ドラゴン退治
「あ、あの~確か冒険者は、前線に行かなくて良いと聞いたと思ったんですが・・・」
瑞希は頬を引きつらせながら、元気よく立ち上がったマギドを見る。
「ああ確かに私がそう言った。だが、我々が予想していたよりも戦況が悪かったのだ」
「そ、そんなにあのドラゴン強いんですか!?」
「うむ強い。あのシグルド様でさえ手こずっていらっしゃる程だ」
「・・・そんなに強いドラゴン相手に、私なんかが行っても足手まといになるだけじゃ・・・」
「ああ心配するな。べつにドラゴンと戦えと言ってる訳では無いんだ」
「へっ?じゃあ何しに前線へ?」
「君には、前線で傷付いた兵士の治療をして欲しいのだ」
「私が!?」
「君のその治癒魔法は、上級者並みの威力であるのを私が身を以て体験したからな。それだけの力があれば前線で傷付いている兵士の助けになる!」
そう言ってマギドは、真剣な表情で瑞希の手をガッシリと掴んできたのだ。
「すまぬ、どうか行って貰えぬだろうか?あのドラゴン、予想以上に強く多くの兵士が傷付いているのだが、そのせいで治癒魔法を使える者の手が足りず、怪我で苦しんでいる者が大勢いるのだ。シグルド様はその状況を見兼ねて、冒険者達の中で治癒魔法を使える者に救援を要請するよう私が仰せ付かったのだ」
「なるほど・・・だからマギド隊長がここにいるんですね」
「ああ、だから頼む!行ってくれないか?勿論危険な場所に行く分、別で報酬が出るように私から進言しておく」
「あ、いや、べつに報酬はどうでも良いんですが・・・」
必死に頼んでくるマギドに、瑞希は困った表情を向ける。
(う~ん、べつにドラゴンを間近に見れるから行っても良いんだけど・・・その近くにはシグルド様もいるんだよね・・・どうしようかな~)
そう瑞希は心の中で一人葛藤していた。
ちなみにこの間に、モンスターが二人を襲ってきていないのかと思われるだろうが、瑞希もマギドも其々魔法や剣で襲ってきているモンスターを次々倒しつつ話をしていたのだ。
「頼む!この間に我々の仲間がどんどん傷付き、最悪命の危機に陥ってる可能性があるのだ!」
「うっ!・・・はぁ~分かりました。行きますよ」
瑞希は、そうため息混じりに頷き渋々承諾する。
「おお!ありがとうミズキ!では早速気を付けて向かってくれ!私は他に、治癒魔法が使える者がいないか探す事にする」
「は~い。マギド隊長も気を付けて下さいね」
そう言って瑞希はその場でマギドと別れ、速度アップの掛かっている足で、ドラゴンが暴れている前線に向かって駆け出して行ったのだった。
前線に到着した瑞希は、想像以上に大きなドラゴンを目の当たりにして、一人大興奮をしていたのだ。
(うおおおおお!!デ、デカイ!!!やっぱり近くで見ると迫力が違うよ!!!)
瑞希はそう心の中で叫び、少し距離は離れているが大暴れしているドラゴンを目を見開いて凝視していた。
「うっ・・・」
「あ!ここに来た目的忘れる所だった!」
近くで呻き声が聞こえた事で、瑞希はここに来た目的を思い出し、慌ててフードを深く被り直して岩影に多く避難させられている怪我人達の下に駆けていく。
そこには大勢の負傷兵と、その負傷兵に治癒魔法を掛けている兵士がいたのだが、確かにマギドに聞いた通り負傷兵に対して治癒魔法の使える治療兵が圧倒的に少なかったのだ。
そしてその倒れ込んでいる怪我人に混じり、明らかに治療兵だと思われる兵士も一緒に横になっていた。
どうやら治癒魔法を使い過ぎて、魔力が尽きてしまっているようだ。
ちなみに瑞希の魔力に底があるのかと言うと・・・ハッキリ言って無い。
どうも聖女の力なのか、どれだけ魔法を使っても尽きると言う感覚が無いのだ。むしろ無限に湧いてくる感じである。
瑞希はそんな皆の様子に眉を顰めながら、急いで近付いて行った。
「すみません!マギド隊長から言われて、治癒の手伝いに来ました!」
「おおすまない!早速手伝ってくれ!!」
「は~い!」
そうして瑞希は、片っ端からどんどん治癒魔法を掛けていく事にしたのだ。
「す、凄い!すっかり良くなっている!」
「こんなに早く効く治癒魔法初めてだ!!」
「ど、どうしたらそんな治癒魔法使って疲れないんだ?」
瑞希が治癒魔法を使って治した兵士や、魔力が尽きてぐったりしている兵士から感謝の言葉や驚きの声を掛けられるが、とりあえず詳しく説明する気が無いので瑞希はひたすら怪我の治癒に専念する。
すると突然大きな歓声が聞こえ、瑞希は治癒の手を止めて岩影からドラゴンのいる方を覗き見た。
「うおおお!シグルド様、凄い!!」
その瑞希が見ている先で、シグルドが剣を華麗に操りドラゴンと対峙していたのだ。
瑞希はその様子を食い入るように見ていると、ドラゴンは鋭い爪をシグルドに向かって降り下ろしてきた。
しかし紙一重でシグルドはそれを避け、そして身を翻してドラゴンに一線を食らわす。
するとドラゴンは悲鳴に近い雄叫びを上げながら一歩後退し、すぐにシグルドに向かって口から炎を吐き出してきたのだ。
だがシグルドは剣を構え、その吐き出された炎をその剣で切り裂く。
(す、凄い!!ゲームで見てて、絶対現実では無理だろうなと思っていた動きを、シグルド様は難無くこなしている!!!)
その素晴らしい動きに、瑞希は暫く見とれてしまっていたのだ。
「うう・・・」
「ああ!ごめん!すぐに治癒するね!!」
足元で呻き声を上げている兵士に謝り、瑞希は急いでしゃがみ込んで再び治療を開始する。
そうしてある程度瑞希が怪我人を治癒し終えたその時、先程よりも一際大きな歓声があがり、瑞希はもう一度岩影の向こうを覗き見た。
まさにその瞬間、シグルドは凪ぎ払うかのよな動きでドラゴンの胴体を剣で切りつける。
するとドラゴンは、大きな断末魔の叫び声を上げその場に倒れ伏したのだ。
シグルドはその倒れたドラゴンをじっと見つめ、動かない事を確認すると持っていた剣から血を振り落とし、そして鞘に剣を納めた。
するとその瞬間、その様子を見ていた兵士全員から歓喜の声が沸き起こったのだ。
瑞希も思わず興奮して、手を叩いてシグルドを称賛する。
するとシグルドは、くるりとドラゴンに背を向け瑞希のいる方に顔を向けてきた。
そしてフードを深く被りながら、異様に興奮した様子で手を叩いてくる瑞希を怪訝な表情で見てきたのだ。
「・・・お前は・・・」
シグルドが瑞希を見て何か言おうとしたその時、息絶えたと思われていたドラゴンの目がカッと見開き、一気に立ち上がると背中を向けていたシグルドに向かって炎を吹き出してきた。
そんなドラゴンの動きにシグルドは一瞬反応が遅れてしまい、鞘から剣を抜きながら振り返るが間に合いそうに無かったのだ。
そして周りにいる兵士も突然の事に体が反応出来ず、ただ叫び声を上げる事しか出来ないでいたのだった。
「危ない!!」
そんな状況の中、瑞希はそう叫び咄嗟に両手を突き出してドラゴンに向かって魔法を撃ち出したのだ。
すると次の瞬間、ドラゴンの吐き出した炎と一緒にドラゴンの体が氷で覆われてしまった。
そして氷の割れる音が辺りに響きだすと、あっという間にドラゴンの体は氷と一緒に粉砕してしまったのだ。
そうして辺りには、キラキラと輝く氷の粒が飛来する。
シグルドとその場にいた兵士は、呆然とその光景を見つめ誰一人言葉を発しなかった。
しかし瑞希は、心の中で一人大いに焦っていたのだ。
(ヤ、ヤバイ!!!思わず制御せずに、思いっきり魔法使ってしまった!!!)
瑞希は背中にダラダラと冷や汗をかきながら、ゆっくりと手を下ろし一歩後退する。
しかしそんな瑞希を、シグルドが放っておいてくれる訳もなく、鋭い眼光で瑞希を見てきたのだ。
「おい!お前、その力は一体・・・」
シグルドは瑞希を鋭く見つめながら、足早に瑞希に近付いてくる。
瑞希はそんなシグルドを見ながら、この場をどう凌ぐかと焦りながら必死に頭を回転させていたのだ。
するとその時、後方の冒険者達の方から悲鳴に似た大きな叫び声が数多く聞こえてきた。
「た、大変です!モンスター達の血の匂いつられ、他のモンスター達が集まって来てしまい、後方は今大混乱に陥ってしまってます!」
そう一人の兵士が、傷付きながら報告に来たのだ。
「ちっ!仕方がない、話はまた後でだ。今はモンスター達の一掃が先決だ。よし!我々も冒険者達の援護に行くぞ!動ける者は私に付いてこい!」
「はっ!我等そこの者によって皆、すっかり完治しております!問題ありません!」
「なっ!あの人数の負傷者全員が完治したのか!?・・・やはり後で詳しく話を聞かせて貰うぞ!」
「ひっ!」
シグルドにジロリと見られ、瑞希は小さな悲鳴を上げる。
「では行くぞ!」
そうしてシグルドの合図と共に、王都の兵は今だ混戦状態の後方に向かって駆け出して行った。
瑞希はその様子を見ながらどうしたものかと思案したが、今逃げ出すと逆に怪しまれると思い、とりあえず瑞希も後方の応援に向かう事に決めたのだ。
そして瑞希はその混戦状態の中に身を隠し、シグルドに見付からないようにしようと考えた。
そうしてその考えの通り、他の冒険者に紛れてモンスターを次々と退治した瑞希は、作戦が全て終わり町に帰還する冒険者達の中に混じってなんとか町に戻ると、急いで冒険者ギルドのニルから今回の報酬を受け取り、すぐさま滞在している宿屋に逃げ帰った。
宿屋で借りていた自室に戻った瑞希は、急いで荷造りを始めこの町から出ていく準備をしていたのだ。
するとその時、扉をノックする音が聞こえ瑞希は体をビクッと震わせた。
「だ、誰?」
「ミズキちゃん?私だけど・・・」
「ああ女将さんか~どうかしたの?」
「え~と・・・なんかミズキちゃんを、王都の兵士さんが迎えに来てるんだけど・・・」
「え!?」
瑞希は驚き、急いで窓辺に近付いて宿屋の前の道を覗き見ると、そこには数人の王都兵が立っていたのだ。
「うげ!」
「・・・ミズキちゃんどうする?どうもミズキちゃんを連れていくまで帰らないつもりらしいのよ」
「うう・・・・・分かった。行きますと伝えて」
「・・・ミズキちゃん、本当に大丈夫?」
「ああうん。まあ、酷い事はされないと思うからさ・・・多分」
そうして瑞希は数人の王都兵に周りを囲まれながら、この町の領主の屋敷に連れていかれたのだった。
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