依頼達成報告

 太陽が真上に差し掛かろうとする頃、瑞希とロキはロマンドの街が遠くに見える街道を歩いていた。




「・・・随分時間掛かっちゃたな」


「そうだね。思いの外コケトリスに手間取ったからね」


「・・・確かにそれもそうだけど、それよりもミズキが焼けたコカトリスのモモ見て、いきなり食べたいとか言い出したのが原因だと思うが?」


「うっ!」


「まさか散々オレに怒られた後で、あんな事言い出すとは思わなかったよ」


「だって!凄く美味しそうな匂いしてたから・・・」


「まあ、確かにそうだったけどさ・・・」


「・・・やっぱりシンプルに、ソムを掛けて食べるのが美味しかったな~」




 そう瑞希はこんがり焼けたコケトリスのモモ肉を思い出し、思わずよだれが出そうになったのを慌てて自分の袖で口元を拭う。


 そんな瑞希の様子を、ロキは呆れた表情で見ていたのだ。




「・・・本当にミズキは、食べる事に関してはマジ貪欲だな」


「べつに良いじゃん!それにロキだって、美味いって言って食べてたじゃない!」


「・・・まあそうだが・・・」




 結局なんだかんだと言いながら、ロキがコケトリスを捌き二人でその焼けた肉を食べたのである。


 そんな経緯もあり、瑞希にその事を言われロキはバツが悪そうに頬を指で掻いて視線を反らす。




「でも本当に美味しかったな~!・・・欲を言えばタレでも食べたかったけど・・・」


「・・・タレ?」


「あ~何でもないよ!気にしないで!」




 不思議そうに聞いた事の無い名前を呟いたロキに、瑞希は慌てて誤魔化していたのだ。




(危ない危ない・・・この世界には、焼き鳥のタレなんて物無いんだった!下手に説明すると、色々と余計な事まで言ってしまいそうだし、ここはなんとか誤魔化さなくては!)




 瑞希はそう心の中で焦り、ロキはそんな瑞希を不思議そうに見ていたのだった。




「そ、それよりも、そろそろロマンドの街に着くよ!」


「ん?ああそうだな」




 その瑞希の言葉に、ロキはもうすぐそこまで近付いたロマンドの街を見て、鞄から青い布を取り出して頭に巻き髪を隠す。


 そして瑞希はなんとか誤魔化せたと、密かにホッと胸を撫で下ろしながらフードを深く被る。


 そうして瑞希達は、ロマンドの街に入っていったのだ。












 ロマンドの街に入り、人混みの中を歩きながらロキが瑞希に話し掛けてきた。




「なあミズキ、オレもこのままギルドに行くの付いていくよ」


「本当?助かるよ。さすがにそれ重そうだからさ」




 そう言って瑞希は、ロキが担いでいる大きめの麻袋をチラリと見る。


 その麻袋の中には、依頼品であるコケトリスのトサカが入っているのだ。




「まあそこまで大して重く無いけど、一応オレが持っていってやるよ」


「ありがとう!」




 そうして二人は、揃って冒険者ギルドに入っていく。


 そしてギルドの中に入った瑞希は、迷う事無く受付カウンターに向かうと、前日に対応してくれた受付の男に声を掛ける。


 勿論その時、前日に言われた事を忘れていなかった瑞希は、フードをちゃんと外しておいたのだ。




「おじさん、依頼品持ってきたよ」


「ん?ああ、あんたか・・・ってもう持ってきたのか!?」


「うん、そうだけど?」


「そうだけどって・・・確かあの依頼は、コケトリスの素材だっただろう?そのコケトリスって言えば、ちょこまかと素早く動き回り中々捕まえられない事で有名だったはずだが?」


「あ~うん・・・まあ・・・確かに素早かったよね」


「・・・まあな」




 瑞希が複雑な表情で後ろにいるロキに視線を送ると、ロキもその瑞希に複雑な表情を返す。




「ん?ああなんだ、他にも仲間がいたのか。なら思いの外早いのも納得出来るな。じゃあ、その依頼品を受け取ろうか」


「あ、はい。・・・ロキよろしく」


「ほいほい」




 受付の男にそう言われ、瑞希はロキに声を掛けてから横に移動する。


 そしてロキはその瑞希の横に立つと、カウンターの上に麻袋からコケトリスのトサカを取り出して置いたのだ。




「な、なんだこれは!?デ、デカイ!!!」


「え?これが依頼品だよね?」


「た、確かに形からして、依頼品のトサカであるのは間違い無いが・・・もしやこれは『キングコケトリス』のトサカかではないか!?」


「キングコケトリス?」


「知らないのか?そいつはコケトリスが、突然変異して巨大化したモンスターなんだ。そしてそいつを、キングコケトリスと呼んでいる。だがそいつは、他のコケトリスと違って知能が発達していて、中々倒す事が難しいモンスターのはずなんだ。今までもそいつに遭遇した者は何人かいたが・・・何故か皆ボロボロで帰って来てな、胡乱な目でもう二度とあいつとは戦いたくと口を揃えて言うんだよ」


「あ~その人達の気持ちよく分かる~!私も出来れば、もうあんなようなのと戦うの嫌だからさ」




 そう瑞希がうんざりしながら言うと、隣に立っているロキも何度も首を縦に振って頷いていた。




「そ、そうなのか・・・だが、そんな奴からトサカを取ってきたのか。あんた見た目に反して結構やるんだな」


「そんな事無いけどね。それよりも、今回そのキングコケトリスのトサカを持ってきちゃったけど、依頼品としては認めて貰えないのかな?」


「ああ、その心配は無いから大丈夫だ。依頼主から、もしキングコケトリスのトサカを持って来たら、追加の報酬を払うように指示を受けているからな」


「そうなんだ!」


「じゃあ少し待ってくれ、今報酬金を持ってくるから」


「は~い」




 そうして受付の男は、一度奥に引っ込みそして再び戻ってきた時には、その手にぎっしりとお金が詰まった麻袋を持って戻ってきたのだ。




「ほら、今回の報酬金だ」


「おお!結構な量だ!!」


「確かに、これは凄いな」




 受付の男から受け取った麻袋の口を開け、瑞希とロキが中を覗き込んで驚きに目を瞠る。




「これだけあれば、暫くは大丈夫そうだね!」


「うん、大丈夫だろう」


「じゃあこのお金は後で半分に分けるとして、とりあえず宿屋に戻ろうか」


「そうだな。さすがに疲れたし、夕飯まで一眠りするかな」


「あ~それ賛成!・・・じゃあおじさん、ありがとうね!」


「ああ・・・こちらこそありがとうな」




 そうして瑞希達は、受付の男に背を向けフードを被り直し扉に向かって歩き出したのだが、その二人の背中をじっと受付の男が見つめていた。


 しかしそんな男の視線など気が付かず、瑞希達は夕飯を何食べるか話ながらギルドの扉を開け一歩外に足を踏み出す。


 するとそんな瑞希達の目の前に、全身ローブに身を包んだ二人組の男が立ちはだかったのだ。




「・・・ミズキだな」


「え?」




 その二人組の一人が、フードを被った状態でそう瑞希に声を掛けてくる。


 しかし瑞希はその二人組に見覚えなど無かったので、怪訝な表情でじっとその二人を見つめた。


 すると瑞希は、ある事に気が付きさらに眉間に皺を寄せる。


 何故ならローブの隙間から見えたその男達の服装が、どう見ても騎士の服でさらにチラリと見えた、腰に差している剣の柄にグロリア王国の紋章が見えたのだ。




(マジか・・・ここ国外だよ?そこまで追い掛けてくるの!?)




 瑞希はそううんざりとしながらも、ふとある事に気が付いてすぐさま後ろを振り返る。


 するとその瑞希の様子に気が付いた受付の男が、目を泳がせながら顔を背けたのだ。




(あ~そう言う事か・・・こんな所にまで、シグルド様の手が回っていたんだ。ん?ああだから昨日、あんなに私の事を見てきたり名前を確認していたんだな・・・シグルド様、マジでしつこい!!)




 そう瑞希は全てを察しながら、ここまでするシグルドに頭を痛めていたのだった。




「・・・なあミズキ、こいつらシグルド様の私兵だろ?・・・なら殺っちゃって良い?」


「はっ?殺っちゃってって・・・ロキ!何物騒な事言ってるの!?」




 瑞希の隣に立っているロキからそんな物騒な言葉が聞こえ、瑞希は慌ててロキの方を見ると、ロキが懐に手を差し入れていつでも短剣を引き抜ける体勢で二人組の男達を鋭く見つめていたのだ。


 するとそのロキの様子に気が付いた二人も、剣の柄に手を置きいつでも鞘から引き抜ける体勢を取っていた。


 瑞希はそんな一発即発の状態に、慌てて両者の間に体を捩じ込ませ手を大きく広げる。




「ちょ、ちょっと待った!!こんな所で騒ぎを起こさないでよ!!とりあえずロキ、殺っちゃ駄目だから懐から手を出して!!それにあなた達も柄から手を離して!!」


「・・・殺っちゃた方が早いと思うけど?」


「早くないから!!って言うか、それ以上言わないで!話がややこしくなるから!!」


「・・・仕方がないな。ミズキがそう言うなら止めとくよ」




 そうロキは言うとさっきまでの険しい表情を緩め、懐から手を出して両手を頭の後で組んだ。


 それを見届け警戒しつつも男達は、漸く剣の柄から手を離してくれた。




「・・・はぁ~それで、私に用があるんだよね?」


「あ、ああ・・・まず確認だが、お前はミズキで間違い無いな」


「・・・違うって言っても、信じてくれないよね?」


「まあな。ここのギルドから連絡があり、それからしっかりと知らべさせて貰ったからな」


「でしょうね・・・それで?」


「・・・察しがついていると思うが、シグルド様がお前を探している。我々と一緒に来て貰おうか」


「・・・・」




 やはり予想通りの言葉に、瑞希はガックリと肩を落とす。




「・・・ミズキ、どうするの?」


「・・・分かった。あなた達と一緒に行くよ」


「えっ?ミズキ!?」


「さすがに、ここまで追い掛けて来ると思わなかったからさ。正直いい加減うんざりしてるから、もう一度シグルド様と直接会ってキッパリと諦めて貰おうかと思ったんだ」


「・・・諦めるかな?」


「さあ?って言うか、諦めて貰わないといい加減困るんだよね」




 そうロキに、フードで目元が隠れながらも苦笑を溢していたのだった。




「それじゃ悪いんだけど、ロキとはここでお別れだね。今までありがとう!」


「え?オレも付いていくよ?」


「え?これは私の問題なんだから、ロキを巻き込む訳にいかないよ!!」


「正直オレとしては、ミズキを一人で行かせる方が色々心配だからさ。だからオレも絶対付いていくよ!!」


「ロキ・・・」




 ロキが真剣な表情で、キッパリとそう瑞希に言ってきたのだ。




「・・・分かった。でも大人しくしててよ」


「分かってるって!だがむしろ、ミズキの方が大人しくしてろよ」


「なっ!失礼な!ちゃんとするよ!!」


「・・・どうかな?」




 そうして暫く二人は言い合った後、瑞希はシグルドの私兵にロキも一緒に連れていく許可を得て、瑞希達はシグルドの待つグロリア王国の王都に連れていかれたのだった。

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