第2話 『ロングソードが追加されました』
「ん……」
ちゅんちゅんと小鳥が頭の上や布団(着替え用の服)で鳴いていた声で目を覚ます。木々の隙間から光が差し心地よい暖かさとなっている。
よいしょと立ち上がると着替える。脱いだ服をリュックにしまうと私は再び歩き出した。目指す先はない。ただ、村から離れるために歩くだけだ。
ふと空を見上げた。鳥が南に向かって飛んで行っている。
私にも風魔法があれば……そんなことを思うが自分が手に入れることはない。自分にあるのは目に見える力だけ、人より力があるというくらいだ。農作業を手作業でやっていたのだから当然だ。
物思いにふけっているとふと風の動きが変わった気がした。
「風上か?」
なにかあるのではないかと足を進める。木々の隙間から様子をうかがうと紅く長い髪を持つ一人の少女がオーク3体と対峙しているのが見えた。しかし助けようとは思わなかった。私にそんな力はないし行っても犠牲者が増えるだけだ。
そして私は背を向けその場を離れようとした。しかし、私があることに気が付いた瞬間、離れることをやめた。なぜなら絶望的な状況下にもかかわらず笑みを浮かべていたからだ。目は大きく見開かれ口からはよだれが垂れている。
「狂っている……」
そうつぶやくのと同時に少女はオークに飛びかかった。少女はその小さな体をうまく使いオークの手をかわし背中に上ると首筋にかみついた。
「OOOOOOOH!!」
オークが叫び声をあげる。オークは暴れるがどこにそんな力があるのか少女は離れない。仲間のオークが助けに入ってようやく離れた。しかしその際、首筋を噛みちぎっていたこともあってオークの1体は地に倒れた。その光景を見て私は戦慄した。どこかできれいに生きようとしていた自分がいた。命の奪い合いとはこういうものだと分かったいたはずなのに。
その瞬間私はオークに向かって走り出していた。もし私が客観的に自分を見ることができるなら少女と同じように目は見開かれていただろう。
『武具貯蔵庫から短剣を顕現します』
そう頭の中から声が聞こえるといつの間にか手には短剣が握られていた。私は雄たけびを上げるとオークはこっちを向いた。だがもう遅い、短剣の射程範囲だ。背の高いオークの股下を滑るようにくぐりながら太ももの内側を何度も切りつける。血が顔にかかるがお構いなしだ。
「アグッ」
横からもう一体のオークに横腹を殴られ吹っ飛ばされる。何度か地面をバウンドしてから木に叩きつけられた。
「ガハッ!」
口から血を吐き出すと手でそれをぬぐう。朦朧とした意識の中、私は笑っていた。地面を見るとオークの死体が一つ増えていた。それは私が切りつけたオーク。大量出血で死んだのだ。こんな魔法が使えないエルフでもオークの1体は倒せるのだと。しかし、関係ないと言いたげに残りのオークが近づいてくる。その際、かすれる視界で辺りを見渡したが少女の姿は見当たらなかった。
「最後に役立たずな私でも役に立ててよかった……」
オークがこん棒を持ち上げる。その行動は私の死を意味していた。そしてついにその瞬間が訪れる。
ズシャっと音がした。しかしそれは私の頭が叩き潰される音ではなかった。いつのまにか閉じていた目を開く。そこにはいまだに変わらず立っているオークがいた。いや、良く胸にはお花のように手が咲いていた。そして、その手が胸から引き抜かれるとオークが倒れその背後から血だらけの少女が現れた。
これほどの強さ……どうやら私の助けなんてなくともこの状況は切り抜けられただろう。私がやったことは単なる自己満足でしかなかった。
バカみたいだ、オークを1体倒すことができたのもこの少女が気まぐれで獲物の一頭を譲ったにすぎないということを私は助けただなんて思っていたなんて。
「おい、そこのエルフよ。なぜこんなところをさまよっておるのじゃ」
「え……?」
話しかけられた。私が妹以外に話しかけられるなんて何年ぶりだろう。
「あ、あっとえっと」
会話というものを忘れてしまったかのように言葉が出てこない。そんな私を見て少女はため息をつくと近づいてきて手を出した。
「何かしらの事情があるのじゃろう、どうじゃわしの所へ来ぬか」
「あなたの、所ですか……?」
「そうじゃ、今人手が足らんところでの」
まさか私を必要としてくれる人がいるなんて。
「お、おいこんな場所で泣くでない。わしが泣かせたみたいではないか」
「すいません、嬉しくてつい」
泣いている私の姿を見ておろおろとする少女。先ほどまで狂ったように笑っていた少女はどこに行ってしまったのかというほどの変わりようだ。そんな姿がおかしくて私は慰められたように感じた。
「う、うむ。準備は良いな。それでは行くぞ」
「は、はい!」
すたすたと早足で行ってしまう少女。
『武具貯蔵庫のレベルが上がりました』『ロングソードが追加されました』
この時、頭から再び声が聞こえたが先に行ってしまう少女を見た瞬間そのことはもう意識の外にあった。
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