厄災の王現る
「その力は一体・・・」
カイザーは驚愕の表情でルーファウスを見つめ、今までのルーファウスからは考えられない威力の魔法を使った事に驚いていた。
「くくく、そう!その表情が見たかったのですよ!ああ、最高の気分だ。兄上に唯一劣っていた魔力も手に入れ、私は最強となった!」
そうルーファウスは、恍惚の表情で天を仰ぎ見たのだ。
するとその時、宰相に体を支えて貰いながらオベロが前に進み出てきた。
しかしその表情はとても険しく、そして何かを探るようにじっとルーファウスを見つめハッと何かに気が付く。
「ルーファウス、お前まさか・・・あの扉の封印を解いたのか!?」
「ああ父上、お分かりになられたのですね。ええそうです。私があの扉の封印を解きました」
「何て事を!!」
「そんな怒らないで下さい。むしろ、何故わざわざあんな封印をされていたのか分かりません。私としては、こんな素晴らしい力を手に入れる事が出来ると知っていれば、もっと早く解いていましたのに・・・隠していたなんて、父上は狡いですよ!」
「駄目だルーファウス!今すぐあの扉の下まで戻るのだ!私がなんとしても・・・お前の中にいる者を抜き出し再び封印してやるから!!」
「・・・父上、そんなに私が嫌いなのですね。折角手に入れた力を奪いたい程に・・・」
「違う!そうでは無い!その力は、お前が思っているような物では・・・」
「分かりました。父上はまだ私を認めて頂けないようなので・・・今ここでこの力を使って証明してみせます!兄上を殺してね!!」
そうルーファウスが叫ぶと同時に、ルーファウスはまだ呆然としているカイザーに向かって手をかざし、紫色に揺らめく炎の玉をカイザーに向かって撃ち放ったのだ。
そしてその炎の玉は、物凄い速度を上げてカイザーの下に向かっていった。
カイザーはその突然の事に動揺し、一瞬判断が遅れてしまう。
そしてその一瞬の判断の遅れが致命的となり、もうその炎を回避する事が出来ない距離まで炎が近付いて来てしまったのだ。
カイザーは思わず目を閉じ、炎から身を守るように両腕を顔の前でクロスした。
「カイザー!!!」
突然そんな叫び声が大広間に響き、カイザーの前に両手を広げてある人物が踊り出たのだ。
「ぐがぁぁぁぁぁ!!」
「お、親父!!!」
カイザーを守るように踊り出たのは、オベロであった。
そしてそのオベロの体に炎の玉が直撃し、一気にオベロの体は紫色の炎に包まれてしまったのだ。
カイザーは焦った表情でオベロに手を伸ばそうとしたが、あまりの高熱に近付く事が出来ない。
そうこうしている内に炎は段々と弱まり、そして煙を上げながら消えたのだ。
するとオベロは、全身大火傷を負いながらその場で崩れ落ちてしまった。
「親父!!!」
すぐさまカイザーは爪を元の長さに戻し、地面に座り込みながらオベロを抱き上げる。
「親父!親父!しっかりしろよ!!」
カイザーは悲痛な表情で必死にオベロに呼び掛けると、オベロは薄っすらと目を開けた。
「・・・カイザー・・・」
「親父!待ってろ!今侍医呼ぶからな!!」
「よい・・・もう無駄だ・・・」
「そんな事は無い!大丈夫だって!絶対助かるからさ!!」
「・・・大丈夫かどうかは・・・自分が一番よく分かっている・・・それよりも・・・ルーファウス・・・」
そうオベロは言い、苦痛に耐えるような表情でルーファウスの方に顔を向ける。
「そ、そんな・・・父上・・・私は父上を傷付けるつもりなど・・・」
ルーファウスは手をかざしたまま、その場で呆然と立ち尽くし首を弱々しく横に振っていた。
「ルーファウス・・・すまない・・・お前の気持ちを知っていながら・・・何もしてやれなくて・・・」
「父上・・・」
「だが・・・私はけして・・・お前の事を・・・認めていなかったのでは・・・無い・・・ぐっ!ゴホゴホ!!」
「親父!!」
「父上!!」
「ハァハァ・・・お前には・・・お前にしか無い才能がある・・・私はそれを認めていたのだ・・・だが・・・それを・・・言葉にしなかった私が・・・悪かった・・・すまない・・・そして・・・ちゃんと言った事が無かったが・・・私は・・・カイザーと同じように・・・ルーファウス・・・お前も愛していたぞ・・・」
「っ!!」
そのオベロの言葉を聞き、ルーファウスはガクリとその場に膝を付いて座り込んだ。
そして今にも泣きそうな顔で、ルーファウスはオベロを見つめ続ける。
しかしその時、大広間に不気味な声が響き渡ったのだ。
『・・・ふん、ここまでのようだな・・・しかし・・・もう少し使えると思っていたが・・・所詮カスはカスだったな・・・まあ、それでも・・・オベロを倒してくれた事は褒めてやろう・・・褒美に・・・我の力の足しにしてやろう!』
すると突然、ルーファウスの体から黒い靄が立ち上ぼり始めた。
「え?・・・う、うわぁぁぁぁぁぁ!!」
「ルー!?」
「っ!や、止めろ!!!」
苦痛の表情で悲鳴を上げたルーファウスに、カイザーとオベロが同時に叫ぶ。
しかしルーファウスの悲鳴は続き、そして次第にルーファウスの体が干からび出したのだ。
周りで状況を見ていた魔族達は、恐怖の顔で一斉にルーファウスから大きく距離を取って離れていった。
そうしている内にどんどんとルーファウスの体は萎み、そしてとうとうサラサラの砂になって崩れ落ちたのだ。
そして後には、ルーファウスの服と砂だけがその場に残ったのである。
一体何が起こったのか分からないカイザーや瑞希達は、ただ呆然とその場に残ったルーファウスの服を見つめる。
しかしその中でカイザーに抱かれながら、荒い息をしつつオベロだけが憎々しい表情でルーファウスの上空に浮かんでいる靄を睨んでいた。
すると突如、その靄に大きな二つの目がギョロリと現れたのだ。
『くくく、さすがはオベロの血を引いた者だ。期待以上に我の力になったぞ。この力さえあれば・・・容易に地上に出られそうだ!』
そうその靄からそんな声が聞こえてきたかと思ったら、次の瞬間靄は物凄い勢いで大広間の窓を突き破り、そして外に飛び出して行ってしまった。
「くっ・・・いかん!カイザー・・・今すぐ・・・あやつを止めるのだ!!」
「親父?」
とても必死な形相でカイザーの胸の服を掴んできたオベロを、カイザーは不思議そうな顔で見る。
しかしその時、突然地響きと共に大広間が大きく揺れた。
「何だ!?」
「た、大変ですカイザー様!念話の報告で・・・人間界に通じる洞窟の封印が、先程の靄によって破壊されたそうです!」
「何だと!?」
「そしてその靄は、そのまま洞窟を抜けて人間界に出ていったそうです!」
そう魔族の兵士が、カイザーに向かって報告したのだ。
「くっ・・・遅かったか・・・」
「親父!あれは一体何なんだ!?」
カイザーはどんどんと弱っていくオベロを抱きしめつつ、そうオベロに問い掛ける。
しかしオベロはカイザーから視線を外し、抜き身の剣を持ったまま呆然と立っているシグルドに視線を向けた。
「・・・シグルド王子・・・」
「・・・何だ?」
「すまない・・・あれは・・・私が数千年前に・・・この地に封印しておいた・・・『厄災の王』と呼ばれているものだ」
「なっ!?」
「あれは・・・突如現れ・・・この世界全てを・・・滅ぼそうとしたのだ・・・ぐっ!ゴホゴホ」
「親父!!もう喋るな!!」
「いや・・・これだけは・・・伝えなければ・・・私は・・・長い間・・・あの『厄災の王』と戦い・・・倒す事は出来なかったが・・・なんとか封印する事が出来たのだ・・・」
「・・・もしやオベロ王は、ずっとその封印をこの地で守っていたのか?」
「ああ・・・だが・・・ただ封印を守るだけで時が過ぎていくのに飽きて・・・時々人間界にちょっかいを掛けていたのだ・・・すまなかった・・・」
「・・・・」
「しかし・・・さすがの私も・・・老いによる力の衰えが起こり始め・・・封印を維持する事が出来なくなる・・・恐れが出てきた・・・だから・・・カイザーに跡を継がせ・・・封印を引き継がせようと思った矢先・・・このような事に・・・どうやら・・・封印の綻びが・・・私の息子の心に・・・入り込んで・・・しまったようだ・・・」
そう言ってオベロは、悲しそうな表情で砂と化したルーファウスの亡骸を見つめる。
「だが・・・あのまま『厄災の王』を放っておくと・・・この魔界を含めた・・・全ての世界が・・・あの者に・・・滅ぼされてしまう!くっ・・・シグルド王子・・・そしてカイザー・・・すまない・・・どうか・・・私の代わりに・・・・・」
「親父!?」
カイザーは、段々目を閉じ始めたオベロに焦った声を掛ける。
「・・・倒してくれ・・・・・」
「お、親父!!!」
オベロは、力無く顔がガクリと横に崩れ落ちた。
しかしその瞼が落ちる瞬間、視線を悲痛な表情でオベロを見ていた瑞希に合せそして声を出さず小さく口を動かしていた事に、視線を向けられていた瑞希以外は誰も気が付かなかったのである。
そしてオベロが、最後に声も出さず言った言葉はーー。
『頼んだぞ・・・聖女・・・よ』
で、あったのだ。
「っ!!」
瑞希はオベロの最後の言葉に気が付き、思わず声を詰まらせてもう息を引き取ったオベロをじっと見つめる。
(・・・オベロ王・・・いつから気が付いていたの?)
そう瑞希は心の中で問い掛けるが、当然答えなど返ってくるはずも無かったのであった。
「くっ!!親父!!!」
カイザーは悲痛な声を上げ、もう動かなくなってしまったオベロをぎゅっと胸に抱きしめる。
その姿を、瑞希はとても辛そうに見つめていた。
ちなみに瑞希を捕まえていた魔族は、ルーファウスが乱入してきた時の混乱に乗じてロキが倒していたのだ。
だから瑞希の傍らには、ロキが瑞希を守るように立っている。
しかし瑞希達は、そのカイザーの様子にその場から動く事が出来ずただただじっと辛そうにオベロを抱きしめるカイザーを見つめていた。
そんなカイザーに、シグルドが静かに近付いていく。
「・・・カイザー・・・」
「・・・・」
シグルドはカイザーの名を呼ぶが、それ以上言葉が続かなかった。
そしてカイザーは、オベロを抱きしめ無言のままその呼び掛けに反応を示さなかったのだが、突如右手を瑞希に向かってかざしたのだ。
「くっ!カイザー!貴様一体何を!!」
瑞希を攻撃するのかと思い、シグルドは焦った様子で剣を構えようとし、ロキは瑞希を守ろうと瑞希を背中に庇った。
しかしそんな中で、突然何か金属が弾ける音が響きそして床に固い何かが落ちる音が響き渡ったのだ。
「・・・え?腕輪が・・・」
瑞希は呆然と呟き、何も嵌まっていない右手首と床に転がっている黒い腕輪を交互に見つめた。
「ミズキ・・・お前との結婚式はとりあえず保留だ。そして魔力封じも解いた。だから・・・今はシグルドと一緒に人間界に戻れ」
「カイザー・・・」
カイザーはオベロを静かに床に横たわせ、スッと立ち上がると泣き笑いのような複雑な表情で瑞希を見てきたのだ。
「・・・本当はここに留めておきたいけど・・・多分この後色々バタバタしてお前を守ってやれないからな。だから・・・シグルド、ミズキを頼む」
「・・・ああ、分かった」
「あ、だけど全部終わったら、またミズキを迎えに行くからな」
「・・・そんな事はさせん!」
「へっ!・・・まあとりあえず、今は休戦だ。シグルドは早く国に返って戦の準備しろよ」
「分かっている。しかし・・・カイザーはどうする?」
「俺は・・・親父と弟を弔ってから・・・全軍率いてすぐ行くさ。だから、俺達が行くまでやられるんじゃないぜ!」
「やられる訳が無いだろう。私を誰だと思っているんだ」
「そうだったな。軍神シグルドだったな」
「・・・すぐに来いよ」
「ああ。・・・ミズキを絶対守れよ」
カイザーが真剣な表情でシグルドを見ると、シグルドも同じように真剣な表情でカイザーを見て強く頷いたのだった。
そしてシグルドは、瑞希に視線を向けると手を差し伸べてきたのだ。
「ミズキ、戻るぞ!」
「う、うん!」
瑞希は、急いでシグルドの下に駆け寄りその手を取る。
そしてシグルドはしっかりと瑞希の手を握ると、大広間から出る為駆け出した。
ロキはその二人の後ろを、守るように付いて走っていく。
カイザーはそんな三人の後ろ姿をじっと見つめ、そしてマントを翻し三人に背中を向けたのだ。
「魔族軍、全軍出撃準備だ!!」
そうカイザーは、魔族達に向かって声高だかに宣言したのであった。
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