エピローグ


 それから半年後。

 示方閃祈と神楽坂命砥は、黒曜館の玄関先に佇んでいた。

「先生、たしか誕生日がわからないんですよね。だったら今日が、それに相応しいんじゃないですか?」

「そう、だな。そういうことにしておこうか」

「誕生日おめでとうございます。ちなみに今日は一〇月八日、体育の日です」

「ありがとう……そういえば、一応、君の誕生日は四月一日ということになると思うのだが。来年は、君が〝皆から誕生日を祝ってもらう〟番だな」

「あ。わたし、誕生日を祝ってもらったこと、一度もないです」

「はじめての誕生日祝いを楽しみにしておくといい。せっかくだから、黒曜館の元・患者達を招待して、誕生日パーティーというものをやってみよう。その頃には一度、俺も帰省するつもりだ」

「……はい!」

 こうして二人は、来年の再会を約束した。

 待合場所は未定ではあるものの、残念ながら黒曜館ではないだろう。

 そもそも二人が、ふたたび隣同士で歩むことはないのだから。

 しかし、それでも二人は一人ぼっちではない。

 お互いだけでなく、あきら達と患者達も、二人のことを大切に想ってくれている。

 たとえ、どれほど距離が遠ざかっていても、四九年も掛けて得られた絆で結ばれているのだから――

「では、さよならだ。閃祈君」

「はい。お元気で、先生」

 黒曜館を背にして、いよいよ二人は別れる。

 人外の元・漆黒ナースに、同じく人外の元・不死系人外専門医師。

 二人は人間ではないけれど。

 それでも〝自分なりの人生〟を謳歌しようと走りはじめた。


 ――その胸元に、黒曜石の光を煌めかせながら。


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黒曜のサナトリウム しーた @negureru

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