資金調達

「あ~・・・」


「ん?ロキどうしたの?」


「いや・・・さすがにそろそろ、武器の打ち直し頼まないと不味いなと思ってさ」




 そう言ってロキは、困った表情で愛用の短剣を鞘から抜いた状態で瑞希に見せてきた。




「・・・あ~確かに、だいぶ刃の部分がくすんでいるし所々刃こぼれしてるね」


「そうだろ?」


「うん・・・でも、ロキは武器の打ち直しとか出来ないの?」


「いやそればかりは、専用の知識と技術が必要だからな。さすがにオレにはそんなの無いから、いつも武器屋に頼んでいるんだ」


「そうなんだ・・・ロキ何でも出来るから、武器も自分でなんとか出来るのかと思ったよ」


「まあ、最低限の手入れはいつもやってるけど・・・最近、前よりも武器を使う頻度が高くなったから、手入れが追い付かなくなったんだよ」


「・・・前衛と料理、いつもありがとうございます!」




 チラリと見てきたロキの視線の意味を察し、瑞希はロキに深々と頭を下げてお礼を言ったのだ。




「・・・まあ、どっちにしろそろそろ調味料も少なくなってきたし、一度買い出し行かないとは思っていたけどな」




 ロキはそう言って苦笑したのだが、そんなロキを見ながら瑞希はふとある事に気が付きゴソゴソと懐に手を入れて何かを探す。




「・・・ミズキ?」


「・・・ああ、あったあった!・・・って、やっぱりもう残り少かった」




 不思議そうに見てくるロキを無視して、瑞希は懐からお金の入った麻袋を取り出し、袋の口を開けて中身を確認し困った表情になる。




「私の方も、そろそろ資金調達しないとちょっと厳しくなってきたかも」


「・・・そっか。じゃあ確かこの近くに・・・ああ、ロマンドって言う少し大きめの街に冒険者ギルドがあったはずだから、そこに行こうか」


「・・・そうだね。すぐにこなせて丁度良い報酬金が手に入る、フリーの依頼あったら受けてみるよ」


「じゃあ決まりだ!さっそく行こう!」


「うん!」




 そうして瑞希とロキは、手早く野営を片付けるとロマンドの街に向かったのだった。














 ロマンドの街に入る前に瑞希はいつも通りフードを目深に被り、ロキは濃い青色の大きな布を頭に巻き付けその真っ白な髪を全て隠してから街に入って行く。


 そしてまず宿屋へ先に向かい、そこでベッドが二つある一部屋を二泊分前払いで取った。


 そうして宿屋の部屋を無事取れた事で瑞希は安心し、宿屋を出て次の目的地である冒険者ギルドの前までロキに案内して貰ったのだ。




「もうここで大丈夫だよ」


「分かった。じゃあオレは、武器屋と調味料関係の調達行ってくるよ」


「は~い。気を付けてね!」


「ああ、じゃあまた宿屋でな」




 そう言ってロキは手を振り、目的の場所に向かって人混みの中に消えていった。


 瑞希はそのロキの姿を見届けた後、冒険者ギルドの看板が付いた扉から中に入っていったのだ。


 この世界の冒険者ギルドと言うのは、どこの国にも属さない独立した機関である。


 しかしその需要は各国にある為、最低でも国に必ず一つは冒険者ギルドが存在しているのだ。


 そして冒険者ギルドは、その各国各地の冒険者ギルドで登録している冒険者達の情報を共有し、もしどうしても依頼内容がその地域の登録冒険者だけでは間に合わない時、他の地域の登録冒険者を要請出来るようになっている。


 だがそれでも手に負えない依頼が出た時だけ、冒険者ギルド本部の許可を得て、その冒険者ギルドが所在している国に要請しているのだ。


 ただその場合、冒険者ギルドに入ってくるお金の半分は要請した国に払わないといけないシステムになっているので、滅多な事がない限り国側に要請はしないのであった。


 そんな冒険者ギルドは、基本的に内装も統一されている。


 だがどうしても建物の大きさはその場所によって変わるので、多少の違いはあるが配置はどこも同じようにされているのであった。


 そうしてその事を知っていた瑞希は、ギルド内に入ると迷う事無く受付のカウンターに向かって歩いて行ったのだ。




「すみません!フリーの依頼受けたいんですが、何か良いのありますか?」


「ん?なんだ?初めて見る・・・女の冒険者だな。だが、何でずっとフード被ったままなんだ?」


「あ~えっと・・・やっぱり取らないと駄目ですかね?」


「当たり前だろ!こっちは、客から依頼された物を紹介する立場なんだ!そんな怪しさ満点の奴に、大事な客の依頼を教えれる訳無いだろう!」


「・・・まあ、ごもっともで」




 瑞希はそのちょっと口の悪い受付の中年の男を見ながら苦笑し、仕方がないと思いながら被っていたフードに手を掛けて外す。




「・・・!」




 しかしフードを外して真っ直ぐその受付の男を見た瑞希を見て、何故か受付の男は驚愕の表情になったのだ。




(ん?どうしたんだろう?・・・あ~やっぱり、この黒髪と黒い瞳って珍しいものなのかな?でも、そんなにジロジロ私の顔見られてもな~。う~ん、ちょっとロキの気持ち分かったかも)




 そう瑞希は心の中で思いながら、目を見開いてジロジロ見てくる受付の男の視線を受け止める。


 しかしその時、その受付の男が瑞希を見ながら気が付かれないようにカウンターの下の、瑞希から見えない位置にもチラチラ視線を向けていた事に瑞希は気が付いていなかったのだ。


 さすがにそろそろ男の視線にもうんざりしてきた瑞希は、頬を人指し指で掻きながら男に声を掛ける。




「・・・あの~言われた通りにフード外したんですが?」


「・・・あ、ああ!そうだったな!すまん!あまりに珍しい黒髪だったから、思わず見とれてしまったよ!わはは!」


「・・・はぁ~」


「ゴホン!あ~フリーの依頼だったな。ちょっと待て、今良いのが無いか探してきてやる」


「・・・お願いします」




 瑞希からの冷たい視線を受けながら、男は一度奥に行っていくつかの紙の束を漁り、そしてその中から一枚の紙を持って再び瑞希の前に戻ってきた。




「すまん、待たせたな!・・・これなんかどうだ?結構お薦めだぞ?」




 男から依頼内容が書かれた紙を受け取り、瑞希はじっとその内容に目を通す。




(ふむ・・・これなら、ロキと二人でやればすぐ終われそうだね。それに、報酬金もなかなか良い!)




 瑞希は頭の中で、この依頼内容をどうやって遂行するかや貰える報酬金を考え、うんと一つ頷いた。




「これ受けるよ!良いの教えてくれてありがとう!!」


「ま、まあ、そんなに喜んでくれて紹介した俺も嬉しいよ。あ~じゃあ、契約書にサインしてくれ」


「あ、はい」




 男に差し出された別の紙に、今回の依頼を受ける為の契約内容が書かれていたので、瑞希はしっかり内容を読み問題ない事を確認して一番下の欄にサインする。




「・・・ミズキ」


「へ?私の名前が何か?」


「あ、いや、何でも無い!さあ、これで契約成立だ!気を付けて頑張ってきてくれ!」


「・・・は~い。頑張ってきます」




 瑞希は男の異様に明るい笑顔を不思議に感じながら、依頼書を畳んで懐に仕舞い、再びフードを被って冒険者ギルドを出ていく。


 しかしその背中を、その男がじっと見つめている事にも瑞希は気が付いていなかったのだった。












 宿屋に戻り取った部屋に入ると、まだロキは帰ってきていな様子だったので、とりあえず瑞希はマントを脱いでベッドの上に横になり寛ぐ事したのだ。




「あ~久しぶりのベッド、気持ちいい!!」




 そう言って瑞希は、ベッドの上で布団の感触を確かめながらゴロゴロしていた。


 するとその時、部屋の扉が開きそこからロキが入ってきたのだ。


 瑞希は、すぐに体を起しロキの方を見る。




「ロキお帰り~!どうだった?」


「バッチリ打ち直して貰ったよ。それに調味料の買い出しもしてきたけど、そこでいくつか気になった調味料と香辛料手に入れたから、今度それ使って料理してやるよ」


「やったー!楽しみ!!」


「で、ミズキの方はどうだったんだ?」


「勿論、私の方もバッチリだよ!はい、これが依頼書」




 そう言って瑞希は、懐からさっき受けた依頼書を取り出しロキに手渡す。




「・・・ふ~ん、良いんじゃねえ?」


「そうでしょ?それにその報酬金なら、暫くは生活出来ると思うんだ」


「・・・特に問題ないと思うぜ。ただ・・・この依頼品は、早朝にしか出てこないモンスターから取れるって言う所が難点だけどな」


「私もそれは思ったけど、どうせ元々ここ二泊取ってあるし問題ないかなっと思ったんだ」


「まあそうだな。じゃあ今日は、ここの宿屋の夕飯食べて明日に備えて早めに寝よう」


「うん!賛成!」




 そうして瑞希達は、宿屋に追加料金を払って部屋で食事を取り、そして早めに就寝したのだった。












 翌朝、まだ日も出ていない内に瑞希達は宿屋を出て、依頼書に書かれている目的のモンスターが出現する場所に移動する。


 そうしてある程度街から離れた目的の場所に瑞希達は到着したのだが、そこは森の中でぽっかりと開いた草原だった。


 瑞希とロキはその場所で揃って立ち、段々空が明るくなって朝日が上ってくるのをじっと見つめる。


 するとその時、遠くの方からドスドスと何か大きな音が聞こえてきたのだ。


 瑞希はその音がした方に視線を向けると、遠くの方からこちらに向かって近付いてくる影が見えた。


 どうやらその音は、その影から聞こえてくるようだ。


 ロキは懐から短剣を取り出し構え、瑞希はいつでも攻撃魔法が撃てるように両手をその影に向かってかざす。


 そうして二人はその影が近付いてくるのを待っていたのだが、いざその影・・・標的のモンスターを目の前にして、瑞希達二人は驚愕に目を見開いてそのモンスターを見上げたのだった。




「ね、ねえロキ・・・この『コケトリス』ってこんなに大きかったけ?」


「い、いや・・・もう少し小さかったはずだぞ?確か、オレぐらいの背の高さだったはず・・・」


「そ、そうだよね?私も前に見た、モンスター図鑑に載ってた情報もそんな風に書いてあったよ・・・」


「・・・これ、本当にコケトリスか?」




 そう瑞希とロキは、呆然と目の前にいるコケトリスを見つめる。


 何故二人がそんな様子になっているのかと言うと、そもそもコケトリスと言うモンスターは、見た目は瑞希の世界にいる雄のニワトリそのものだった。


 しかしこの世界では、どれだけニワトリと見た目がそっくりでもやはりモンスターなので、明らかに瑞希がいた世界のニワトリとサイズが異なっていたのだ。


 だが本来一般的に知られているコケトリスは、ロキの身長ぐらいの大きさなのだが、今瑞希達の目の前に立ち塞がっているコケトリスは、だいたい二階建ての家ぐらいの大きさをしていたのだった。


 そんな予想以上に大きなコケトリスを今だ呆然と二人で見上げていると、コケトリスがチラリと瑞希達を見ておもむろにその鳥の足を持ち上げる。


 そして次の瞬間、その上げた足で瑞希達を踏み潰そうとしてきたのだ。


 ハッとその動きに気が付いた二人は、間一髪の所で左右に飛び退き難を逃れた。


 しかしコケトリスの足は勢いそのまま地面に着くと、ドスンと言う大きな音と共にその足は地面に深くめり込んだのだ。




「あ、あぶな・・・」




 瑞希はそのめり込んだ地面を見て、背中に冷や汗をかいたのだった。


 するとその瑞希の様子を見て、コケトリスはその大きな目でニヤリと笑い、顔を上に向けて嘴を開ける。




「ゴゲゴッゴーーーーー!!」




 凄いダミ声ではあるが、まるでニワトリのような鳴き声をその嘴から発したのだ。




(・・・なんか、凄く馬鹿にされた気分)




 そう瑞希は感じ、頬を引きつらせながらコケトリスを睨み付けるが、チラリとロキの方に目をやるとロキも同じような表情でコケトリスを見ていたので、多分瑞希と同じ気持ちでいると察したのだった。


 すると一声鳴いたコケトリスは、瑞希達に再び視線を戻しそして襲い掛かってきたのだ。


 そうして瑞希達と、コケトリスの戦いが始まった。










 すっかり朝日も上り辺りが明るくなっても、瑞希達とコケトリスの戦いは終わっていなかったのだ。


 正直、コケトリスはそんなに強くは無い。


 何故なら攻撃自体も、足での踏み潰しか嘴で突いてくるような単純な攻撃ばかりだった。


 しかし何故それでもまだ倒せていないのかと言うと、コケトリスはあの大きな図体に似合わず動きが素早かったのだ。


 瑞希やロキが攻撃を食らわそうとすると、それに気が付いたコケトリスがサッと後退して避け、そして瑞希達が空振ってよろけた隙に嘴や足で攻撃してくる。


 それをなんとか避けた瑞希達が、再びコケトリスに攻撃しようとするとまたサッと距離を取られてしまうのだ。


 そしてその時は、必ずコケトリスが馬鹿にするように笑ってくるのだった。




(ウ、ウザい!!!)




 そのコケトリスの姑息なやり方に、段々瑞希の目が据わっていく。


 それでもなんとかコケトリスを追い詰め、瑞希とロキが一斉に攻撃を仕掛けた時、なんとコケトリスはその羽を羽ばたかせて宙に浮きその攻撃を避けた。




「飛べるなんて聞いてないぞ!!!」




 瑞希がそう叫ぶと、その声を聞いたコケトリスが瑞希に向かってまた馬鹿にしたように笑ってきたのだ。




プッチン!




 その時、瑞希の中で何かが切れたような音がした。


 すると瑞希は完全に目を据わらせ、背中から黒いオーラを漂わせているような雰囲気でコケトリスを睨み付ける。


 その瑞希の只ならぬ様子に、ロキが慌てた様子で近付いてきた。




「ちょっ!ミズキ落ち・・・」


「このクソ鳥!!!焼き鳥にでもなってしまえ!!!」




 ロキの制止も間に合わず、瑞希は思いっきり宙に浮くコケトリスに向かって、メラメラと燃え盛る炎の玉を避ける事の出来ない速度で撃ち出したのだ。




「ゴ・・・ゴゲーーーーーー!!!」




 コケトリスは、瑞希の放ったその炎の玉を避ける事も出来ずその身に受けると、一気にコケトリスの体が炎に包まれ叫び声を上げながら地面に落ちてきた。




「ちょっ!ヤバイ!!」




 ロキはそう焦ったように叫ぶと、短剣を構えながら急いでコケトリスの下に走る。


 そしてまだ完全に燃え移っていなかったトサカを素早く切り落とし、そのトサカを持って燃え続けるコケトリスから離れ再び瑞希の下に戻ってきた。




「ミ・ズ・キ!!危うく納品物の、トサカまで燃える所だっただろう!!!」


「あ!ごめん!ついムカついて・・・」




 ロキが目をつり上げて瑞希に詰め寄ってきたので、そこで瑞希は冷静さを取り戻し慌ててロキに謝る。


 しかしロキの怒りは収まる事無く、後で燃え盛るコケトリスの炎がロキのバックで赤々と映し出されながら、瑞希は暫くロキの説教を受ける事となったのだった。

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