第4章『フランケンシュタイン』(5)

「おかえり、閃祈君」

「おかえりなさい、外は寒かっただろう」

「はい、ただいま戻りました。ジェームズさん、お気遣い、ありがとうございます」

 黒曜館の診察室に直行したのですが、すでにジェームズさんと先生は手術についての説明を終えていたようです。

 診察時間を終えるまで、ゆっくりと寛いでいる二人から、わたしは挨拶を受けたのでした。

「……何かあったのか?」

「はい、先生。確かにありました。でも、彼自身と〝彼女〟が、なんとかすると思います。他力本願かもしれませんが」

「そうか」

「――閃祈さん。君にとって、黒曜館は〝どういう所〟なのかな?」

「はい?」

「いや、実は僕の想像していた場所より、非常に居心地が良いんだ。ここにいると、とても心が暖かくなる」

 ジェームズさんから唐突に尋ねられ、わたしは答えるのに手間取ってしまいます。

 しばらく考え抜いたあと……なんとなく思っていたことを口にしました。

「えっと……そうですね。実家みたいな感じです。他の家を知らないから、かもしれませんけれど」

「なるほど。では君にとって、ここにいる皆は家族のような存在なのだろうな」

「――あ」

 まるで、ずっと探していたパズルのピースが見つかって、ぴったりと当て嵌まるような、そんな気分になりました。

 わたしの空白は、すでに埋められていたのです。

「はい。わたしにとって、ここにいる皆は家族なんです……っ!」

 輝くん、あかりちゃん、シエルちゃんは弟妹。

 灰城さんは親戚の叔父さんで、あうぐす君は……ペット、みたいな?

 そして。

「神楽坂先生は――〝お兄ちゃん〟かな」

「――……っ!?」

「うん? それは意外だな。てっきり僕は父親だと予想していたのだが」

「そう見えますか? でも、わたしの感覚では兄なんです」

 はにかみながら、わたしはジェームズさんに言いました。

 その傍らで、先生は珍しく苦笑いを浮かべながら、いつのまにか手にしていたコーヒーに口を付けていたのです。

 ……その頬が少し赤らんでいるのは、温かい飲み物のせいでしょうか。

「閃祈君。私の顔を見て、なにをニヤけている?」

「あ、えっと。なんでもないですよ」

「本当にそうか? ……まあ、いい。今のうちに伝えておこう。手術前には黒曜石を取りに行ってもらう。書斎にある机の引き出しに、黒曜石は入れてあるから、黒曜館まで運んできてくれ」

「はい、わかりました」

 なにはともあれ、今年の不老不死手術は無事に成功しそうです。

 わたしは安心しながら、これからも〝黒曜館の家族生活〟に期待していたのでした。


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