再・シグルドとの対面

 瑞希とロキは数日馬車で揺られ、漸くグロリア王国の王都に到着したのだ。


 そして瑞希達を乗せた馬車は、大きな城門をくぐり王都の中に入っていったのだが、この王都は他国からの侵略を防ぐ為高い城壁に囲われた堅牢な造りをしていた。




(・・・まさか再び、ここに戻ってくる事になるとはな~)




 そう瑞希は、馬車の窓から見える街並みを眺めながら思っていたのだ。


 ちなみにロキは、瑞希の肩に頭を預けてすやすやと眠っている。


 そうして二人を乗せた馬車は街中を通り、そして街の中心部に位置する王城の裏手に到着した。


 そして瑞希達を連れてきた兵士達の案内で、裏門から王城内に入っていったのだ。


 いくつか複雑な道を通り、漸く立派な扉が付いた部屋の前までやって来た。


 すると瑞希達を案内していた二人組の男の内、途中一人が抜け今は一人となってしまっている男が、扉の取っ手に手を掛けゆっくりと扉を開く。




「・・・先に中で待っているようにと、シグルド様から指示を受けている」


「・・・はい」




 男の言葉を受け瑞希とロキは部屋の中に入り、そして男はそのまま扉を閉めた。


 そうして部屋の中には、瑞希とロキの二人だけとなったのだ。


 瑞希は部屋の中央まで進み、キョロキョロと部屋の中を見回す。


 その部屋は趣味の良い落ち着いた調度品が置かれ、壁には大きめの本棚がありその中には、難しそうな内容を思わせるタイトルの本がギッシリと詰まっていた。


 そして瑞希達の正面には、大きな執務机がありその机の上には沢山の紙の束が置かれている。


 やはり王弟でありこの国の軍最高指揮官であるだけあって、きっと凄く忙しいのだと瑞希は察した。




(そんな忙しいなら、私の事なんてほっといてくれれば良いのに・・・)




 そう瑞希は、その書類の束を見て呆れていたのだ。


 するとそこでふと瑞希は、チラリと執務机の後ろにある大きなガラス扉に視線を向ける。


 その瑞希達が案内された執務室だと思われる部屋は、城の一階にありそのガラス扉は城の大きな中庭に繋がっていたのだ。


 そしてその中庭は、色取り取りの花や緑が計算されて植えられているらしく、部屋の中から見てもとても美しい中庭だと分かる。


 するとその中庭の先に、遠くにあるせいか屋根の部分しかよく見えないが、瑞希がこの世界に召喚された時にいた神殿が見えた。


 しかし瑞希は召喚された時、あの神殿から無我夢中で逃げ出した為よく分かってはいなかったが、どうやらあの神殿は王城と隣接した施設だったようだ。




(・・・私、よくあそこから街に逃げ出せたよな~)




 そう瑞希は、神殿を見つめながら苦笑を溢していたのだった。




「・・・ミズキ、どうかしたのか?」


「ん?ううん、何でもないよ」




 瑞希の様子を不思議に思ったロキが声を掛けてきたが、瑞希はそのロキに曖昧に笑い誤魔化したのだ。


 するとその時、ガチャリと音を立てて扉が開きそこからシグルドとジルが部屋の中に入ってきた。




(・・・相変わらず、何度見ても超絶美形だわ~)




 瑞希の横を通り過ぎていくシグルドを見ながら、瑞希はそう心の中で思っていたのだ。


 今のシグルドは、前のドラゴン討伐の時に着ていた軍服より装飾品がだいぶ少ない簡易の黒い軍服を着ていたが、シグルドの後ろを歩くジルは前の時と同じ白い軍服を着ていたのだった。


 そうしてシグルドは執務机の椅子に着席し、その右隣にジルが立って瑞希達をじっと見てきたのだ。




「・・・ミズキ、久しぶりだな・・・と言うか、フード」


「あ、はいはい。今取るよ」




 シグルドが眉間に皺を寄せてそう言ってきたので、瑞希は苦笑しながらも目深に被っていたフードを頭から外す。




「それで良い。しかし・・・予想以上にてこずらせてくれたな」


「私も、こんなにしつこいとは思わなかったよ・・・」


「まさか、隣国にまで行ってるとは思わなかったがな。一応念の為各地の冒険者ギルドに手を回し、見付けた者にはその所属するギルドとその者に報酬金を出すと手配書を出しておいて正解だった」


「・・・そんな気はしてたけど、やっぱりそんな事してたんだ」




 シグルドの話に、瑞希は呆れた表情になる。




「だが、今回は大人しく連れてこられたと聞いたからな。漸く観念して、私の軍に入る気になったのだろう?」


「あ~それについて話をしに来たんだよ」


「・・・何だ?」


「前にも言ったけど、私シグルド様の軍に入る気に全く無いので!」


「何だと?」


「そもそも、何でこんなに拒んでいる私に執着するの?絶対私より、シグルド様の役に立つ人一杯いると思うよ?その人達を勧誘してよ!ハッキリ言って迷惑なの!!鬱陶しいの!!」


「っ!」




 瑞希が、目を据わらせながらシグルドにそうキッパリと言い切ると、言われた方のシグルドは、まさかそんな風に言われると思っていなかったようで驚きに目を瞠る。


 するとその二人のやり取りを黙って見ていたジルが、口元を押さえて顔を反らせ小刻みに肩を震わせ始めた。




「・・・ジル」


「くっ・・・す、すみません・・・」




 そんなジルをシグルドはジロリと睨み付けるが、ジルは謝りを口にしながらも笑いを抑える事が出来ないでいるようなのだ。


 シグルドはそんなジルをもう一度睨み付けると、再び視線を瑞希に戻す。




「ミズキ・・・それは本心か?」


「勿論!なんだったらウザいも追加するよ!」


「・・・・」




 その瑞希の言葉に、今度こそシグルドは絶句したのだった。




「す、すげえ・・・王族のシグルド様に対して、そんな事言えるミズキマジすげえな・・・」




 そう瑞希の隣に立っているロキが、唖然としながら呟く。




「・・・ん?そう言えば、ミズキと一緒に行動している男も一緒に連れてきたと報告を受けていたな」




 どうやら瑞希ばかり気にしていたシグルドは、ロキの存在を完全に意識から外していたようなのだ。


 シグルドはそのロキの声を聞き、チラリと視線だけ瑞希の隣に立つロキに向ける。




「ど~も、ロキって言います」


「・・・お前、何故ミズキと一緒に行動している?確か途中までの報告では、ミズキは基本一人で行動していたと聞いていたのだが」


「あ~ハッキリ言って、ミズキと一緒にいると楽しそうだと思ったからだよ」


「・・・何だと?」


「まあ実際、本当に退屈はしなかったけどね」




 そう言ってロキは、チラリと瑞希の方を見てきたのだ。




「・・・お前、何者だ?」


「オレ?オレ盗賊だよ」


「盗賊?」


「あ、シグルド様、ロキは盗賊って言ってるけど義賊だから安心して良いよ。それに、一緒に行動していた間は一度も盗みは働いていなかったからさ」




 シグルドがロキを胡乱な目で見てきたので、瑞希が慌ててフォローの言葉を言う。




「義賊?盗賊?いや・・・違うな・・・お前、本当に何者だ?」


「・・・へぇ~」




 ロキはシグルドの言葉を聞き、意味深な笑みを浮かべた。


 するとそのロキは、おもむろに頭に巻いていた布に手を持っていくと、何の躊躇も無くその布を頭から取り外したのだ。




「なっ!?」


「っ!!」




 その露になったロキの真っ白な髪の毛を見て、シグルドとジルは驚きに目を瞠る。


 そしてジルに至っては、若干畏怖の表情も混じっていた。




「・・・ミズキ、普通はこんな反応なんだよ?」




 そうロキは、瑞希に顔を向けながら自嘲気味に笑ったのだ。




「ロキ・・・」


「・・・その白い髪は地毛か?」


「ん?ああそうだよ」


「そうか・・・しかし確か何処かで、白い髪についての噂を聞いたような・・・」




 シグルドはそう呟き、顎に手を当てながら何事か考え始める。


 瑞希はそんなシグルドを不思議に見ていたのだが、ふとシグルドの後ろに何か見えそっちに視線を向ける。


 するとその視線の先にある中庭に、だいぶ遠くにはいるが二人の男女の姿が見えたのだ。


 その男性の方は白い長衣を纏い、ここからでも分かる程に日の光に輝く背中まである金髪が歩く毎に揺れている。


 そしてその隣を寄り添うように歩く、水色のヒラヒラとした衣と腰まである豊かな黒髪をした女性がいたのだ。


 瑞希はその女性の方を見て、目を大きく見開いて驚く。




「あ、あれは・・・」




 思わず呟いた瑞希の言葉に、シグルドは瑞希の視線を追って後ろを振り向く。




「・・・ああ、あれは兄上と聖女アキナだな。多分兄上が、聖女アキナを誘って庭を散策に出てきたのだろう」




 シグルドはそう庭を楽しそうに歩く二人を見ながら言ったのだが、瑞希には殆ど耳に入っていなかったのだ。




(・・・そりゃそうだよね。神殿が近くにあるんだから、和泉さんが現れても不思議じゃ無いよね。でも・・・絶対顔を会わせないようにしないと!!)




 瑞希はじっと和泉を見つめ、そう心に誓う。




「・・・あれが、聖女・・・」




 そう瑞希の隣に立っていたロキから、まるで感情の無い低い声で呟いたのが聞こえ、瑞希はその今まで聞いた事の無いそのロキの声を不思議に思いロキの方に顔を向ける。


 するとロキは、鋭い視線で和泉をじっと見ていたのだ。




「・・・ロキ?」


「っ!・・・・・ミズキ、ごめんな」


「え?」




 瑞希が不思議そうにロキに声を掛けると、ロキは肩をビクッと震わせ瑞希の方をチラリと見て、一瞬とても悲しそうな表情で瑞希に謝るとすっと表情を消した。


 そして次の瞬間、猛スピードで走り出しガラス扉を勢いよく開けて中庭に飛び出して行ったのだ。


 しかもその手には、懐から取り出した抜き身の短剣が握られている。




「っ!そうか、あいつは暗殺者か!!そして狙いは、聖女アキナだ!!!」




 そう走り出したロキを見てシグルドがそう叫び、腰に差していた剣を鞘から抜き急いでロキを追い掛けて中庭に出ていく。




「え?え?ええ!?」




 瑞希はその突然の展開に、激しく動揺していたのだった。

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