第3章『まじかる☆ふぇありー・あうぐす君』(2)


         ***


 結論から申し上げると、先生は灰城さんを追い出すことについて否定しました。

「いま、彼がいなくなるのは困る。一応、黒曜館の希少な人手でもあるからな」

「……さいですか」

 わたしは落胆しながら、これからも灰城さんとの共同生活が続くことを憂います。

 さて。

 ここは黒曜館の別宅ですが、先生いわく〝移転してから一年にも満たない〟新居だとか。

 以前の場所は〝恵まれた物件〟であったということを、あかりちゃんと輝くんから聞きましたが、わたしにとっては〝どこか懐かしい〟と思えるため、とても気に入っています。

 木造かわらぶき平家。主な特徴といえば、わたしの園芸趣味による花壇が目に映ることくらい……でした。ちなみに現在、見かけによらず改築(リノベーション)済みのオール電化物件となっており、こちらがわたしたちの住居となっています。

 ちなみ増築も行ったため、中二階建て平家ともいえる物件になりました。

 ……バランス釜? 

 なんですか、そんな〝昭和の遺物〟は。

 とにかく元々は、こちらの小振りな建造物が診療所だったようですが。

 後に建造された〝隣の別館〟が、黒曜館になっています。

 ……灰城さんの処遇を見送った先生でしたが、やはり思うところがあったようですね。

「ただ、私も彼のことを問題視しない訳ではない。世界征服という夢は応援しがたいものだが、彼の怠惰極まる生活ぶりは、ゆゆしき事態でもある。これに関しては、なんとかしたい」

「先生も、そう思いますか……」

「なにか彼に〝具体的な生きがい〟を見つけられたのなら、それで解決すると思われるのだが。いかんせん古株かつ〝年長者〟なものだから、強いことを言うのは憚られる」

「いや、言っちゃっていいんじゃないですか。黒曜館から自立しなさいって。あれじゃあ、いつまで経っても〝ぐうたら寿命を潰すだけ〟ですよ」

 先生は頷きながら、しばらく眉間を寄せて考えていましたが。

 ふと時計の方を見て、なにかを思い出したのか、わたしに〝いつもの話〟を切り出したのです。

「彼のことは、ひとまず置いておこう。君に〝特殊な患者〟のことを知ってもらわなくてはならないからな」

「はぁ。また不老不死ですか」

「――なに?」

 わたしの言葉を聞いた途端、先生は動揺しながら聞き返していました。

「え、どうしたんですか、先生?」

「いま、なんと言った?」

「不老不死の人外患者、でしょう? 今年も一人、そういった患者さんが来るんですよね」

「誰から、そのことを知った?」

「誰って……あれ? ちょっと忘れてしまいましたけど。おそらくは灰城さんの無駄話から、だと思います」

「そうか」

 灰城さんの名前を出したとき、先生は何か得心のいったような様子になりました。

 なにやら、以前から考えていたことが的中したのでしょうか?

 わたしに対する追及を終え、先生は不老不死患者という本題に入ります。

「〝今年の不老不死患者〟は、これまでにおいて〝もっとも異質な存在〟であると、君に伝えておく。我々は四六件の不老不死治療をこなしてきたつもりだが、今回に限っていえば、それらの経験は意味を為さないだろう」

「経験、ですか。わたしなんて二ヶ月くらいしか記憶無いですし、先生の方が深刻ってことですね」

「いや。おそらく君も、だろう」

「え?」

「まあ、いい。とにかく患者を、自身の目で見ないことには理解に及ばないだろう、すでに、彼は黒曜館に訪れている。ずいぶんと今年の段取りは早いから、こちらとしても助かるのだが……」

 言葉を濁しながら、先生は念押しで忠告したのです。

「一応断っておく。あまり〝彼〟を刺激しないように、気を付けてくれ」


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