァァンチッ!」


 9体による絶え間ない連続攻撃。その僅かな隙を縫うように、Gの鉄拳が撃ち放たれるが――ダイノロドAの硬い背面装甲に弾かれ、反撃の尾を腹部に浴びてしまった。

 鎚の如き強固な一撃が、Gの巨体を転倒させる。


「ぐぁッ! くぅ、もう1発ッ――!?」


 そこへ再び尾の追撃が迫り、Gは咄嗟に跳ね起きて鎚をかわす。だが、反撃の鉄拳を再び放つ前に――ダイノロドMの大顎に拳を噛まれ、発射を阻止されてしまった。異様に発達した上顎の牙が、Gの腕を貫き逃げられないように捕らえている。

 Mの膂力はそれだけに留まらず……体格で上回っているはずのGの身体を、そのまま振り回してしまった。彼の者に投げ飛ばされたGは、地面に叩き付けられてしまう。


「あぐッ! ――くそッ、ワイバーン・カノンッ!」


 ならば、さらなる大火力で押し切るしかない。竜史郎は背部に装着されているWに命じ、両肩に乗った二つの顎から熱線を放射する。

 だが――全てを穿つはずのその熱線は、正面に立ち塞がるダイノロドSの火炎放射によって、容易く飲まれてしまった。Gの頭上に、覆い尽くさんばかりの灼熱が迫る。


「おぉッ……!」


 咄嗟にその場から跳びのき、回避に成功したが――今度は背後から、ダイノロドOの首が巻き付いてきた。一瞬にしてGを絡め取ったOの首が、強烈な力でその巨体を締め付ける。


「うおぁあぁッ! ――ぬぅうんッ! ダイノロド・アァックスゥッ!」


 このままでは、じきにGの装甲が押し破られてしまう。竜史郎は空いた右腕で胸から真紅の斧を取り出し、一気に首を斬りつけた。

 ――だが、Oの首には傷一つ付かない。そのまま投げ飛ばされたGは、空中で回転しながらなんとか着地するが……すでに眼前には、ダイノロドNの尾が迫っていた。


 Gよりも遥かに巨大なNの尾は、その外見からは想像も付かない速さであり――なんとかジャンプしてかわしても、次の瞬間には切り返してきた尾に打ちのめされてしまう。

 まるで蝿を叩き落とすかのように、Gは一瞬で吹き飛ばされてしまった。


「ぉあぁあッ! こ、このままではッ……!?」


 傷付きながらも、なんとか立ち上がるG。だが、その頭上には既に――巨大な翼を広げて立ち塞がる、ダイノロドFが待ち受けていた。

 Gの全身さえ容易く覆い隠す影が、辺り一面に広がる。だが、相手がいくら巨大だからといっても――諦めるわけにはいかない。


「火砕流ミサィィイルッ!」


 斧を出したことで解放された胸の発射口から、Gは真紅の弾頭を無数に発射する。そのミサイルの濁流は、Fの全身に1発残らず命中し……全くダメージを与えられなかった。


「なッ……ぐぁあぁあぁッ!」


 その装甲の厚さに、驚く暇もなく。その大顎から放たれる破壊光線に足元を吹き飛ばされ、Gはさらに遠くへと吹っ飛ばされてしまい――海に落とされてしまった。


 そこに待ち受けていた鋼鉄の魚竜――ダイノロドIに噛み付かれ、水中で振り回されたGは、海岸まで投げ飛ばされてしまう。

 そこへ、空中から迫るダイノロドPの熱線による一斉掃射が始まった。熱線が雨のように降りかかり、Gの装甲を傷だらけにしていく。


「くッ……ロケットアントラーッ!」


 鼻先から放つドリルで撃墜を狙うが……Pの熱線は、その一撃を容易く跳ね返してしまう。そして、その時には既に――蛇の如く躙り寄るダイノロドLが、牙を研ぎ澄ましていた。


「うッ――!? おぁあぁあぁあッ!」


 背後からLの大顎に捕まったGは、地面や岩壁に何度も……狂ったように叩きつけられていく。絶え間なく繰り返される衝撃の波が、竜史郎の全身を打ちのめしていった。

 やがて、Lの牙から解放されたGの巨体は力無く舞い上がり――地に伏してしまう。糸の切れた人形のように墜落してしまった彼の姿に、見守るしかなかった光は声にならない悲鳴を上げていた。


「トドメだ! N、L、F、やれいッ!」


 そして、倒れたまま動かないGの頭上から――3体の邪竜が、同時に火炎放射を放つ。もはや絶体絶命……という時だった。


「……!?」


 主人の意思に反して。ダイノロドの機能を、逸脱して。


 Gの身体から離脱したWが、その身を盾にして火炎放射を真っ向から浴びてしまった。

 その行為に、竜史郎が瞠目する瞬間。黒竜の双頭が……主人の方へと振り返る。


 ――勝てよ、絶対。


 そう、笑っているかのようだった。


「ワッ……ワイバァアァンッ!」


 やがて全身に亀裂が走り、Wの身体は跡形もなく爆散していく。その破片に、竜史郎は震えながら手を伸ばすが……もはや、手遅れであった。


「……ワ、ワイ、バーンッ……どうしてッ……!」

「愚かな……。地上人の眷属に成り下がったことで、おかしな『情』でも覚えたか。機械の分際で忠義以上のことを果たそうとするから、そうなる……」


 そんなWの末路を風上から見下ろし、ゾギアン大帝は苦虫を噛み潰したような表情を浮かべていた。かつては自分の手足だったはずの黒竜に裏切られた彼は、その怒りを眼前のGにぶつけようとしている。


「……ふん。いずれにせよ、もはや貴様に助かる道はない。まぁ、九頭竜将全員を相手にしたのだから、よく保った方ではあるか。……お前達、楽にしてやれい」


 そして、「処刑」の様子を崖上から静観していたゾギアン大帝は、眷属達に非情の命令を下す。圧倒的な暴威を以てGを叩き伏せた邪竜達が、トドメを刺すべくジリジリとにじり寄って行った。


「だっ……ダメぇえ! ここ、これ以上は、ダメですっ……!」

「……なんだ小娘、まだ逃げておらんかったのか。せっかくだ、貴様も一緒に死ぬが良い!」


 その光景を前に、居ても立っても居られず……まもりちゃんが足を震わせながら、九頭竜将の前に立ち塞がる。

 だが、当然ながら戦う力を持たない彼女に、邪竜達が警戒するはずもなく……彼らの毒牙が、彼女にまで向けられようとしていた。


「ダ、ダメだ……逃げろ、君は、早くッ……!」


 そんな竜史郎の、絞り出すような叫びも虚しく。邪竜達の牙が、まもりちゃんの小柄な体に突き刺さる――


「レックス・ソニック!」

『ギャオオォォォッ!!』


 ――よりも、速く。


 遥か地中から突き上げるような「何か」が天高く土埃を振り撒き、咆哮と共に邪竜達の行く手を遮るのだった。予期せぬ「力」の出現を気配で感じ取り、邪竜達が一気に距離を置いて警戒態勢に入る。


「……何事だ!?」


 その予想だにしない「強者」の気配に、ゾギアン大帝までもが険しい表情に変わる中――邪竜達を遮った土埃が、徐々に晴れていく。


 そして。土埃が晴れた先に現れたモノに、誰もが息を飲んだ。それはグロスロウ帝国ですら知らない、遥か超古代の「恐竜神」だったのだから。


『――我を呼ぶ災いは、貴様らか。人の子を脅かす邪竜共よ、1匹たりとも逃がしはせんぞ』

「何だ貴様は……! 機械の分際で、余の帝国に逆らうつもりか!」

『機械ではない……神だ!』


 真紅の輝きを放つ、ティラノサウルスを彷彿させる鋼の恐竜。だが、ダイノロドTとは比較にならないオーラを纏っており――グロスロウ帝国の産物とは明らかに異なる迫力を備えている。

 ゾギアン大帝を前に、自身を「神」と言い切る機械神は、Gとまもりちゃんの方を見遣ると、重々しく口を開いた。


『……人の子よ、時は満ちた。我と手を結び、地上から邪悪な侵略者を打ち払うのだ』

「あなたは、一体……!?」

『今にわかる、見ているがいい。――この機体に眠る真の力を解き放て、人の子よ!』

「あぁ、行くぜ! 神格変形ゴッドライズッ!」

「……!?」


 そして、聞き慣れない少年の声が響き渡る瞬間。恐竜神の全身が、突如「変形」し――精悍にして荘厳な人型形態への変貌を遂げた。

 その雄々しい姿を露わにした恐竜神は九頭竜将を前に、右腕に装備されたドリルを構えると……自らの名を高らかに叫ぶ。


灼熱竜王しゃくねつりゅうおう! ゴッドレックス!』


 それは、この戦いの転機を呼ぶ雄叫びであった。

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