第5話 起動・ダイノロドG
「見ろ! あの巨人が……立ち上がった!」
「まさかあの巨人……奴らと戦うつもりなのか!?」
「畜生……! なんだってこんな時にッ! 不吹竜史郎、生きてろよッ……!」
再び戦場に現れ、Tと対峙するG。そこから始まる激戦を予感し、防衛軍の隊員達は巻き込まれないよう距離を取る。竜史郎を捜索していたダグラスも、古代兵器達に行く手を阻まれ、戦闘に加わることを余儀なくされていた。
そんな彼らの様子を一瞥したのち、Gは改めて拳を構えた。そして――Tの口内に搭載された銃砲が、火を噴く。
「とおぉッ!」
だが、今度は喰らわない。ゾリドワの戦いを観た上でGを操る竜史郎は、身を翻して砲撃をかわし――背後に回り込む。
そして、一気にTの延髄に、チョップの嵐を叩き込むのだった。
「……!? 御堂隊長、巨人の動きが変わりました!」
「あぁ、さっきまでとは別人のようだ……何が起きている……!?」
その戦い振りから今までとは違う気迫を覚え、防衛軍の隊員達は瞠目する。
Tが放つ火炎放射と、砲撃の射線。尻尾の動き。それらを観察していた竜史郎の洞察力と操縦技術が、Gの挙動に異変を齎したのである。
(隊員の皆が離れて行く……。今なら、「武装」を使っても周りは巻き込まないはずだ!)
――本来の持ち主であるゾリドワが、このGに搭載されている武装を把握していないはずがない。それでも最後まで武器を一度も使わなかったのは、近くにいる隊員や民間人を巻き込まない為だったのだろう。
そうまでして彼は。異民族である地上の人間の為に。己が身を犠牲にした。
――そんな彼の献身を、この機体を通して知ればこそ。竜史郎は何としても勝たねばならないと、操縦桿を握る手に力を込める。
後ろから馬乗りになり、チョップを連打するG。そんな彼を背後から打ちのめそうと、Tも尻尾を振るうが――その直前、反撃を察知したGは背中から飛び降りてしまった。
結果、Gを叩こうとした尻尾は、T自身の後頭部に命中してしまう。痛みに悶えるTに追撃を浴びせるべく、Gは側面から殴り掛かった。
――だが、痛みにのたうちがむしゃらに暴れるTの尻尾に、吹っ飛ばされてしまう。あまりに無軌道なせいで、今のGでも読み切れなかったのだ。
「……くッ!?」
そこに反撃のチャンスを見出したのだろう。上空から様子を伺っていた双頭の飛竜――Wが、急降下と共に火炎放射を仕掛けてきた。
横に跳んだ弾みで、アスファルトを削り乗用車を吹き飛ばしながら、Gは回避に徹する。超高熱の濁流がビルの谷間に流れ込み、建造物を鉄骨ごと溶かして行った。
「――今ッ!」
火炎放射を終えたWが、弧を描いて上昇していく中。ビルの陰に身を隠していたGは、勢いよく飛び出し飛竜の背後に拳を向ける。
近くに防衛軍もいない。狙いが空なら、周りを巻き込むこともない。その条件を満たした上で――竜史郎は、武装を
「スピンリベンジャー・パァァンチ!」
刹那。右腕の肘から先が、激しい回転と共に切り離され――ジェット噴射による推進力で、空を駆け抜けた。
腕刀部に備えられた真紅の刃が、ドリルのように回転し、Wの背後に迫る。その接近に気づいた飛竜は、大きく飛行の軌道を変えて回避しようと試みるが――切り離されたGの拳は、なおも追い縋る。
「もう1発だ! ――スピンリベンジャー・パァァンチッ!」
ここで外して、反撃の機会を与えてはならない。そう判断した竜史郎は、畳み掛けるかのように左腕の拳も、Wに向けて撃ち放った。
挟み撃ちの要領で肉薄してくる鋼鉄の両拳が、宙を駆け巡るWを付け狙う。それでも漆黒の飛竜は縦横無尽に飛び回り、Gの拳をかわし続けるが――竜史郎にはまだ、第3の「主砲」が残されていた。
「当てる……ロケット・アントラーッ!」
片脚を引き、正面からの衝撃に耐える姿勢になり。Gの「鼻先」に相当するアントラー号の先端部が、ドリルとなって発射された。
ロケット噴射で飛ぶ鋭利な「鼻先」は、先程の1発とは比にならない威力で撃ち出されており――踏ん張ろうとしたGの足元では、堅牢なアスファルトが反動によって無残にえぐり取られていた。
Gのボディという発射台を得たことで、アントラー号に搭載されたドリルの推進力は、ドッキング前の数倍にも及ぶパワーを発揮していたのである。
次の瞬間、ドリルは二つの鉄拳に気を取られていたWの胸に命中し、漆黒の飛竜が悲鳴を上げた。その隙を狙うように、宙を飛び続けていたGの両拳が、Wを挟み撃ちで叩きのめす。
やがて飛竜はけたたましい叫びと共に、アスファルトへと墜落し――完全に沈黙した。
「な、なんと……!」
「信じられん、何という超兵器だ……! 一体あれは、何だというんだ……!? 本当にあの、
何も知らず、ただ逃げるしかない人々は、車の中で歓声を上げている。一方で御堂やダグラスを含む防衛軍の隊員達は、突如豹変して地底怪獣を圧倒してしまった巨人に対して、複雑な反応を示していた。
――あの巨人も、怪獣達と共に地中から這い出てきた存在だが。今は確かに、自分達を守る為に戦っている。あの巨人は一体、何が目的で戦っているのか……?
「――!? 危ないッ!」
だが、それを確かめる為にGに近づこうとした隊員達の行動が、裏目に出てしまった。同胞を撃ち落とされたことに猛り、体勢を立て直したTが再び活動を開始したのである。
鋼鉄の恐竜は、一気に口内のミサイルを連射してくる。その時Gは――隊員達の近くにいた。
「ぬぅううんッ!」
避けるだけなら容易い。だが、自分1人が逃げ出しては防衛軍の隊員達が、巨竜の砲撃を浴びてしまう。
竜史郎は意を決して防衛軍を庇うように前に立ち、迫り来るミサイルを鉄拳で叩き落としていった。防衛軍の隊員達を避けるように、切り裂かれた弾頭の破片が散らばり、爆発していく。
「……ぉあぁああぁッ!」
だが、全てを捌き切ることは出来ず。ミサイルの濁流が、迎撃の拳を抜けてGの体に襲い掛かる。
それでも、逃げ出すわけにはいかない。ここで防衛軍の隊員を死なせては、
――竜史郎はその一心で、耐え忍んでいた。
やがてTの一斉砲火が打ち止めとなり、それと同時に、Gも力尽きたように片膝をついてしまう。
だが……巨竜にはまだ、アスファルトさえ踏み砕く強靭な両脚という武器がある。その圧倒的な暴力は、膝をついた巨人を踏み潰そうとしていた。
「させるかぁああッ!」
「全隊員、一斉射撃! これ以上奴の好きにはさせるなッ!」
その時。駆けつけたダグラスをはじめとする隊員達が、Tの砲口に向けて光線銃を一斉に放つ。
砲身内に残された弾頭が、それにより誘爆し……巨竜の体内で、凄まじい爆発が発生した。
「いかん……まだ、奴を沈めるには浅いッ……!」
「立てないのか!? 巨人は、もうッ!」
巨竜がのたうちまわる中、隊員達の怒号が響き渡る。その叫びが――Gを、竜史郎を、動かした。
(……まだ、だ。こんな、ことでッ!)
震える膝に力を込め、ビルに寄りかかりながら。Gは、再び立ち上がった。そして――全てに決着を付けるべく。
両腕をTに突き出し、その鉄拳を回転させる。
「――ダブルリベンジャー・パァァアァンチッ!」
刹那。竜史郎の咆哮と共に、Gの両拳が同時に肘から切り離され――巨大な弾丸となりTの胴体に直撃する。激しい閃光と火花が噴き上がり、怪獣の咆哮が響き渡った。
「まだ浅いッ……! ロケット・アント――!」
Tの装甲は厚く、鉄拳の威力では決定打には届かない。だが、竜史郎はそれでも諦めることなく、次の一手を打とうとする。
――だが、それよりも速く。Gの両拳による痛打を浴びて、猛り狂った巨竜が放つ怒りの一斉砲火を、その全身に浴びてしまうのだった。
「うがあぁあぁあッ!」
竜史郎の絶叫が反響し、Gの巨体が支える力を失い、崩れ落ちていく。ビルをなぎ倒しながら、轟音と共に仰向けに倒れたその躰は再び、隊員達の前で力尽きてしまった。
その衝撃で、脳髄部から切り離されたアントラー号が――力無く、瓦礫の山から転げ落ちていく。
「あの巨人が……負けた……」
「さっきの鉄拳を浴びても、体内で誘爆を食らっても、死なないなんて……!」
「……諦めるな! コスモビートル隊の日向威流は、地球人の手で故郷を守り抜いてみせたんだぞ! 空の連中に出来たことが、俺達陸戦隊に出来ないはずがないッ! 戦闘を続行するッ!」
「助けを待ってる丸腰の民間人だっているんだ! 銃を持ってる俺らが、ビビっててどうするッ!」
「りょ、了解ッ!」
だが、そんな絶望的な状況の中でも。御堂とダグラスは光線銃を撃ち放ち、怯むことなく戦い続けていた。
周囲の隊員達もその勇ましさに惹かれるように、1人、また1人と戦線に復帰していく……。
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