ドラゴン討伐作戦
依頼書に書かれた集合場所に行くと、すでに沢山の冒険者達でごった返していた。
瑞希はその中へ、フードを深く被って目立たないようにコソコソと混ざっていく。
そしてある程度中に入った所で、瑞希は見知った二人組を発見した。
「ガウルさん、マギラギさん」
「ん?あれミズキ?もしかして、ミズキもこの依頼に参加するのか?」
「ええ、まあ・・・」
瑞希が小声で二人に声を掛けると、二人はこんな所にいるとは思っていなかった瑞希に驚く。
「ミズキが、集団討伐に参加するなんて珍しいな!」
「本当にな・・・あ!もしや、シグルド様が目当てか?」
「ああ、なるほど」
ガウルとマギラギはそう二人で納得し、ニヤニヤした顔を瑞希に向けてくる。
「やっぱり、ミズキも女の子だよな~」
「そうだよな~格好いい男に惹かれるもんだよな~」
「え?シグルド様?私、全然興味無いけど?」
「「えっ!?」」
「確かに、シグルド様は超絶美形で格好いいとは思うけど・・・ただそれだけかな」
「あのシグルド様を、ただそれだけ扱いかよ!?」
「マジか!?だって、大抵の女達は・・・ほら、あんな感じにしっかり自分を着飾ってアピールする気満々なんだぜ?」
そう言ってマギラギは周りを見るように顎で示したので、瑞希はその示された方に視線を向けた。
その瑞希の視線の先には、様々な防具を付け武器を持った沢山の男達の中で、明らかに装備には不必要だと思う程のきらびやかな装飾や、アクセサリーを身に付けた女達がいたのだ。
さらに、誰が見てもハッキリと分かる程しっかりと化粧を施していた。
瑞希はそんな女達を見て、あまりの気合いの入り過ぎに少々引いてしまう。
「す、凄いね・・・」
「まあ、これが切っ掛けでシグルド様に見初められたら、完璧玉の輿だからな」
「それはそうだろうけど・・・私は絶対、そんな面倒な状態になりたくないよ」
「・・・本当にミズキは変わってるな」
「そうかな?」
「「そうだよ!」」
ガウルが呆れながら言った言葉に、瑞希は全く納得出来なかったのだが、そんな瑞希に二人は口を揃えてきっぱりと肯定してきたのだった。
そうして暫く三人で話していると、王都の兵が一人やって来て冒険者達から見えるように一段高い石段の上に立つ。
その兵の胸には勲章があり、肩飾りも他の兵とは違う色をしていたので、どうやら隊長クラスの人のようであった。
「え~冒険者諸君、こんなに沢山よく集まってくれた。総隊長のシグルド様に代わって礼を言おう。ありがとう。さて私は、今回のドラゴン討伐で行う作戦を説明しに来たマギドと言う者だ。一応隊長をしている。まあ私の顔など覚え無くても問題ないが、作戦だけはしっかりと覚えてくれよ」
そうマギドが言うと、辺りからどっと笑い声が沸き上がったのだ。
「さてさっそく本題に入るが、まず我がシグルド様が率いる本陣が先陣を切ってドラゴンの住まう岩場に突撃する。そして我々はそのままドラゴンと対峙するのだが、そこにはドラゴンに群がる沢山のモンスターがいる事が確認されているのだ。そこで君達冒険者の出番である。そのモンスター達を本陣から引き剥がし、撃退していってくれ。だが、なるべく本陣から遠く引き剥がすように。何故ならあまり近いと、ドラゴンと戦っている者達に支障を来たす恐れがあり、さらに今回討伐対象になっているドラゴンは大変凶暴だと言う話だから、君達の身の安全の為にもなるべく離れるように。これが今回の作戦だ、皆くれぐれも気を付けて頑張って欲しい。以上だ」
マギドはそう締め括り、石段を降りようとして何かを思い出しその場に踏み留まった。
「ああそうだ、言い忘れていた。なお今回の作戦で目覚ましい功績を上げた者には、シグルド様から直々に特別報酬を手渡しで受け取れる事になっているからな」
そうマギドが言った瞬間、冒険者達から大きな歓声が沸き起こったのだ。
男の冒険者達は追加の特別報酬に喜び、女の冒険者達は直々にシグルドと会えるとなって大いに喜んでいた。
そして例に漏れず、瑞希の側にいたガウルとマギラギも手を上げて喜んでいたが、瑞希は複雑な表情をしていたのだ。
(うん!私はシグルド様に会いたくないので、程ほどに頑張ります!)
そう心の中で決意し、喜びで沸き上がる人々を傍観していたのだった。
マギドによる説明も終わり、すぐに出発した瑞希達はローゼの町から少し離れた山に入って行ったのだ。
そこは木々が生い茂る深い森となっていたのだが、ここで木の伐採や狩をしていた人達によって道が作られていた為、特に道なき道を歩く心配は無かった。
しかし斜面が急な事と素人が作った道だった事で、お世辞にも歩きやすい道とは言えなかったのである。
その証拠に、先頭を行く王都の兵士は毎日厳しい訓練を受けているお陰か、特に辛そうな様子は微塵も感じられ無かったが、その後ろを歩いている冒険者達が悲惨だった。
確かに一部の冒険者達は、日頃自分で自分を鍛えているお陰で王都の兵と同じように平気で山道を歩いているが、それ以外がほとんど息が上がってへばっていたのだ。
特に無意味に着飾っていた、女冒険者達の姿は見れたものじゃ無い。
元々男冒険者より体力が劣っているのに、過度な装飾品を付けたせいで余計に体力が奪われてしまったらしく、ゼイゼイと激しく呼吸を繰り返し、額から流れ出る汗ですっかり化粧がグチャグチャになっていたのだ。
そして男冒険者達はそんな女冒険者達を見て、へばりながらもその女冒険者達から距離を取って歩いていたのだった。
そんな三者三様の冒険者達の一番後方に、瑞希はフードを目深に被り俯き加減で一人歩いていたのだ。
その姿は、傍から見ればすっかりへばっていると思われる姿なのだが、実際はそうでは無かった。
俯き加減の瑞希のその表情には、全く疲労の色が見えなかったのだ。
瑞希はチラリと前方の冒険者達を見て、苦笑いを溢す。
(・・・肉体強化と疲労無効の魔法、自分に掛けておいて良かった~!)
そう瑞希は皆の様子を見て、心底そう思ったのっだった。
そうこうしている内に、なんとか一人も脱落者が出ず目的の山頂付近まで全員が到着すると、王都の兵と瑞希達冒険者が一ヶ所に集められたのだ。
そこは今までの鬱蒼とした森が嘘のように草木が無く、ゴツゴツとした大きな岩がいくつも転がっている場所だった。
そして全員が集められた場所は、その中でも一際大きな岩がまるで壁のように連なっている場所だったのだ。
瑞希はこれから始まるドラゴン退治に、心臓をドキドキさせ期待と不安の入り交じった気持ちで俯きながら開始の合図を待っていた。
するとその時、周りにいた冒険者達がざわつき出す。
瑞希はそれを不思議に思いながら顔を上げると、大きめの岩に乗り兵士や冒険者達を真剣な表情で見渡しているシグルドがいたのだ。
「さあ、いよいよだ!皆、武運を祈る!」
そうシグルドは声高だかに言い、腰に差していた剣を鞘から抜いて掲げ上げる。
「突撃!!」
そのシグルドの合図と共に王都の兵士達は時の声を上げ、シグルドを先頭にその岩壁と岩壁の間の大きく開いていた場所から中に駆け出して行ったのだ。
すると次の瞬間、とてつもない大きな咆哮がその壁の向こうから聞こえてきた。
そしてそれを聞いた冒険者達は、各々の武器を手に取り兵士に続いて中に駆け込んで行ったのだ。
瑞希もそれに遅れないように、皆に混じってそこに入っていたのだった。
(うおおおおお!!デ、デカイ!!!!)
そう瑞希は心の中で叫び、だいぶ奥の方にいるのにハッキリとその大きさが分かる程の、とても巨大なドラゴンを目を見開いて凝視する。
(うわぁ~!うわぁ~!本物のドラゴンだ!!本当にゲームや漫画で見るようなあんな姿のドラゴンだ!!)
瑞希はドラゴンに見入りながら、感動に打ちひしがれていたのだ。
すると前方から何人かの冒険者達が、沢山のモンスターを引き連れて瑞希達の下に駆けてくる姿が目に入る。
(あ!いけないいけない!私も仕事しなくては!)
そう瑞希は思うとモンスターに攻撃魔法を食らわす為、向かってくるモンスターの群れに手をかざした。
しかしそこで、ふと瑞希は動きを止める。
(・・・えっと、標準の魔法の威力ってどんなもんなんだろう?)
瑞希はそう疑問に思い、チラリと他の魔法使いっぽい人の放つ魔法の威力を観察したのだ。
(なるほどなるほど、大体それぐらいが標準なんだね。なら私もそれぐらいに威力を抑えて・・・)
周りを観察し終えた瑞希は、頭の中で魔法の威力を調整しそして手から炎の玉をモンスターの群れに向かって放った。
するとその炎の玉を受けた一部のモンスターが、炎に包まれその場に崩れ落ちる。
そうして瑞希達、魔法を放てる者達の手によって次々と迫り来るモンスターの数を減らしていったが、さすがに全てとはいかず冒険者達の下に到着したモンスター達を、今度は武器を構えた冒険者達の手によって次々と倒していったのだ。
瑞希も襲ってくるモンスターを、密かに掛けていた速度アップの魔法のお陰で難なく避け、次々と魔法をモンスターに当てていく。
するとそんな瑞希に、ガウルとマギラギがモンスターをなぎ倒しながら近付いてきたのだ。
「おおミズキ!お前魔法使いだったんだな!」
「・・・ガウルさん、こんな時にそんな陽気に話し掛けられても・・・」
「まあまあ、こいつはいつもこうだから気にするなって。しかし、良い腕してるな~!やっぱり今度俺達とパーティー組もうぜ!」
「マギラギさん、いつも言ってるけどそれはお断り!私は基本的に一人が良いので。ただ今回はちょっと思う所があって参加しただけで、もう次は無いよ!」
「相変わらずつれないな~」
「まあ、そこがミズキらしいけどな」
そうガウルとマギラギは大きく口を開けて笑い合いながら、次なるモンスターを求めて瑞希の下を離れて行った。
「・・・相変わらずなのは、あなた達でしょうが」
瑞希はそう呟き、去っていった二人の後ろ姿に呆れた視線を向けたが、すぐに気を取り直し瑞希は暫くモンスター退治に専念したのだった。
そうして結構な数のモンスターを倒していた瑞希のすぐ近くで、突然男がモンスターに吹き飛ばされて倒れたのだ。
瑞希はすぐに、その倒れた男に襲いかかろうとしていたモンスターを魔法で撃退し、倒れて呻き声を上げているその男の側に駆け寄る。
「大丈夫!?」
「くっ、私とした事が油断した」
「あれ?あなたは・・・マギド隊長!?」
「私の顔を覚えててくれたのか・・・うっ!」
「ああ!動かないで!今治療しますから!」
そう瑞希は慌てて言うと、モンスターに付けられた血がどんどん溢れてきている腹部の酷い傷口に手をかざした。
すると瑞希の手から淡い光が現れ、マギドの傷口に降り注ぎ始めると、見る見るうちに傷口が塞がり跡形もなく傷が無くなったのだ。
「お、おお!もう全く痛くないぞ!」
「一応大丈夫だと思いますけど、完全に治ったかは分からないのであまり無理はしないで下さいね」
「ありがとう充分だ!・・・ハッ!治癒魔法・・・治癒魔法!!そうだ、君の名は何と言うのか?」
「え?・・・ミズキですけど?」
「ミズキか・・・すまぬ、君に頼みたい事がある」
「頼みたい事?」
「すまぬが・・・我ら王都兵が戦っている、前線に行って貰えぬだろうか?」
「え?・・・えええ!?」
マギドの申し出に、瑞希は驚きの声を上げて固まってしまったのだった。
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