第一話 【果ての果て】
私はとっくの昔に壊れていた。自分で言うのもなんだけれど普通ではなかった。
日常に紛れ込んだ侵略者。
そんなことを言われている感覚だった。
けれど気にしてはいなかった。だって大人たちは言ったもの。素晴らしい【個性】だと。
その言葉で私は『私』を良くしたんだ。変わりようのない事と変えようのない在り方が個性であると理解した。
私は与えられたことに喜んだ。無邪気に笑って踊って【歌って】喜んだ。それを罪だとは思わずにただ無垢なまま良い事だと思ったからだ。
当たり前だ。知らないことは分かるはずが無いからだ。罪人だ、忌子だ、悪魔だと言われようとも気づけない。
そうした私はこの世界の禁忌に触れた。
『罪を知らぬ忌子はただ無垢なる禁忌に触れる』
触れた私に誰かが言い放つ。誰も
音に合わせて言葉を紡ぐだけ。それだけで歌は意味を成してしまう。
たとえそれが喜びの歌であったとしても罪は罪。
ある日の森、私が犯した始まりの罪。
「世界に広がるガラスの庭。光を返す花が咲く。私は見つけた果ての果て。喜んでいて、笑っていて。私は駆けるの日の道を。私を見てて笑ってて」
歌う。歌う。私は禁忌を奏でている。光が射す緑の中。硝子の少女は心を語る。
溢れ出る言葉を音に乗せて空に飛ばす。
1人だから出来たこと。自分を納得させた喜びを飛ばす。
——原初の罪は再開される。溶け落ちた概念が動き出す。
「ここはそうよ光の森よ。安心してね、怖くないよ。まだ始まったばかりなの。だから貴方も歌いましょ」
手を伸ばして陽気に歌う。頭の中の花畑を吐き出すように、映し出すように。目を閉じて、笑顔で回る。
「さぁ、貴方も歌いましょ。さぁさ、こちらで回りましょ。私は楽しく歌ってる」
——世界は罪を思い出す。自らがかけられた呪いに従って。
繰り返される歌は世界を溶かしていく。祝福ではなく災禍の音色。
罪の歌は続く。
「世界は綺麗な硝子玉。光を浴びて光るのよ」
世界が開いてしまう私が犯した罪。奏でた罪。それら全てを束ねて世界は輝く。
叩きつけられた言葉に世界は震える。
「私は始まりを歌ったわ、貴方は最後を歌ってね。綺麗に綺麗に奏でましょう」
ガラスの花が咲く。木々は全て光を返す。
私が歌う罪は明るく、どこまでも輝いていた。
——きっとこれが私の世界
硝子人形は踊らない 楠木黒猫きな粉 @sepuroeleven
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