4-4 第2戦 美のクリスティーナと魔法

僕らの第2戦が始まった。


相手魔法士3人は、魔法の構築を始めた。浮かび上がる形や色から、全員違う魔法を唱えているようだ。


「では私も魔法構築始めます。」

「良し、僕は予定どおり【プロテクトフィルム】を二人にかける。カレンは後ろで待っていてくれ。」

「分かりました。」

「ところでクリスティーナ、目薬はしたの?」


僕は冗談のつもりで言った。


「あ、忘れてた。」

「おい、忘れてたのかい!」


冗談が本当だった。


「ごめんなさい。今から目薬するわね。」

「って、もう相手は魔法構築中だぞ!」

「ごめんね、【プロテクトフィルム】先にかけておいて。」


僕は仕方なく、【プロテクトフィルム】をかける。まあ、僕の【プロテクトフィルム】は強力なので、訓練生程度の魔法ではダメージは無いだろうから、クリスティーナの目薬中も大きな問題はないだろうけど。


クリスティーナは、魔法の構築を中断し、目薬を胸のポケットから取り出した。そして、左手を挙げて、右手で瞼を抑えて目薬を点す。いつものポーズ。相変わらずの悩殺ポーズだ。

因みに、僕が【プロテクトフィルム】をかけているので、彼女の身体は、うっすらと光っているように見える。


あれ?相手も魔法の構築を中断した。何が起こったのだ。


「何かあったのか?試合中断のアナウンスがあった?」

「いえ、何もありませんでしたよ。」


カレンも不思議そうにしている。そういえば、会場から何やら声が聞こえる。


「誰なんだ、あの女性は?」

「なんて美々しい・・・心を奪われてしまう!」

「まさに、羞月閉花そのものだ!」

「そうだ、あれに似ている。伝説にあった、あまりの自分の美しさに、天を恨むアフロディーテにそっくりではないか!」


そういえば、マルチス正教会の中に入ると、大きな絵が掲げられていて、その絵には、【天を恨むアフロディーテ】って標題が書かれていたな。って確かにそうも見えなくはない。


「なんと、この世界にアフロディーテが降臨なさった!」

「これはすごいぞ。まさに500年に一人の美女だ!」

「ああ、なんと艶やかな!!」


会場の男たちがすごい騒ぎになっている。ちなみにクリスティーナはまだ目薬を差している。


「あの~、まだ目薬は終わりませんか?」

「なんだかうまくいかないのよ。昨日新しい入れ物に変えたからかしら。」


この試合会場が大変なことになっていることに、全く気が付いていない。

相手選手を見ると、魔法構築など忘れて、クリスティーナの姿に完全に見とれている。


「やっと終わりました。遅くなってごめんね。あれ、相手選手、魔法構築していないけど、どうしたの?」

あんたのせいだよ!!

「まあ、魔法構築していないなら、こっちのものね。」


そういうと、クリスティーナは魔法を唱え始めた。彼女の魔法の唱えかたは独特だ。

大抵の魔法士は、両手を合わせ、指を絡ませる、つまり祈るような姿で魔法を構築する。そうした方が構築に集中できるのだと。

しかしクリスティーナは、ここ二週間の練習の中で、自分に最も最適な魔法を構築するスタイルを見つけた。それが、両手を水平に広げて、掌を上に向ける形だ。これに変えてから、魔法の構築時間が半分になった。

彼女の魔法がすごい速さで構築される。ただ、このスタイルに変えてから、魔法を構築すると彼女のローブがふわりと大きく広がり羽ばたく、まるで風に乗って舞っているように見える。


「ウォーターバースト!」


彼女は誰も使ったことがない、新しい魔法を唱えた。水蒸気を急激な炎で蒸発させ、爆発の衝撃を相手に与えるものだ。クリスティーナオリジナル魔法だ。こんなこと思いつく彼女はすごい。


うっとりとしていた相手3人はその衝撃で後ろに飛ばされた。


「うわっ!」

「なんだこの魔法は!」

「ああ、アフロディーテ様・・・」


3人とも、闘技場から外に飛び出して落ちた。いま、一人変なこと言っていなかった?


「試合終了。勝者はキューティーナイト!」


終了のベルと共に、試合会場が一段と盛り上がる。


「今見たか?アフロディーテ様が不思議な魔法を!」

「アフロディーテ様がふわっとなったら、相手は飛んで行った!」

「なんでもいい!俺は今日という日を忘れないぞ!」


相手が飛んで行ったのは魔法の効果なのだが。とにかく勝ってよかった。


「どう?私の魔法すごいでしょ!相手は一歩も動けなかったわ。」

「すごいよクリスティーナ。また私の出番が無かったわ!」

「ごめんね、カレンに見せ場を作れなくて。」


相手が一歩も動けなかったのは別の理由だが、魔法がすごいのは認める。


「じゃ、戻りましょうか?」

「そうですね。次の試合の邪魔にならないようにね」


僕たちは闘技場から降りて、選手の控え場所に向かった。途中でシャーロットが待っていた。


「すごかったわ、クリスティーナ。あなたが魔法を使うとき、会場はどよめきが起きていたわよ。」

「私が考えたオリジナル魔法に、きっと驚いたのですよ。」

「まあ、私ほどではありませんでしたけど。」

「もう、相変わらず負けん気ね、シャーロットは。」


因みに、どよめきは魔法じゃなくて、その立ち姿のためだと思う。


「そういえば、こっちに来る間とか、今もだけど、男たちがじろじろと私を見るの。なんだかいやだわ。」

「きっと、私たち1年なので、相手としてノーマークだったから、驚いているのです。」

「なるほど、それこそ私たちの思うつぼね。伝説の一つになるわ。」


じろじろ見られていたのも、違う理由だと思います。


「さ、次のの試合を見ましょう!3回戦の相手を見ておかないと。」


そういって、3人とも試合を見始める。ここまで勝ち抜いて来たが、僕が思い描いていた勝ち方とは違っていた。。。

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