旅は道連れ・・・
「ロキ!そっち行ったよ!」
「おう!任せとけ!!」
瑞希の呼び掛けにロキは応え、飛び掛かってきた大きなトカゲのようなモンスターの胴体を、素早く短剣で切り裂いた。
するとそのトカゲのようなモンスターは、断末魔の声を上げながらその場で崩れ落ちる。
しかしそのトカゲのようなモンスターは、その一匹だけではなく他にも数頭周りにいたので、今度は一斉にロキに向かって襲い掛かってきた。
だがそれは、瑞希達にとって計算していた事だったのだ。
そのモンスター達の動きを見た瑞希は、その群れに向かって手をかざし意識を集中させる。
そして魔法のイメージが固まった所で、一人そのモンスターの群れ中で軽々と立ち振る舞っていたロキに向かって叫んだ。
「ロキ今だよ!離れて!!」
「おう!」
瑞希の声を聞いたロキは、その場で大きく跳躍をし近くの木の枝に飛び移った。
そしてそのロキが安全な所まで移動したのを確認した瑞希は、そのモンスターの群れに向かってイメージした魔法を発動させたのだ。
するとその瞬間、そのモンスターの群れの足元が青白く光り、そこから大きな氷柱が何本も突き出してきた。
そしてその氷柱に足や体を貫かれ身動き出来なくなったモンスター達に、今度は木の枝から飛び降りてきたロキの手によって次々と止めを刺されたのだ。
そうして全て倒したのを確認した瑞希は、その氷柱の魔法を解いた。
「いや~相変わらず、ミズキの魔法の威力は凄いな~!」
「そんな事無いよ!他の人より少しだけ強いぐらいだよ・・・」
そう言って瑞希は感心してくるロキに、困った表情を向けたのだ。
結局あのロキとの出会いから、何だかんだで一緒に旅をする事になった瑞希は、ロキの手助けを借りて今グロリア王国の隣の国であるロランドベア王国に来ている。
実はこの国はロキの生まれ育った国。それもあって、ロキはこの国の地理にとても詳しかったのだ。
瑞希はさすがに国を越えてまでシグルドの追手は無いと思っているのだが、一応大事を取って基本的にロキと野宿をしながらこの国を旅している。
ちなみに、何で最初っから他国に行かなかったのかと思われるかもしれないが、瑞希は特に深く考えず王都でグロリア王国の地図だけ手に入れてしまっていた。
その為、グロリア王国の地理はその地図を見て大体把握出来、村や街が何処ら辺に点在してるかも分かっていたのだが、他国の地図を買っていなかった事で、何処に行けば別の国に行けるのかとか、さらにその国に行けたとして何処に村や街があるのか全く分からない状況だったのだ。
そして他国の地図は王都でしか売っていない事を知った瑞希は、下手に地理の分からない他国へ行くよりも、場所を把握出来るグロリア王国にいようと決め、なるべく王都から遠く離れた町で身を隠していたのだった。
そんな話をロキにすると、ロキはロランドベア王国なら詳しいから連れていってやると言ってくれたのだ。
そうして今に至るのである。
「しかし、やっぱり前衛がいると楽だな~」
「・・・べつに前衛をやる事自体は全然オレは良いけど、最初の頃みたいに手を抜くのは止めろよ?」
「・・・分かってるって」
ロキが胡乱な目で瑞希の事を見てくるので、瑞希は頬を掻きながら苦笑を溢す。
何故ロキがそんな事を言うのかと言うと、瑞希とロキが一緒に旅を始めたぐらいに初めてモンスターと戦う事があったのだが、その時瑞希は魔法の力を手加減して使っていたのだ。
するとその様子に気が付いたロキに、その後懇々と説教を受ける事になってしまい、それからはロキにバレないレベルで程々に魔法の威力を強めたのだった。
「それじゃ、捌くかな」
「あ~じゃあよろしく、私は野宿の準備をしてくるよ!」
「・・・平気でモンスターは倒せるのに、相変わらずこれは無理だよな」
「なんと言われようが、無理な物は無理!じゃあよろしくね!」
「ほいほい」
ロキは手に持っていた短剣を握り直し、地面に倒れているモンスターに近付く。
それを見届けた瑞希は、すぐロキに背を向けその場から離れて行ったのだった。
辺りもすっかり暗くなってきた頃、魔法で焚き火を起しその周りに座る用の太い丸太を二つ用意しておいた瑞希の下に、捌き終わった肉を詰めた麻袋を持ったロキがやって来る。
「ロキ、お疲れ~!」
「べつに大した事無いよ。それより、すぐに夕飯作るから待っててな」
「うん!ちなみに今日の夕飯は?」
「このギラドの肉を使った、パルルの葉包み焼きだよ」
「おお!名前聞くだけで美味しそう!」
実は瑞希がロキと一緒に旅をする事になって、一番良かった事がこのご飯であった。
ロキはその見た目から、ずっと一人だった事で基本的に何でも一人で出来る子に育っていたのだ。
その中でも、料理の腕は素晴らしい物であった。
ロキは瑞希の用意した丸太に座ると、麻袋からさっき捌いたばかりの肉と途中で取ってきたと言うパルルの葉を取り出し、膝の上で器用に調理を始める。
さらにロキは自分の鞄から、いくつかの香辛料と調味料を取り出しその肉にまぶすと、最後にパルルの葉で肉を包んで目の前で燃えている火の中に放り込んだ。
「よし!じゃあ後は焼けるのを待つだけだ」
「・・・相変わらずの手際で感心するよ」
「そんなに難しく無いから、今度ミズキもやってみれば?」
「絶対無理!」
ロキの提案に瑞希は即行許否した。何故なら、瑞希は料理があまり得意では無いのだ。
元の世界では大学に通う為、一人暮らしをしていたのだが食事は専らコンビニ弁当か宅配を頼んでいた。
そして実家にいた時も、ほとんど母親の手伝いをして料理をすると言う事をしてこなかったので、料理スキルは無いに等しい。
しかし食べる事は大好きだったので、やるゲームや読む漫画が無い時に時々遠出して一人で美味しい物を食べに行っていたのだ。
そんな瑞希がこの世界に来て、一人で野宿していた時に料理はどうしていたかと言うと、漫画で見た事があった木の枝に肉を刺して塩・・・この世界では、ソムと言う塩のような味の調味料で味を付けてただ焼いた物を食べていた。
確かにそれはそれで美味しいのだが、何日も肉の種類は変わっても同じ味付けだと飽きてしまっていたのだ。
その話をロキにすると、ロキはその瑞希の豪快な料理に驚きそして呆れていたのだった。
そうして料理担当は、必然的にロキになったのだ。
「ほら、出来たよ」
「おお!良い香り~!ヨダレ出そう・・・」
「・・・一応女なんだから、さすがにそれは止めなよ」
「一応って・・・まあ良いや!じゃあ頂きます!!」
「どうぞ」
瑞希はロキから受け取った、料理の乗った皿を膝の上に置き手を合わせ、そうして目の前の料理に手を伸ばした。
丁寧にパルルの葉を外すと、中からしっかりと焼けた肉が現れる。
そしてそこから漂ってくる香りは、ロキが焼く前に肉に振り掛けた香辛料の匂いなのだが、数種類入れたのにどれも邪魔をする事無くとても食欲を唆られる香りだった。
瑞希は早速、一緒に渡されたナイフとフォークで肉を一口サイズに切り、それをフォークに刺して口に運ぶ。
「ん~!!肉汁ジューシー!!美味い!!幸せ~!!」
ほっぺに両手を当てて、ニコニコと嬉しそうに食べる瑞希を見てロキはふっと笑う。
「本当にミズキって、食べてる時が一番幸せそうだよな」
「だって本当に幸せ・・・んんん!!」
「ああほらほら、食べながら喋るからだよ。はい、お水」
喉に詰まらせて苦しそうにしている瑞希に呆れた表情を向けながら、瑞希の魔法で用意しておいた水の入ったコップを瑞希に手渡す。
それを瑞希は慌てて受け取り、一気に水を喉に流し込んだ。
「ぷは~!ロキありがとう。助かったよ!」
そう言って瑞希は苦しくて涙が滲んだ目を袖で拭い取り、空になった自分のコップに再び魔法で水を入れる。
とりあえず瑞希が落ち着いたのを確認したロキは、苦笑しながら自分の席に戻り食事を再開したのだった。
夕飯を堪能した瑞希は、綺麗に料理を平らげ手を合わせてロキを見る。
「ごちそうさま!今日も美味しかったよ!」
「どう致しまして」
「それじゃ、食器洗うから貸して」
「よろしく」
そうしてロキから食器を受け取った瑞希は、食器を持ったまま手をかざすと、その食器を包むようにシャボン玉のような球体が瑞希の目の前に現れて浮き、そしてその中に水が溜まっていく。
すると今度は、食器同士がぶつかる事無くその球体の中で動きだした。
どうやら瑞希はその中に水流を起し、食器の汚れを洗い流しているらしい。
そして水が汚くなると、その水はスッと何処かに消え再び綺麗な水が球体の中に満たされる。
そうして何度か洗浄を繰り返し、完全に綺麗になったのを確認した瑞希は、その中の水を消し去り今度はその中に熱風除菌乾燥を起こしたのだ。
「・・・いつ見ても、その魔法便利だよな」
「まあね。これなら手は汚れないし、何より楽だから」
「でもその魔法や、このミズキが解くまで消えない焚き火って今まで見た事無いけど・・・魔法使いって皆そんな事出来るの?」
「う~ん・・・こんな魔法、人前で見せる物じゃ無いから私もよく分からないよ。だけど、やれる人はいるんじゃ無いかな?」
そう言って瑞希は、興味津々で球体を見つめているロキの方を見る。
(・・・多分、本当はいないと思うけどね。だってこれ私の世界にある、食洗機をイメージしてるからさ)
瑞希はそう心の中で思いながら、実家にある食洗機を思い出していたのだった。
そうこうしている内に食器は完全に乾き、瑞希は再び食器を手に戻して魔法を解いたのだ。
「よし!ロキ終わったよ」
「ほ~い」
ロキは瑞希に返事を返すと、瑞希から食器を全て受け取り丁寧に鞄に仕舞った。
そうしてその後暫く瑞希とロキはお喋りをして、そろそろ寝ようかと言う時になると、突然ロキは目をキラキラと輝かせて瑞希を見てきたのだ。
「ミズキ!今日もあれやって!」
「え~また?昨日もやったよ?」
「良いじゃん!やってよ~!」
「・・・はぁ~仕方が無いな~」
そう瑞希はため息を吐くと、その場で立ち上り寝る用に用意しておいた毛布を二枚持って、近くにある大きな木の幹に近付く。
そしてその木に背中を預け、地面に足を伸ばして座り込むとその膝の上に持っていた毛布を一枚上に掛けたのだ。
「ほら、準備出来たから良いよ」
「やった!!」
瑞希の声に、ロキはとても嬉しそうに笑顔になり瑞希の下に駆けていく。
そして地面に腰を下ろすと、その瑞希の膝の上に顔を瑞希の足側に向けた状態で横になったのだ。
「やっぱりミズキの膝、柔らかくて気持ちが良いね」
「・・・っちょ!くすぐったいから止めて!」
ロキが瑞希の膝に顔を擦り付けてくるので、瑞希はくすぐったさに身悶える。
「もうやらないよ!!」
「・・・ごめん。お願いだからやって」
「・・・今度やったら、膝から無理矢理落とすからね」
瑞希はそうキッとロキを睨み付けた後、その白く柔らかい髪の毛に触れた。
そうして瑞希は、その髪を漉くように優しく撫で始めたのだ。
そうするとロキはとても嬉しそうに笑顔になり、その感触を確かめるように目を瞑ってしまう。
「本当にロキって、これが好きだよね」
「うん!ミズキに髪を触られると、凄く気持ち良くて安心するんだ」
「そう・・・」
瑞希はそれだけ答えると、後は黙ってロキの髪を撫で続ける。そしてロキもそれ以上話をせず、そのまま静かにしていたのだ。
そうして暫くすると、ロキから規則正しい寝息が聞こえてきた。
「・・・体は立派に鍛えてはあるけどこうして見ると、ロキから聞いた15歳と言うちゃんと年相応の子供に見えるね」
そう瑞希は、ロキの寝顔を見つめながらクスッと笑う。
そしてロキを起こさないように、用意してあったもう一枚の毛布をロキの体に掛け、目を閉じて意識を回りに集中させる。
(・・・よし!ここを中心に探知魔法を掛けておいたから、もし寝てる時にモンスターが来ても分かるはず!)
瑞希は目を開けて周囲に視線を向け、何もいない事を確認するともう一度だけロキの髪を撫でた。
「・・・おやすみ」
そう小さな声で囁き微笑むと、瑞希も目を閉じて眠りに就いたのだ。
そうして瑞希からも規則正しい寝息が聞こえ始め、すっかり深夜と言う時間になった時、瑞希の膝の上で熟睡していたはずのロキが突然パチッと目を開けた。
しかしロキはそのまま動かず、じっと森の奥を見つめる。
実はそのロキが見つめる森の奥で、一匹の大きな狼のようなモンスターが、牙を剥き出しにしヨダレを垂らして瑞希達の様子を伺っていたのだ。
だがそのモンスターは野生の感か、瑞希の張った探知の魔法ギリギリ外で立ち止まっていたので、瑞希には気が付かれていなかった。
しかしロキにはそのモンスターから漂う殺気を感じ、目を覚ましていたのだ。
そしてロキは、その位置からは見えないはずのそのモンスターをじっと見つめていたのだが、その目はいつも瑞希に見せているような柔らかい目では無く、氷のように鋭く冷たい目をしていた。
そしてその目をスッと細め、そのモンスターに向かって殺気を放つ。
するとそのロキの殺気を受けたモンスターは、急に怯えだしそして一、二歩後ろに後退った後尻尾を巻いてその場から逃げ出して行ったのだ。
ロキはじっと森の奥を見つめ続け、そのモンスターが再び戻って来ないのを確認してからふっと表情を緩めてゆっくり視線を上に向ける。
その視線の先に、気持ち良さそうに熟睡している瑞希の顔があり、その顔を見てロキはふっと頬笑む。
「ミズキ・・・おやすみ」
そうロキは呟くと、もう一度目を閉じ再び眠りに就いたのだった。
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